前回、米国の上場株であっても海外口座で購入した場合は、税制上非上場株(未公開株)として扱われることを説明しました。その法律上の根拠は『金融商品取引法』でした。
今回と次回で、より具体的な課税について説明していきます。課税については、『租税特別措置法』がその法律上の根拠となります。今回は海外口座での配当課税について説明をしていきます。次回、譲渡所得の課税について説明する予定です。
目次
海外口座の税金に関する質問
このブログで、海外口座での課税について記事を書くようになったのは、以前コメント欄で頂いた質問がきっかけです。参考までにその質問を記載します。他の投資家の方がどのような疑問を抱いていたかについて、自分自身を照らし合わせて参考になるかもしれません。ただし、はやめに本文の入りたい方は、次の章の『配当の課税』のところから、読まれても大丈夫です。
鎌倉見物様
米国株主体の投資は私と同じでとても参考になります。
1つ教えて頂きたいのは米国株の税金です。
日本の居住者が利確した際の税制は分離課税なのですか、或いは総合課税なのでしょうか?
私自体は10数年間非居住者で未だにマイナンバーを持っておりませんが、遥か昔日本の居住者として外銀海外口座で運用している際に利確した利益が総合課税扱いになり投資利益分の課税額が同年の労働可処分所得を超えてしまい働く事がペナルティとなった経験があります。
私自身は現状いつでも税金を気にせずに運用出来るので2月初めに一旦米国株は利確しました。
今回海外の大学を卒業し外資に勤めている海外口座で運用させている娘が日本転勤となり日本の居住者としてマイナンバーを付託された様です。現状の相場を見るに今年の相場は不安定で場合によっては暴落リスクが高まりそうなら一旦利確させる必要が出てきましたので、今回質問させていただきました。
宜しくお願いします。
投資家の状況は個人で異なります。しかし、海外口座で米国上場株を買った場合の税金に関する疑問は、多くの投資家が抱いているようです。これからのその課税に関して具体的に記載していきます。
配当の課税
今回は、株式の配当課税について説明します。
上場株の配当課税
はじめに、上場株の配当課税について説明します。
上場株式の配当課税については、租税特別措置法第8条の4に記載されています。そこでは特例として分離課税を選択できることが記載されています。
先ずは条文をそのまま載せます。こんなもとかと眺めるだけでもいいでしょう。読んでもわかりません。読んでもわかるものではないことを理解して頂くために、そのまま引用してみました。
租税特別措置法
(上場株式等に係る配当所得等の課税の特例)
第8条の4 居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成28年1月1日以後に支払を受けるべき所得税法第23条第1項に規定する利子等(第3条第1項に規定する一般利子等、第3条の3第1項に規定する国外一般公社債等の利子等その他政令で定めるものを除く。以下この項及び第5項において「利子等」という。)又は同法第24条第1項に規定する配当等(第8条の2第1項に規定する私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等、前条第1項に規定する国外私募公社債等運用投資信託等の配当等その他政令で定めるものを除く。以下この項、第4項及び第5項において「配当等」という。)で次に掲げるもの(以下この項、次項及び第四項において「上場株式等の配当等」という。)を有する場合には、当該上場株式等の配当等に係る利子所得及び配当所得については、同法第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該上場株式等の配当等に係る利子所得の金額及び配当所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この項において「上場株式等に係る配当所得等の金額」という。)に対し、上場株式等に係る課税配当所得等の金額(上場株式等に係る配当所得等の金額(第3項第3号の規定により読み替えられた同法第72条から第87条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、当該上場株式等の配当等に係る配当所得については、同法第九十二条第一項の規定は、適用しない。
どうでしょうか。何が書いてあるのか全くわからないと思います。私たちだけでなく、専門の税理士でもそうです。税理士にとっても、すぐに読んでわかるものではないということです。
どうすればいいでしょうか。必要なところ残して、不要箇所を削れば意味がわかります。税理士もそのようにして条文を読んでいます。今はWordにコピペして、不要箇所をdeleteすればすぐにできます。では、同じ条文を必要なところだけ残して、後は削ってみましょう。
租税特別措置法
(上場株式等に係る配当所得等の課税の特例)
第8条の4 上場株式等の配当等を有する場合には、配当所得については、他の所得と区分し、課税配当所得等の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。
どうでしょうか。こうするとわかりやすくなったかと思います。
配当の15%の分離課税が所得税として課されるのです。ただし、平成25年から平成49年までは、東日本大震災の復興のために復興特別所得税として2.1%上乗せされ、15.315%になっています。
更に、住民税5%が加わります。
配当には、合計20.315%の税金がかかります。
非上場株の配当課税
では、非上場株(未公開株)の配当所得については、どのように課税されるのでしょうか。
『租税特別措置法』には、非上場株の配当課税については記載されていません。
まず、法律の原則として、一般法と特別法では特別法が優先されます。そのために、上場株の配当課税については、特別法である『租税特別措置法』の適応となりました。しかし、非上場株のついては、『租税特別措置法』に記載がありません。
『租税特別措置法』という特別法に記載がない場合には、一般法の適応になります。一般法に当たる法律にはどんな法律があるでしょうか。今回は、所得の税金に関する一般法です。『所得税法』がそれに当たります。所得税法での配当課税の箇所を引用してみましょう。
所得税法
第22条1項 所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
その総所得金額に該当する項目が第22条2項1号に記載されています。その中に配当所得が記されています。
所得税法
(総所得金額)
第22条2項1号 所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額の合計額
このように、非上場株の配当は給与所得等と合算されて、総合課税として累進課税にかかるのです。
その総所得金額の内訳には、雑所得もあります。ヤフーオークションで利益を出した場合は、雑所得となります。その雑所得とも合算されます。非上場株の配当課税は、原則としてヤフーオークションの利益に対する課税と大きくかわらない扱いです。
では、所得税法で累進課税を記載した条文も引用します。
所得税法
第89条 居住者に対して課する所得税の額は、その年分の課税総所得金額をそれぞれ次の表の左欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の右欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
199万円以下の金額 100分の5 199万円を超え、330万円以下の金額 100分の10 330万円を超え、695万円以下の金額 100分の20 695万円を超え、900万円以下の金額 100分の23 900万円を超え、1800万円以下の金額 100分の33 1800万円を超え、4000万円以下の金額 100分の40 4000万円を超える金額 100分の45
所得税は累進課税になるので、額が増えればそれだけ税率も高くなります。さらに所得税に加えて、10%の住民税が加算されます。上の表から10%上乗せされた課税がなされることになるのです。
このように、非上場株の配当課税については、所得税法が適応されます。その配当所得の額は、給与所得と合算されます。雑所得があれば、それも合算されます。その合計額が課税対象となり、その総額にしたがって、累進的に税率が決定されます。
まとめ
結論
米国での上場株であっても、海外口座での取引ならば、日本の法律で定めた適切なルートによる取引ではありません。政府の立場としては、そのように国が認めた適切なルートでの取引を行わない場合に、あえて分離課税の選択という恩恵を与えることはできません。
よって、米国の上場株でも、海外口座での取引の場合は、上場株ではなく非上場株(未公開株)の扱いとなります。その場合は、配当課税は、累進課税となる総合課税のみの適応になります。申告分離課税は使えません。
適正を欠く取引でも税金はかかる
「適切なルートと認めていないのに税金だけは取られるの」と思われるかもしれません。
それでは少し話しを変えてみましょう。禁輸法時代のアメリカで『暗黒街の帝王』と恐れられたアルカポネ。あのアルカポネが逮捕された容疑は何だったでしょうか。そうです、脱税で逮捕されたのです。組織犯罪を解決する場合に、多くは脱税がその糸口になるのです。犯罪であっても収益があれば税金がかかります。その点では日本もアメリカもかわりません。犯罪でもない海外口座からの収益に税金がかからないはずがありません。
なお、譲渡所得の課税(キャピタルゲイン税)については、次回、説明していく予定です。
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