アメリカの薬局業界は2社に支配されています。今回はその1社Walgreens Boots Alliance(WBA)を紹介していきます。
WBAは今年新たにダウ平均構成銘柄30種の1つになるとともに、42年連続の増配銘柄でもあるのです。
目次
新ダウの盟主とAmazonの脅威
最近、薬局チェーンについての話題がつきません。
今年2018年6月19日に1世紀余りにわたってダウ構成銘柄に組み入れられていたGEが除外されました。
GEのかわりに新しいダウ盟主の座についたのは意外にもドラックストア大手Walgreens Boots Alliance(WBA)だったのです。
Facebookがダウ平均銘柄になるとの噂が強かったことから、WBAがダウ平均銘柄となることは多くの投資家にとっては意外でした。それは、WBAやその株主にとっては予想外の喜びであったことは想像に難くありません。
しかし、6月28日にAmazonが処方箋ビジネスに参入することが明らかになりました。処方箋ビジネスはドラックストアのもっとも大きな収益源であることは言うまでもありません。新しいダウの盟主は就任してすぐにアマゾンの脅威にさらされることになったのです。
ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)
アメリカのドラックストア市場
まずはWBAについて説明していきましょう。
現在、アメリカ国内のドラックストア市場はWBAとCVSヘルス(CVS)の2社に支配されています。ドラックストア市場は少しずつ2社へと集約されていき寡占市場を形成してきました。
ウィルグリーン・ブーツ・アライアンスの沿革
その1つであるWBAはアメリカ中に店舗を展開し、網目のような流通ネットワークを形成するとともに、強力なブランドと100年以上の伝統を持つ業界のリーダーです。
さらに高齢化社会よりさらなる成長の余地があります。その優位性は42年にわたり年間配当の増加させてきた実績にも現れています。
米Walgreensは1901年に設立されました。Walgreens社は2014年に欧州のAlliance Bootsと合併しました。この合併により、米国と欧州にまたがる世界最大のドラックストアチェーンが生まれました。現在、WBAは11カ国に13,200店舗を展開しています。
WBAはグローバル製薬卸売および流通ネットワークの1つも運営しています。390以上の流通センターがあり、年間23万以上の薬局、医師、保健センター、病院に医薬品や医療機器を供給しています。
WBAは25カ国以上で385,000人以上の従業員を擁するヘルスケアの巨人といっていいでしょう。
買収による成長
WBAの米国における最も重要な成長エンジンは持続的な買収です。
2017年にWBAは全米3位のドラックストアRite Aid(RAD)の1900以上の薬局、3つの物流センターを4億7500万ドルで買収しました。
Rite Aidとの取引により、WBAの利益成長は更に加速されることになりました。それは売上の上昇のみならず、大幅なコスト削減をもたらすことが予想されます。経営陣は2021年までに年間3億ドル以上のコスト削減を実現することを目標にしています。
そのような買収による規模の拡大により、強い競争優位性が築かれました。
現在アメリカ国民はのほとんどはWBAの店舗の近くに住んでいます。そのような良好なアクセルとともに、約400の流通センターがあり、約23万の薬局、医者、保健所、病院に医薬品を提供する網目のような流通ネットワークを保有しています。
10年間の決算
10年間の売上、キャッシュフロー、純利益のグラフを見てみましょう。持続的な成長を確認することができます。
小売りのために利益率が低くなります。キャッシュフロー、純利益のみのグラフと見てみましょう。
配当
42年連続し増配しており、配当利回りは2018年6月30日時点で2.94%です。その配当性向は40%程度であり、配当余力は十分にあります。
四半期決算
全体の収益
第3四半期の売上高は14.0%増加しました。営業利益は7.3%増、当期純利益は15.5%増です。最終的に1株当たり利益は26.2%の増加にもなったのです。
セグメントを細分化しての収益
ウォルグリーンは3つの財務セグメントで事業を展開しています。それは、
①米国内ドラックストア
②米国外ドラックストア
③医薬品卸売業
の3つです。WBAの事業を理解するには各事業セグメントを単独で分析することが必要です。
①米国内ドラックストアの収益
WBAの最大の収益源である①米国内ドラックストアから始めます。
米国内ドラックストアは、第3四半期に15.0%の優れた売上高を達成しました。しかし、既存店の売上高は-1.2%と低迷しています。これは、売上高の増加の大部分がRite Aid(RAD)の薬局買収により増加した店舗から生じたことを示しています。ただし、合併による一時的な支出から、営業利益の増加は2.0%に留まっています。
ドラックストアには、小売と処方箋薬の2つの異なる売上ルートがあります。それぞれのルートを検討する必要があります。
小売部門は非常に低調でした。小売の売上高は5.2%増加したものの、既存店の小売による売上高は3.8%も減少しました。
しかし、処方箋薬の売上高は19.3%も増加し、処方箋数も11.8%増加しています。 WBAの強力な財務基盤は、米国内での処方箋薬によって支えられていたことは間違いありません。
②米国外ドラックストアの収益
②の米国外ドラックストアでは、収益はあまり強くありませんでした。売上高は2.1%減少し、営業利益は9.3%減少しました。
③医薬品卸売業の収益
WBAの最後の事業セグメントは③医薬品卸売業であす。医薬品卸売業は、売上高が4.0%増となり、営業利益も0.4%増加しました。利益の減少は、コストの増加であり、Cardinal Health(CAH)、McKesson(MCK)、AmerisourceBergen(ABC)など、他の多くの上場医薬品の流通業者も現在経験している構造的な要因です。WBAの経営上に問題はありません。
ガイダンスでの上方修正
WBAが良好な決算によりは2018年度のガイダンスを上方修正しています。経営陣は、調整済みの1株当たり利益を5.85ドルから6.05ドルに上げると予想しました。
株価下落
しかし、そのような良好は業績と高い参入障壁にもかかわらず、株価は2015年の96.63ドルをピークに下落を続けています。2018年6月30日現在は60.015ドルであり、3年かけて37%も株価が下落したのです。
一株当たりの利益は持続的に上昇しています。今年の予想PERは9台にもなるのです。
Amazonの処方箋ビジネス参入
株価下落の理由は簡単です。Amazonの驚異に他なりません。
Amazonによる処方箋ベンチャー買収
2018年6月28日の第3四半期の決算発表のまさにその日に、Amazonがヘルスケア企業買収を発表しました。
その企業はpill packという2013年に設立された非上場の処方箋ネット調剤のベンチャー企業です。
2017年7月時点で4万人への調剤の実績があり、オンラインで飲む薬剤を日付の記載した袋にいれて郵送で届けるシステムです。飲む日付を記載することで飲み忘れを防ぐとともに、分包作業をロボット化や日常業務を自動化するソフトウエア開発により効率化を推進しています。
かつてアマゾンは1999年に医薬品や化粧品のネット小売業者ドラッグストア・ドット・コムを買収しています。このときアマゾンのベゾスCEOは薬価を押し下げることで実店舗の薬局からシェアを奪えるとと考えていました。
しかし、書籍業界と同様の変革をもたらせることはできませんでした。
20年経過し、Amazonは当時の最大の時価総額であったMicrosoftと争うほどの成長しました。
今年に入りAmazon はBerkshire Hathaway(BRK.B)とJPMorgan Chase(JPM)とで合弁でヘルスケアへの参入を表明しました。
しかし、当初は処方箋ビジネスの参入は頓挫しました。
多くの製薬製品は温度に敏感であり、特定の温度で倉庫に保管する「コールドチェーン」を構築する必要があります。 Amazonは「コールドチェーン」構築のノウハウがなく参入が困難だったのです。
しかし、今回オンライン処方箋企業を買収しました。この買収で、「コールドチェーン」を構築する基礎はできました。さらに、50州での処方箋のライセンスや大手薬剤給付管理(PBM)へのアクセスも確保できました、今回の買収ですべての法的な参入障壁は取り払れました。
Amazonのヘルスケア参入によりWBAのビジネスモデルが持続不可能となる懸念すら抱いているアナリストもいます。
しかし、買収したネット調剤ベンチャーのpill pack利用者数は1年前で推定4万人。現在でも10万人には到達していないと推定できます。もちろん、非公開企業のために正確なところはわかりません。
WBAのオンライン対策
対するWBAは既にオンラインで処方箋を記入できる体制を構築しています。直近の四半期には、WBAの処方箋の20%以上がデジタルチャネルを通じて調剤されています。前年比3%増でした。
iPhoneとAndroidのWBAの処方箋アプリは5000万回以上ダウンロードされており、Apple App Storeには5つ星のユーザー評価があり、ユーザー評価は100万を超えています。WBAのオンライン調剤はすでに実現されています。
そのアプリで処方箋薬をオーダーし、最寄りのWBAの店舗での受け取りや提携しているFedEx(FDX)によって自宅への配達も可能となっています。
結論
ドラックストア業界の見通し
Amazonの懸念は不確実性を生み、この長い歴史を持つ優良企業を安く買う機会がもたらされました。しかし、それはWBAのビジネスがAmazonにより破壊されないことが前提です。
恐らくはAmazonによりある程度のドラックストアの再編は起こるでしょう。しかし、WBAとCVSが破壊されることはありえないでしょう。WBAやCVSが破壊されるなら、2社以外のドラックストアはすべて全滅しています。それは、Amazon以外で調剤薬を購入できない社会の到来を意味します。まず、あり得ないでしょう。Amazonにとっての最大の成功はWBAとCVSと3社での寡占市場の形成までと考えます。
ドラックストアの特殊性
ドラックストアでの競争は書籍や家電の販売とは全く異なります。この勝敗を決する主導権は、AmazonにもCVSにもWBAにもないのです。では誰が主導権を握っているのでしょうか。それはいずれ別の記事で述べていきたいと思います。
投資方針
私自身は、以前よりAmazonがヘルスケア参入との報道から値下がりしているWBAとCVSを少額購入しています。ヘルスケアは規制が多く変化はゆっくり進みます。値下がりをみながらゆっくりと買い増す予定です。
ただし、読者にはあえてそのような投資スタイルは推奨しません。バリュー投資には才能はいりません。必要なのは忍耐が必要です。しかし、忍耐といっても簡単ではありません。原油下落にときにナンピンしたオイルメジャー株は現在大きく利益が出ています。興味があれば損失に耐えることができる資金内で投資をしてみてもいいでしょう。しかし、投資すべきかどうか聞かれるならインデックスの積立投資を推奨します。
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