食品をはじめとする生活必需品銘柄は、景気の影響が少ないだけでなく、技術革新による陳腐化もなく永久保有するにふさわしいと考えられています。 それは、もっともバフェットらしい銘柄がコカコーラであることや、シーゲル博士のバリュー投資研究でも、生活必需品企業とヘルスケア企業が、とくに高いリターンをあげていることがその理由です。
しかし、現在その生活必需品企業の株価は苦境に陥っています。それは金利の上昇による影響とともに、プライベートブランドの台頭が影響しています。そのために、決算で売上や利益について下方修正の見通しをガイダンスする企業が少なくありません。
今回、食品企業の中で、プライベートブランドの侵食に対する耐性が強く、極めて安定したビジネスを展開する企業を紹介します。しかも、100年以上の伝統のある老舗にもかかわらず、最近の10年で10%近い成長率を誇っているのです。
目次
世界最大の調味料企業マコーミック
買収巧者のマコーミック
その企業とは、マコーミック社(MKC)です。マコーミック社は、アメリカのメリーランド州に本社をおく世界最大の調味料生産企業です。
マコーミックは、今年2018年3月28日に第1四半期の決算が発表されました。その結果は、売上高と利益について、ともに大きく伸びをしめすとともに、配当についても11%増が発表されたのでした。
今回の決算は、2016年12月にイタリアで買収したGiottiと、昨年2017年7月にイギリスのレキッドベンキーザーから買収したRB Foodsについての試金石に他ならなかったのです。 今回の良好な決算は、マコーミックの買収能力が健在であることを見せつけることになったのでした。
マコーミックの設立と発展
マコーミックは1889年に、ウィロビー・M・マコーミックが地下室で調味料の製造を始めたことから設立されました。
その後、徐々に拡大し、今や世界最大の調味料企業に発展しました。現在、マコーミックは、150カ国以上で範囲の調味料を製造し販売しています。その規模は、世界の調味料市場の約20%を占め、第2位につける企業のまさに4倍の規模を誇っているのです。
特にアメリカ、イギリス、フランスでのシェアは40%超えているとともに、新興国の代表でもある中国においても、過去5年間で39%の年率で成長しています。
さらに株主還元にも積極的であり、32年間連続して配当を増やしている配当貴族企業でもあるのです。
安定したビジネスを展開するマコーミック
そのマコーミックのビジネスは、調味料やスパイスという極めて安定性が高く、不況耐性も強い商品の製造を行っています。そもそも、調味料やスパイスは、ハイテクのような技術によるイノベーションがほとんどありません。
しかし、それだけではなく私たち一般消費者は同じ調味料を使い続ける傾向にあります。それは、いったん調味料を購入すれば、その調味料をしばらく使い続けるために、使い慣れた商品を購入するためです。
もしも、ゼリーやアイスクリームのように1回で消費しきる商品なら、試し買いをすることもあるかもしれません。そのような商品なら、PBブランドからの浸食を受けやすと考えられます。
しかし、調味料のように一度買ってしばらく使い続けるものは、もしも試し買いをして失敗したならあとの残りが無駄になります。そのために、使い慣れた同じ調味料を買い続ける傾向にあるのです。
高い法人需要
優位性はそれだけではありません。プライベートブランドに耐性があるといっても一般消費者の動向は、変化することもありえます。試し買いがないとは言い切れないのです。
そのような一般消費者への売上比率は60%です。
残り40%は法人への出荷です。
法人への出荷が40%という数字は、食品企業としては極めて高い値です。その法人とは、食品会社や巨大ファーストフード店、レストラン等です。
食品会社の販売している加工食品には一定の固定客がいます。そのような固定客のために味を一定に保つ必要があります。したがって、調味料を変えることはほぼありません。さらに一定の品質の調味料を確実に供給するには、巨大な規模が必要です。その供給能力について、世界最大であり、2番手よりも4倍の規模を誇るマコーミックには、大きな優位性があるのです。価格決定力は、マコーミック側にあるといって差し支えありません。実際に、世界のグローバル食品企業10社のなかで、9社にマコーミックは調味料を供給しているのです。その企業とは、ペプシコ社や、モンデリーズ社とまさに世界の食品市場を支配している企業群といってもいいでしょう。
さらに、巨大なレストランチェーン店にも調味料を供給しています。食品企業と同様に、固定客のために味を一定にすることが必要です。さらに大量の需要に対して、確実に供給することが不可欠です。その面からも、マコーミックは強い立場を保持しています。実際にマコーミック社は、北米の巨大レストランチェーン企業10社の内、9社と取引をしているのです。
また、専門のシェフも使い慣れた調味料を変えることはありません。プロであるが故に、知り尽くした材料しか使うことはないのです。
そのような法人需要にプライベートブランドが浸食する余地はないと言っていいでしょう。
買収による拡大
新興国での買収
調味料やスパイスといった安定したビジネスの特性に加え、買収によっても規模の拡大を続けてきました。特に新興国での多くの買収を成功に導いてきたのです。その買収は、新興国の高い人口増加率により、その後のマコーミックに高い成長率をもたらしてきました。
今回の西ヨーロッパでの買収
今回の試金石となった買収は、新興国ではなく西ヨーロッパ企業の買収でした。それは、イタリアのGiottiと、イギリスのReckitt BenckiserのRB Foodsです。 イタリアのGiottiについては2016年12月に5600万ドルで買収しました。Giottiは、イタリアの調味料製造の大手企業です。
RBfoodsの買収
さらに、昨年2017年7月18日にイギリスの食品・家庭用品企業Reckitt Benckiserの食品部門RB Foodsを42億ドルで購入しました。 特にRB Foodsの買収は、これまでのマコーミックで最大の取引だったのです。その巨額の買収額から、株式市場は「高すぎる買い物」と判断し、株価は6%下落しました。
RBfoodsの Frank’s RedHotは米国でもトップのホットソースブランドです。そのシェアは、2番目のブランドの市場シェアの2倍のシェアに達しています。さらに、Frank’s RedHotはホットソースの平均の成長率5.5%と比較して、過去3年間で年率7.8%の成長率を記録しているのです。
さらに、RBfoodsのFrench’s mastardは、2番手のマスタードブランドの4倍の小売市場シェアを持っているのです。
それらのホットソースやマスタードは、自然の食品を好むミレミアム世代に強い人気を誇っています。それは、自然の食品へ味付けをすることにふさわしい調味料だからです。
成功した買収
今回のマコーミックの第一四半期で、RB FoodsとGiottiを買収によりマコーミックの成長率は更に加速すること示されました。市場の懸念は杞憂であることが明らかになったのです。
決算の発表で、2018年第1四半期の売上は、2017年第1四半期から19.2%増の12.37億ドルとなったことが発表されました。その19%の上昇のうち、12%がRB FoodsとGiottiによるものでした。
一般消費者に対する売上増は14.4%の上昇を認め、そのなかで買収効果は12.4%にも及びました。
特にアメリカ本土では22%の上昇を認めました。そのアメリカでの上昇の20%は、買収による効果でした。さらに、中国でも6パーセントの売上の上昇を認めました。
法人需要については15%の上昇が示され、そのうち買収による効果は12%でした。
特にファーストフードレストランは、ヨーロッパ中東アフリカ地域およびアジア太平洋地域で力強い成長を認めました。なかでもヨーロッパ中東アフリカでの販売量はそれぞれ12%もの上昇を示したのです。アジア太平洋でも4%増加しています。
調味料のような伝統的な商品での第一四半期で発表された2桁の売上高および利益の成長はまさに驚異的と言っていいでしょう。改めてマコーミックの巧みな買収能力が健在であることを見せつけることとなったのです。
株主還元
連増増配企業
ゼネラルミルズ(GIS)をはじめ、パッケージ食品会社はのきなみ売上の減少をガイダンスで発言しています。それに対して、マコーミックはガイダンスでより売上の拡大をアナウンスしています。
マコーミックは高い成長性だけでなく、株主還元についても投資家に利益をもたらしています。それは、マコーミックが32年にわって配当額を増やしてきたという配当貴族銘柄であることからも明らかです。しかも、最近10年間での配当の成長率は、9%と一貫して高い配当成長率を維持されてきたのです。
高い成長率
マコーミックがこのように安定した高い増配率を維持できる理由は、毎年高いキャッシュフローを生み出すとともに、そのキャッシュフローを増加し続けていることに他なりません。 マコーミックは過去10年間、毎年ほぼ9%の配当を増額しています。しかし、1株あたりのフリーキャッシュフローと配当の比率は一貫して50%程度を維持しているのです。 それは、マコーミックに、増配率9%と同等の強いフリーキャッシュフローの成長がもたらされていることを意味するのです。
さらに、マコーミックは、2018年1月には10.6%の増配をアナウンスしたのです。
マコーミックへの投資
高い安定性のあるビジネスモデルと、高い成長率。さらに、巧みな買収の能力を保有する経営陣、そして株主還元の実績から、永久の保有し配当再投資を行うべき企業であると考えられます。さらに、ある程度株価が下がれば、躊躇なく買い増しを見当すべきでしょう。
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