今回、アメリカ最大のエネルギー企業エクソンモービル(XOM)を紹介してみましょう。もちろん、XOMの存在を知らない米国株投資家がいるはずありません。
しかし、XOMの説明には、石油の時代が終焉に至るのか、これからも続くのかが最も重要です。その見通しについても言及していきたいと思います。
目次
エクソンモービル(XOM)
連続増配の高配当企業 エクソンモービル(XOM)
エクソンモービル(XOM)は配当を重視する投資家のなかでは非常に人気のある銘柄です。
もともと、石油・ガスのようなエネルギー企業は高配当で知られています。しかしそれでも、S&P 500インデックスのなかで、20年以上連続して増配している企業はたった2社に過ぎないのです。
当然、エクソンモービル(XOM)は、その2社の1つです。
では、もう一つの連続増配記録をもつエネルギー企業とはどこでしょうか。
言わずと知れたシェブロン(CVX)です。
XOMは36年以上連続して毎年配当を増やしてきました。さらに、現在、S&P 500の平均利回りをはるかに上回る4.55%配当利回りに達しています。
2016年の原油価格暴落の記憶にもあるように、原油の市場価格は容赦なく市場に翻弄されていきます。そのような環境で連続増配を続けることができる背景には、XOMが業界のリーダーであることに加え、強力なバランスシートがあることは言うまでもありません。
沿革
エクソンモービル(XOM)とシェブロン(CVX)はともに、源流はロックフェラーの創業したスタンダードオイルにたどることができます。
スタンダードオイルは、1870年にジョン・ロックフェラーによって設立されました。ロックフェラーは情け容赦ない買収で事業を拡大し、買収に応じない企業には、銀行からの融資を打ち止めや、鉄道会社による運搬を打ち切るように圧力をかけ、経営危機に追い込んでいきました。そうして、スタンダードオイルは、米国の石油産業を支配を確立したのです。
しかし、飛び抜けた独占体制から1911年に反トラスト法により33社に分割されました。
当時は共和党大統領セオドア・ルーベルトによる反トラストの嵐が吹き荒れた時代でした。大統領は、巨大資本を『富の専制支配』と糾弾し、労働者への富の分配を要求しました。そうして、40以上の巨大財閥を解体に追い込んだのです。(参照『アメリカタバコ帝国の崩壊』)
しかし、33社に分割されたスタンダードオイルは、その後に立法の盲点をつきながら合併を繰り返し、現在のXOMとCVXの2社にまで統合が進みました。
保守的な経営方針
もともとXOMは、コスト管理を重視し、収益性の高い成長機会にのみ投資する保守的な戦略をとってきました。このような戦略によって、XOMは永続的に企業を存続させるだけでなく、長期的にわたり莫大な利益を生み出してきました。 現在でも、XOMは業界トップクラスの資本収益を生み出しています。
現在、XOMの時価総額は3030億ドルに達し、年間売上高は2900億ドルを超えています。
3つの事業セグメント
XOMは、その保守的な経営方針から石油とガス産業のすべてのセグメントににわたってバランスの取れたビジネスモデルを展開し、リスク分散を図っています。その事業セグメントは以下のとおりです。
上流(収益の57%)
下流(収益の24%)
化学製品(収益の19%)
上流セグメント
上流セグメントには石油とガスの探査と生産が含まれます。通常は上流での利益率が高くなります。しかし、上流は2016年のような原油暴落に対して極めて脆弱なセグメントでもあるのです。さらに、油田やガス田の開発には莫大な投資が必要であるために、リスクも高くなります。
下流と化学製品のセグメント
XOMは、原油の下落にそなえ、下流と化学製品のセグメントも強化していました。
下流セグメントには精製と販売が含まれます。
化学製品セグメントには、ナイロンやプラスチックの生産が含まれます。
原油暴落からの回復
2014年末からの原油暴落は、2016年初頭には、1バレル20ドル台に突入し、原油市場は大打撃をうけました。米国最大のエネルギー企業であるXOMも例外ではありませんでした。
しかし、2018年には原油価格は大きく回復し、一時期1バレル当たり70ドルを超えるまで上昇しました。それにともない、XOMの業績も改善し、複数の大規模プロジェクトの開発をスタートしています。
ファイナンス
2018年第三四半期の決算
直近の決算である2018年再三四半期では、上流セグメントが大きく回復しました。2017年の同期とくらべて、利益が269%も上昇したのです。
対して、下流のセグメントの改善は、利益が7%上昇するに留まりました。
さらに、化学製品セグメントの利益は、35%低下しました。化学製品にとって、原油価格の上昇は材料費の高騰にほかなりません。利益が低下することは当然といっていいでしょう。
売上・キャッシュフロー・純利益
グラフより、売上が大きく変動していることが理解できるでしょうか。XOMほどの巨大企業ですら、原油価格の決定力はなく、原油市場に翻弄されているのです。
配当
では配当はどうでしょうか。XOMは、35年連続増配企業であるとともに、配当利回りは4.55%もの高配当に達しています。
問題はその配当が維持されるかということです。
2018年度第3四半期の決算では、一株当たりの利益は1.46ドルでした。一方、1株あたりの四半期配当は0.82ドルであり、その配当性向は56%でした。決算を見る限り、配当は安全といっていいでしょう。
また、2016年のような壊滅的な原油価格暴落や今後の景気後退でキャッシュフローが配当をカバーすることができない場合には、XOMは強力なバランスシートを活用して配当義務を果たしていくことでしょう。
化石燃料の時代が続くと考える理由
しかし、配当が維持される前提は、化石燃料の時代が続くことです。もしも、石油の時代が終焉するなら、さすがの強力なバランスシートであっても配当を維持することはできません。
その鍵は、再生エネルギーが化石燃料にとってかわるかということです。
電気自動車普及によるガソリン需要の低下
現在、原油消費の40%は、輸送燃料として使われています。その大半が自動車燃料であるガソリンとして使われているのです。
しかし、今後ガソリンエンジンによる自動車は過去のものとなり、電気自動車の時代が到来することが予想されています。将来、ガソリン自動車は過去のものとなり、自律走行式の電気自動車になるかもしれません。
そうすれば、化石燃料のガソリン需要は激減することは疑いありません。
再生エネルギーの普及
では、電気自動車の電力はどのように供給するのでしょうか。
確かに、動力源として、太陽光による発電技術の開発も進められています。そうなれば化石燃料の需要は激減するように思えそうです。
しかし、太陽光発電が化石燃料にとってかわることは不可能です。もしも、日本のすべての電力を太陽光発電で補おうとするなら、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の面積すべてにわたり太陽光パネルを設置しなくてはいけません。日本の8割は山岳地帯です。森林を切り開きパネルを埋め込むことは甚大な自然破壊をもたらすことは言うまでもありません。
さらに風力発電として利用できる地域も極めて限定されています。
再生エネルギーが化石燃料にとってかわることは非現実的と言わざるえません。たとえ、電気自動車の時代が到来したとしても、その電力源は化石燃料であることはかわりありません。
アメリカ合衆国エネルギー省(EIA)やBPの研究機関の予想でも、今後2040年までに 石油と天然ガスの需要は、再生エネルギーよりも大きく増加すると予想されているのです。
特に、天然ガスこそが、将来の電力をまかなう主要なエネルギーといわれているのです。
エクソンモービルの将来の布石
ガス田開発
将来の電力需要をまかなう鍵となる天然ガスについて、XOMには多くのプロジェクトを開発しています。
なかでも、パプアニューギニアやガイアナ沖およびモザンビークのガス田は極めて大規模な開発です。 特にガイアナ沖では、今回を含め5回にもわたり大規模ガス田の発見に成功しています。
シェールガス開発
シェールガスの開発により、世界最大の産油国の地位は、サウジアラビアからアメリカ合衆国に移りました。
XOMはシェールガス開発についても開発を進めています。
シェールガス開発は、EOG Resources(EOG)のような独立系企業が先陣を切っていました。そのために、XOMをはじめ従来のオイルメジャーは、参入に大きく出遅れていました。
しかし、XOMは、ゆっくりとではあるものの着実にシェールガス開発である水平掘削と水圧破砕の技術を習得してきました。そうして、2017年には、XOMはCVXの5倍を超える約6500本の水平井戸を建設したのです。とくにXOMは、テキサス州やニューメキシコ州のシェール開発には極めて有利な地域を押さえています。
結論
石油とガスの生産の利益は原油価格に大きく依存しており、年によって大きく変動します。 XOMですら価格決定力を持つことはできず、市場に翻弄されます。
2014年末からはじまった原油価格の大暴落は、XOMにも大きな打撃を与えました。しかし、石油価格はわずかながらも着実に回復し、2018年には1バレル当たり70ドルを超えるまでに達しました。しかし、年末にかけて原油価格は暴落し、現在1バレル50ドル台にまで下落しています。急激なボラティリティから、XOMの業績も大きく変動することは疑いありません。
しかし、太陽光や風力のような再生エネルギーだけで、世界の需要をまかなうことはできません。石油や天然ガスの需要はこれからも増加していくことと考えていいでしょう。
現在、化石燃料の将来を悲観視する意見もあります。しかし、そのような意見により安値となっているときこそ配当再投資で株数を増やすことにより、将来の資産拡大に資するものと考えます。
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