前回、堀江貴文氏によるライブドア創業からライブドア事件直前までを見てきました。
近鉄バファローズ買収で一躍有名となった堀江氏は、その後、ニッポン放送買収や、衆議院選挙出馬で、時の人となっていきます。
しかし、その影で東京地検特捜部がライブドアの捜査を開始していたのです。
目次
日本の未来を犠牲にした偽りの好景気
2005年株高の背景
2005年夏の小泉純一郎首相は、大衆煽動の手法を駆使した郵政選挙を展開していきます。堀江氏は選挙に敗北したものの、自由民主党は圧勝しました。市場も小泉首相の記録的な大勝を好感します。秋に11000円の日経平均は、年末には16000円と急激に上昇したのです。
もはや日本経済は停滞を抜け出し、かつての力強さを回復したと思われました。
しかし、その景気回復は、偽りの回復に他ならなかったのです。日本の将来を犠牲にし、一時的な景気回復に酔いしれたに過ぎなかったのでした。
素材や製鉄、そして工作機械が飛ぶように売れました。買い手は中国です。人件費の低さから、安かろう悪かろうの評価に甘んじていた中国産業は、次の段階に移行しつつあったのです。日本の工作機器や機材を大量に輸入し、日本のハイテク産業に対峙する態勢を着々と整えていたのです。
当時の中国は、高度成長期の日本が数ヶ国あるような規模で拡大していました。日本は、その中国に工作機器を売却することで、一時的には収益を上げ、景気が回復していたのです。
しかし、中国が先端工場の稼働を完成させれば、日本にとって手強いライバルが出現することに他ならないのです。
若い世代を育てる中国共産党
古来より中国では、黄河文明が発祥し、漢帝国、唐帝国、清帝国と世界の頂点となる大国が誕生してきました。また、宋帝国の時代には、ルネッサンスの三大発明である活版印刷・火薬・羅針盤が500年も早く生み出されました。しかし、輝かしい中国文明も18世紀に西欧諸国の勃興から、衰退の一途をたどり、貧困に沈んでいました。
アヘン戦争、内戦、毛沢東の暴政で荒廃した国土を立て直すために、鄧小平は出身に関係なく教育を与え、中国人の基礎学力を向上させていきます。
鄧小平の政策は実を結び、日本のロスジェネ世代の中国人は基礎学力とともに、起業家精神にも満ちあふれた世代に育っていきます。
中国共産党は、その世代の起業を支援する環境を整えていきます。そこから、アリババや、テンセント、バイドゥのような革新的企業が創業され、発展していくことになるのです。
200年近い停滞を脱し、中国が再び超大国として不死鳥のように蘇りつつあったのです。
若い世代を食い物にする日本の財界
一方、日本の産業界は、若い世代を安い労働力としか見なさなかったのです。
当時の財界の発言を集めてみましょう。
奥田 碩(日本経団連名誉会長 トヨタ自動車相談役)
「格差があるにしても、差を付けられた方が凍死したり餓死したりはしていない」南部靖之(人材派遣会社パソナ社長)
「フリーターこそ終身雇用」御手洗冨士夫(キヤノン会長、日本経済団体連合会会長)
「偽装請負は法律が悪い」
「派遣労働が低賃金なのは当たり前。気ままに生活して賃金も社員並みというのは理解できない」
ロスジェネの世代は、もっとも受験の厳しい時期を過ごし、高い基礎学力をつけていました。しかし、企業はその世代をビジネスマンとして育てる世代と見なさず、消耗品としか扱わなかったのでした。
年収1000万円の働かないオジサンの雇用を守ために、その世代を将来を犠牲にしたのです。ロスジェネ世代を犠牲にしたことにより、その後、加速度的に少子化が進行し、人材不足が日本を襲うことになります。
当時の株高は、未来を犠牲にした一時的な好景気に過ぎなかったのです。
さらに、日本は、ロスジェネ世代から這い上がった若き経営者をも葬ることになるのです。
ライブドア事件
ライブドア家宅捜査
2006年1月16日、東京地検特捜部はライブドアの家宅捜索を開始しました。
強制捜査の報告を受けたマスコミ関係者は、まず自分たちの保有するライブドア株を売却します。そうして、インサイダー取引スレスレの売却が無事に成立したことを確認し、ようやくライブドア強制捜査を報道したのです。
報道をうけ市場は大パニックに陥りました。特にジャスダックやマザーズの新興市場への影響は凄まじく、IT関連株が軒並み売られる事態を引き起こしたのです。そうして、翌々日にはついに東証のシステムがストップしてしまいます。
六本木ヒルズの堀江貴文宅や野口氏の自宅にも捜査が入りました。
中国に出張していたライブドア宮内CFOも、電話で捜査を聞き、急遽中国から帰国しました。
謎の密室殺人事件
そして1月18日、衝撃的な事件が起こります。
ライブドアの企業買収戦略に欠かせない存在だった野口英昭氏が沖縄のホテルで自殺したことが伝えられたのです。
野口氏は、ライブドアが上場する際に招かれた証券のスペシャリストです。2002年にエイチ・エス証券の副社長に招かれた後もライブドアに企業買収に深く関与していました。
野口氏が宿泊していた沖縄県那覇市のホテルは内側から鍵がかかっており、警察は自殺と断定しました。
しかし、状況からは自殺とは到底考えられない状況だったのです。
沖縄のホテルにある非常ブザーが鳴り、従業員が駆けつけたところ野口氏がベッドの上で血まみれで倒れているところが見つかります。
腹部は内臓が飛び出すほど深く切られ、左右の首にも深い刺し傷があったったのです。
左の頚動脈を切れば、血圧が低下して意識がなくなるために右の頚動脈まで切ることは不可能です。
そもそも、自殺で腹部とともに左右の首の動脈を刺すでしょうか。
自殺を選んだ人物が、自分で非常ベルを押すのでしょうか。
しかも、そのカプセルホテルは、みすぼらしいペンシルビルで、現在でも1泊2980円です。若くして証券会社の副社長にまで上り詰めた人物が死を選ぶ場所ではありません。
すぐ近くに琉球大学医学部があるにもかかわらず、沖縄県警は司法解剖すら請求しません。
事件を不審に感じたあるルポライターが沖縄県警に取材を申し込んだところ、『おれたちが自殺だと判断したら、それは自殺なんだ!かき回すな』怒鳴りつられ、取材は中止に追い込まれます。
野口氏の死亡は、手際のよさから、裏社会のプロによる殺人と考えられます。沖縄県警もそのような面倒な事件から早く手を引きたいと考えたのでしょう。
ライブドア事件の粉飾決算
堀江氏にメリットのない複雑な資金の流れ
ライブドア事件で、粉飾決算では、自社株の売却が利益に計上されたことが本丸となっています。その資金の流れは複雑であり、多くの方はそこで理解することを諦めます。
しかし、資金の流れよりも、どうしてそこまで複雑なのかという背景が重要です。複雑な資金の流れは、資金洗浄で使われる手法に他ならないのです。
資金洗浄を粉飾決算を使う場合は、まず横領か背任があります。会社の資金の持ち逃げを隠すために複雑にしているのです。横領と背任で利益を得る者こそが主犯に他ならないのです。
堀江氏が横領や背任に関与するはずありません。創業者である堀江氏にその必要はありません。それどころか、コストとリスクを考えた場合に、堀江氏には何のメリットもありません。
資金洗浄には、多くの中継地点を経由するために高いコストがかかります。
しかも、資金洗浄の舞台は香港です。油断も隙もない香港人にいつ持ち逃げされるかわかりません。リスクが高すぎます。しかも、持ち逃げられてもアングラの手段を使っているために、取り返す手段がないのです。
堀江氏以外の横領や背任で巨利を得た人物が主犯と考えた方が合理的です。
堀江氏にメリットのない利益計上
ライブドア事件では、自社株の売却を利益に計上したことが虚偽記載とされています。しかし、利益に計上すれば、法人税がかかることになります。その点も、創業者の堀江氏にとって何らメリットはありません。
検察は、自社株の売却を増資と同じように捉えるべきであると非難します。しかし、自社株の売却による莫大なキャッシュフローを利益に計上しないで、増資と扱うなら法人税はかかりません。堀江氏のとって好都合です。
堀江氏が粉飾決算を主導したと考えることはあまりにも不合理です。むしろ、経営者として財務は丸投げしていたと考えた方が自然です。その財務担当者の背後に巨額の利益をえた主犯がいるはずです。しかし、野口氏殺害により、真相は藪の中に消えていきます。
東京地検特捜部
野口氏の死亡により東京地検特捜部の捜査は初動から大きく躓くことになったのです。
東京地検特捜部は、最強の捜査機関とも言われています。それは、ロッキード事件、金丸信脱税事件等の難事件を解明したことからも明らかです。
難関の司法試験合格者のみが検事になることができます。その中で実績を上げたエリート中のエリート検事が、東京地検特捜部に着任します。そこで、経験を積んだのち、法務省内でのエリートコースを歩んでいくのです。
しかし、エリート集団であることから、自らのメンツを重視する組織でもあるのです。
日本では、起訴された場合には、99.9%有罪となります。いくら検事が優秀といえども人間です。99.9%正確に判断することは不可能です。刑事訴訟法学者の多くは、そこに多くの冤罪を指摘します。
しかし、有罪率99.9%である以上、刑事裁判で無罪判決を食らうなら、検事としての経歴の汚点となります。無罪判決を受けた検事のほとんどは職を辞し、弁護士として再出発を余儀なくされるのです。
エリート街道を歩む東京地検特捜部の検事にとって、大規模事件となったライブドア事件で無罪判決を受けることは、検事としてのエリートコースの終焉を意味します。
しかし、ライブドア事件では、野口氏の死亡により資金洗浄の解明が困難となったのです。
強制捜査で後に引けなくなった検察官にとって、無罪判決の汚名を負うことできません。何としても有罪の持ち込むことが絶対に必要なのです。知名度の低い幹部ではなく、堀江貴文氏の有罪判決を勝ち取ることが必要なのです。
野口氏の死亡により真相解明は不可能となりました。しかし、逆に堀江氏主犯の立件への障害がなくなったのです。こうして、堀江氏主犯という検察にとって好都合なリナリオを展開する途が開かれたのです。
1月23日に、東京地検特捜部は、堀江貴文氏の逮捕状を東京地裁に請求します。
(追記)
今回の記事は、検察に批判的な内容となっています。しかし、それは検察庁の一面を強調したに過ぎません。私たちが日本で安全に暮らしていける背後には、警察官や検事の方々の過酷な勤務があることは忘れてはいけません。
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