今回、21世紀最大の発見について記載していきましょう。
産業が急激に発展する時には、その背後に革命的な大発明が生み出されています。
21世紀最大の発明も、今後の社会を大きく変えていくことに疑いはありません。
目次
21世紀最大の発明
21世紀最大の発明とは
それでは、21世紀最大の発明は何でしょうか。
iPhone?
検索エンジン?
ブロックチェーン?
人工知能?
すべて違います。
21世紀最大の発明は日本から生まれたのです。
研究者となるための大学院受験
後に偉大な発明をもたらす研究者が、大学院を受験した時のことを記載してみましょう。
受験したものの、学生時代にかじった程度の知識しかなく、面接官の質問にしどろもどろとなってしまいます。このままじゃ落ちると思い、面接の最後に破れかぶれに声を張り上げたのでした。
『僕は薬理のことは何も分かりません。でも、研究したいんです! 通して下さい!』
面接した教授は後に『あのとき叫ばへんかったら落としてたよ』と語っています。その破れかぶれで叫んだ研究者こそ、2012年にノーベル医学生理学賞を受賞することになる山中伸弥教授です。
もちろん、21世紀になってまだ18年。これから、偉大な発見があるかもしれません。しかし、現時点では、21世紀最大の発明はiPS細胞をおいて他にはないのです。
iPS細胞
iPS細胞とは何でしょうか。
人間の体は、約60兆個の細胞からなっています。しかし、その60兆個の細胞も最初は1つの受精卵から始まるのです。受精卵が細胞分裂を繰り返し、分化することで、骨や肺、心臓、脳のような様々な臓器になっていくのです。
受精卵のように様々な細胞に分化していく可能性のある細胞を万能細胞といいます。
いままでは、受精卵のような幹細胞が肝臓や皮膚のように分化することはあっても、いったん分化した細胞が万能細胞のようにあらゆる組織に分化できる細胞に戻ることはないと言われていました。
それがiPS細胞により可能となったのです。iPS細胞から、肝臓や腎臓も人工的に作成できる途が未来に開かれることになったのです。
『人生万事塞翁が馬』
ジャナマカ
輝かしい業績から若くしてノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授。しかし、研究者としての人生は、本人によれば『人生万事塞翁が馬』といべき挫折続きのエリート街道とはほど遠いものだったのです。
研究者としての出発も臨床研修から逃げることから始まります。
医学部を卒業した山中氏は、大阪市の名門病院で整形外科の研修を始めることになります。しかし、名門病院で研修できる喜びは、瞬く間に崩れ去っていくのでした。
山中教授の講演から引用してみましょう。
すごく喜んで病院に行ったんです。実際働きだすと、研修ですから上の先生に教えてもらうんですが、この世の物とは思えないくらい怖い先生が待ち受けていまして。
鬼のような教員、教官が僕を待ち構えていまして、ビシバシと鍛えてもらったんです。僕は山中という名前ですけど、その先生には「山中」と呼んでもらえませんでした。2年間のトレーニングでなんといわれていたかというと「ジャマナカ」と呼ばれていました。お前はほんま邪魔や、「ジャマナカ」め、と言われていました。
うまい先生がやると20分くらいで終わる手術が、僕がやると2時間かかると。そうういこともあって、だんだん自分は整形外科としては向いていないんじゃないかと。
第26回(2010年)京都賞ウィーク教育イベント 講演者 山中伸弥教授
講演内容をYouTubeから引用します。11:40あたりからジャナマカと言われることになる話が始まります。
最初の順調な研究者としての歩み
そうして、受験したのが先ほどの大阪市立大学大学院の薬理学教室です。
研究者としての歩みは、当初は順調に進んでいきます。そうして、研究テーマは、ES細胞をはじめとする万能細胞に傾いていきます。
ES細胞
ES細胞とは何でしょうか。
まず、卵子と精子が受精して受精卵ができます。
このたった1つ受精卵が分裂して、60億個もの多様な細胞をもつ私たちヒトになっていくのです。
その順序は、受精卵→2細胞期→4細胞期→8細胞期→16細胞期→桑実胚期→胚盤胞期
と進んでいきます。
その胚盤胞期の組織を採取して、特殊な培養を施した細胞をES細胞といいます。
ES細胞の問題
しかし、ES細胞の研究には、大きな倫理的問題がつきまとっていました。
ES細胞というのは、受精卵から作製される万能細胞です。しかし、その作製に当たっては受精卵から人間になるはずだった新しい生命を犠牲にすることになるのです。
キリスト教プロテスタントの影響が強いアメリカの保守層は、その研究に強い抵抗を示します。
以前の記事でアメリカがいかにプロテスタントの影響が強いかを歴史的な経緯から記載しています。
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カトリックの総本山バチカンもES細胞そのものを罪と考え非難を表明します。バチカンは、生命は卵子と精子が受精したときからはじまるとみなしていました。そのために受精卵をからES細胞を作成することは生命への冒涜に他ならないと考えたのです。
研究の挫折
山中氏は、受精卵をつかわないで万能細胞を作成することを考えます。しかし、そんな夢物語のような研究が実現するはずもありません。まったく将来の見通しが立たない研究テーマであり、まわりからも実現性のある研究をした方がいいとも言われます。
結局、毎日研究用のネズミの世話ばかりの生活になっていくのです。そうして、自分が研究者なのかネズミの世話係なのか分からない毎日になっていきました。
そのときの様子を山中教授は著書でこう記しています。
ある日、娘が小学校から帰宅する姿がマウス飼育室の窓から見えたとき、情けなくて涙が出てきました。
臨床医の戻ることを考える
もう研究をやめて、手術が下手でも整形外科に戻った方がましなんじゃないかと考えるようになっていくのです。
そのときの状態の講演を引用してみましょう。
そんな時、ある日、当時住んでいた大阪市内で散歩していましたら、目の前にとってもいい感じの空き地があったんですね。
その土地を買って、そこに家を建てて、そして家族と一緒に住んで、それを踏ん切りにして研究者をやめて臨床医に戻ろうと思いました。
不動産屋に行って手付金を払って、いよいよ契約の日がやってきました。そうするとその日、いきなり当時離れて暮らしていた母親から電話がかかってきたんですね。何を言い出すかと思うと「伸弥、アンタ家を、土地を買うらしいけども、昨日の晩お父ちゃんが夢枕に立った」と。で何を言い出すのかと、こう見えても研究者なのに、何を言い出すのかなと思ったんですが、「いや、お父ちゃんが夢枕に立って、伸弥に思い留まるように言えとそういったんだ」と言うんですね。
さすがに母親にそういわれると、なんかこう一日だけ待ってみようかなと思って、不動産屋さんに電話して、「すいません」と、「契約今日だって言ってましたが、一日だけ待ってもらえますか」と言いました。不動産屋さんは「はい、分かりました」と。ところが、その日の夕方に、その不動産屋さんから電話がありまして「山中さん、申し訳ありませんがあの土地、他の方に売れました」と。
踏ん切りに研究者をやめて、臨床医に戻ろうと思っていたその土地がなくなってしまって。その時は本当に母親のことを恨みましたし、また夢枕に出てきた父親にも「何ちゅうことすんねん」と思って恨みました。
平成27年度近畿大学卒業式 講演者 山中伸弥教授
その講演のYouTubeを引用してみます。研究者と辞めようと考える話は、8:15あたりから始まります。
iPS細胞を生み出す素人チーム
そのようなときに、奈良先端科学技術大学大学院准教授の公募を見つけ、『これでダメなら諦めもつく。どうせ採用されるわけがない』と応募します。
予想外に採用されることになったものの、実績のない新人准教授のラボに新入生が来るはずもありません。
そのために、半分『だまして』ラボに誘うことになります。
新人説明会では、受精卵を使わないで万能細胞を作ることをテーマとしていることをプレゼンし夢を語りました。しかし、実現する可能性がほとんど無いことは隠します。
そうして、工学部出身で生物学の知識ゼロの新入生をはじめほぼ素人の3人が『だまされて』ラボに入ることになりました。
しかし、『だまされて』ラボに入ったメンバーは、後の世界中にその名を知られることになります。その素人メンバーこそ、iPS細胞を生み出すことになるのです。
京都大学でのiPS細胞誕生
チームは、24の候補となる遺伝子を絞りこむことに成功します。
2004年にはラボが京都大学に移ることになります。
京都大学での研究で、24種類の遺伝子から、4種類が残りました。その4つの遺伝子をマウスの皮膚の細胞に組み込むと、受精卵のようなあらゆる細胞に変化する万能細胞に戻ったのです。
細胞はiPS細胞と命名され、2006年8月に欧米の有力な科学誌『Cell』に論文が掲載されたのです。
たった、4種類の遺伝子を導入するだけで、不可能といわれた細胞の未分化が起こることに誰もが疑問を抱きます。しかし、簡単に追試験ができることから、驚きへと変わっていきくのです。
2007年にはヒトiPS細胞の開発に成功しました。
ブッシュ大統領からの祝電
ヒトiPS細胞の成功のニュースは世界中にかけめぐり、多くの祝電が京都大学に届きます。
アメリカのブッシュ大統領は、誰よりも早く山中教授に賞賛の電話をかけました。
ホワイトハウスは「倫理的な万能細胞研究で重要な進展があり、ブッシュ大統領も非常に喜んでいる」との声明を発表します。
カトリック総本山バチカン市国も公式に声明を発表します。「歴史的な成果だ。受精卵を使うES細胞も、治療のためと称するクローン技術も必要なくなる。つらい議論も終わりになるだろう」
ノーベル医学生理学賞と臨床応用
2012年に山中氏はノーベル医学生理学賞を受賞します。iPS細胞発見から6年後という異例の早さです。
2014年には、STAP細胞で揺れる理研で、iPS技術よる網膜色素細胞移植が成功します。今後も、iPS細胞による血小板、パーキンソン病、心筋の臨床応用が進められていっています。
最後に
iPSという世紀の発見は、今後ヘルスケア業界に破壊的イノベーションを引き起こすことは間違いありません。医療機器セクターについては、iPSを軸にポートフォリオを構成をしてもいいかもしれません。iPS細胞により発展する銘柄のウェイトを上げ、iPS細胞により駆逐される銘柄のウェイトを減らしていくのです。
米国株投資家は、米国を賞賛のあまり、日本の研究を軽視しがちです。しかし、21世紀のもっとも偉大な発見は紛れもなく日本から生み出されているのです。
今後、医療機器メーカーの個別株分析を行う場合には、iPSという破壊的イノベーションがどのように関与することが予想されるかも述べていくことができるならと考えています。
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