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『上場株も未公開株の扱い』海外口座の税金 その1

投稿日:2018/3/21 更新日:

 

米国株に投資をする場合には、SBI証券、楽天証券、マネックス証券の3つのうち気に入ったネット証券口座を開くことをお勧めします。

もちろん、中には海外口座で取引をされる投資家の方もおられます。日本のネット証券では取り扱いがない株や、空売りやオプション等、国内証券にはない多くのメリットがあることは確かです。

しかし、海外口座で株取引では税制での大きなデメリットがあることを理解する必要があります。その中でもっとも大きなデメリットは、配当課税が総合課税のみとなり分離課税を選択できないことです。

目次

税務署に確認した内容

以前、税務署に確認したことがあります。まず、その内容を記載します。

最寄りの税務署の回答

まず、最寄り税務署に海外口座での配当課税について問い合わせてみました。すると、
『海外口座での配当は上場株であっても上場株とはみなされません。そのために、非上場株の配当として扱われます。その場合は分離課税はできません。総合課税のみとなります。』
とのことでした。

税務調査を行うのは、最寄りの税務署の担当者です。無用なトラブルを避けるためにも、素直に税務署の意見に従った方が賢明です。国内証券の手数料も以前と比べると安くなってきています。無理に海外口座を使う必要もないでしょう。私自身も国内のネット証券で米国株の取引をしています。

市内でもっとも大きな税務署への確認

税務署の回答といっても、人間なので誤りもありえます。ダブルチェックのために市内でもっとも大きな税務署にも確認をとってみました。

担当者は、
『即答できないので、国税庁の本庁に確認をとってみます。』
とのことでした。

その後別日に確認の電話を入れたところ、
『海外口座では上場株であっても非上場株として扱います。そのために、配当課税は、総合課税のみで分離課税を選択することはできません。日米租税条約が根拠になっています。』
とのことでした。

結論としては、海外口座で上場株を購入しても、税制面では上場株と扱われないで、非上場株(未公開株)の一般株としての扱いということになります。非上場株(未公開株)の配当課税は、累進課税となる総合課税のみとなります。一律20%での申告分離課税の適応はありません。

上場株と証券会社の定義

では、なぜ海外口座では米国の上場株であっても非上場株(未公開株)として扱われるのでしょうか。これから、その法律的な根拠を説明していきます。

上場株の税金に関して必要となる法律は、主に『金融商法取引法』と『租税特別措置法』の2つになります。今回は『金融商法取引法』に関する説明を行います。

ただし、あまり難しくならないようにしていきます。そのために、条文を記載する場合に、一部省略してわかりやすくしていくこともあります。より深く学びたい方は、ネット検索で原本の条文を確認してもいいかもしれません。ただし、基本的にはそのような必要のないように丁寧に説明していくつもりです。

上場株の定義

まず、上場株の定義です。
上場株とは『金融商品取引所』で上場されている株式となります。

では『金融商品取引所』とは何を意味するのでしょうか。その定義を記載した条文を引用します。

金融商品取引法

第2条16項 この法律において「金融商品取引所」とは、第80条1項の規定により内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する金融商品会員制法人又は株式会社をいう。

第80条1項の規定とあります。その条文を確認しましょう。

金融商品取引法

第80条1項 金融商品市場は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、開設してはならない。

金融商品取引所の設立は、内閣総理大臣の免許が必要なのです。日本では、東京証券取引所やジャスダックが有名です。あとは、大阪取引所(旧大阪証券取引所)、名古屋証券取引所等があります。

では、ニューヨーク商品証券取引所や、ナスダック市場については、どうでしょうか。日本の内閣総理大臣が免許を与えたわけではありません。

それについては、日米租税条約でそれぞれの国の取引所を「公認の有価証券市場」と認めています。日米租税条約のその箇所を引用します。

日米租税条22条5 この条の適用上、
(b) 「公認の有価証券市場」とは、次のものをいう。
(ⅰ) 日本国の証券取引法に基づき設立された有価証券市場
(ⅱ) ナスダック市場及び合衆国の証券取引法に基づき証券取引所として証券取引委員会に登録された有価証券市場
(ⅲ) その他の有価証券市場で両締約国の権限のある当局が合意するもの

このように、日米相互でそれぞれの取引所を認めているのです。そのために、アメリカのニューヨーク証券取引所やNASDAQ市場で上場されている株式も日本国内で上場株として扱うことができるのです。

証券会社の定義

次に、上場株の売買を仲介する証券会社について説明していきましょう。

上場株も金融商品の1つです。そのような金融商品を扱う証券会社のような企業を『金融商法取引業者』といいます。その定義を記載した条文を引用します。

金融商品取引法

第2条9項 この法律において「金融商品取引業者」とは、第29条の規定により内閣総理大臣の登録を受けた者をいう。

では、第29条の規定とあるので、その条文を確認しましょう。

金融商品取引法

第29条 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。

このように、『金融商法取引業者』も内閣総理大臣の登録が必要なのです。

では、内閣総理大臣の登録を受けていない海外業者は証券会社として認められるのでしょうか。

確かに、証券取引所に関してはニューヨーク証券取引所もNASDAQも、日米租税条約により日本でも適正な「公認の有価証券市場」として認められています。しかし、証券会社に関しては、日米租税条約での記載はありません。

では、日米間で他の条約に記載はないでしょうか。外務省のホームページで確認してみました。やはり日米間で証券会社の扱いを取り決めるような条約は認められませんでした。

結局、日本国内で正式に金融商品を扱うことのできる業者は、内閣総理大臣の登録を受けた証券会社に限られることになります。

更に詳しく言えば、上場株の売買の仲介は金融商品取引業者の中でも『第一種金融商品取引業』に限定されます。そのためには『第一種金融商品取引業』としての登録が必要になってくるのです。

『第一種金融商品取引業』に限定される業務を示した法律を引用してみます。

金融商品取引法

第28条1項 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
1号 有価証券についての第2条8項1号から3号まで、5号、8号又は9号に掲げる行為

第28条1項の次に掲げる行為は、1号から5号まであります。重要なのは1号のみなのでそれ以外は引用していません。その1号に掲げられている行為のなかでも第2条8項3号が重要になります。3号の条文を見てみましょう。

金融商品取引法

第2条8項3号 次に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理
イ 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
ロ 外国金融商品市場における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引

3号で記載されていることは、上場株式の売買の仲介です。通常私たちがネット証券でおこなう株の売買の仲介がその3号に入ります。その業務は『第一種金融商品取引業』として登録されている証券会社のみに許されているのです。

金融庁のホームページで内閣総理大臣の登録のある『金融商品取引業』のリストが記載されています。そのリストを見ると、米国、英国、香港、シンガポールの海外業者もリストに入っています。しかし、それら海外業者で『第一種金融商品取引業』として登録をしている業者は1件もありません。言い換えると『第一種金融商品取引業』として登録されている証券会社は国内証券のみなのです。したがって、海外口座での株の売買は適正ルートとしては認められていないのです。

国内証券を介しての購入のみが適正ルート

米国での上場株であっても、海外口座を仲介とする売買は、日本の法律では適正なルートとは認められていません。国内の証券口座を介しての売買のみが適正なルートなのです。そのために、国内証券で取引を行わない限り、上場株に認められた税制の恩恵にあずかることはできないのです。

アメリカの法律は、法の適正な手続きが適正な結果を導くという思想的背景が根底にあります。現在の金融業界がアメリカを中心に動いている以上、金融政策はアメリカ法の影響を強く受けています。そのために、金融市場では手続きの適正が非常に重視されているのです。

次回は、国内口座と海外口座では、具体的にどのように税金が異なるのかを説明する予定です。

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