今回は優れたベンチャーキャピタリストの手腕をみてみましょう。
ベンチャーキャピタリストの手法は極めてグロース投資に偏った手法です。
私の投資スタイルであるバリュー投資とインデックス投資とはかけ離れた手法です。しかし、他の投資スタイルを学ぶことによって自分の投資スタイルを相対化り、理解を深めることができます。
バフェットも最初はグレアム流バリュー投資を行っていました。グレアム流のバリュー投資は企業価値よりも株価の低い株を買い、株価が戻れば売却することで売却し、キャピタルゲインを稼ぐ方法です。
その後、バフェットはグロース投資家であるフィッシャーの手法を学ぶことにより、永続的な競争力を保有する企業を永久に保有する投資スタイルに変貌していったのです。
また、グロース投資家にとってもベンチャーキャピタリストの手腕を知ることで自分自身のグロース投資の手法を再確認すことができると考えます。
目次
ベンチャーキャピタリスト
今回紹介するのは、クライナーパーキンスというリシコンバレーでもっとも実績のあるベンチャーキャピタルです。
クライナーパーキンスの創業は1972年です。当然、同じ1970年代に創業したMicrosoft社やApple社のスタートアップには関与していません。
しかし、80年代以降に創業した多くのIT企業のスタートアップに関与しているのです。それは、コンパック、サンマイクロシステムズ、ネットスケープ、Google、Amazon、ツイッターです。企業名を聞くだけでも彼らの能力の凄まじさを想像することはできることでしょう。
しかし、そのベンチャー企業のスタートアップの経験の無い私たちが実感として彼らのすごさを理解することは困難です。
そのために彼らの能力がいかに卓越しているかを、アメリカのバスケットボール協会(NBA)の弱小チームを買収し、短期間で最強チームに変貌させた手腕から、理解していきたいと思います。
ベンチャーキャピタリスト出身
そのベンチャーキャピタリストとは、クライナーパーキンスの共同経営者にまで勤めあげ、その後NBAチームのオーナーとなったジョー・レイコブ氏です。
レイコブはバスケットボールについて造詣は深くありません。にもかかわらず、すぐれたマネジメント力で、買収した弱小チームを、短期間のうちに、シカゴ・ブルズを凌ぐ史上最強チームに変貌させたのです。シカゴ・ブルズは、かつてマイケル・ジョーダンを主軸としてバスケットボール史上最強といわれたチームです。
シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストは、出資した企業に対して、できることはすべて行います。そうして、少しでも投資の成功確率を高くしようとしするのです。
彼らは、果報を寝て待つようなことはしません。投資先の企業に社外取締役として参加し、毎月のボードミーティングにも出席します。そこから問題点を抽出し、解決のために、自分の持っている経験や人脈など使えるものをすべて使っていくのです。
取引先が必要ならば取引先を見つけます。コンサルタントが必要なら豪腕コンサルタントを探します。新しいCEOが必要ならばふさわしいCEOを探してきます。
レイコブのNBAチーム ウォリアーズ買収
そのようなシリコンバレーの手法をバスケットボールにも導入したのです。
レイコブは2010年に、アメリカの米バスケットボール協会(NBA)のチームであるウォリアーズ買収に成功しました。その額は、史上最高額となる4億5000万ドル(約390億円)にも及びました。買収はオラクル創業者ラリー・エリソンとの競い合いで勝ち取ったものだったのです。
レイコブ氏は声明で「これで夢がかなう。われわれはウォリアーズを王者に足る組織に作り上げる情熱を持っている」とコメントし、実行に移します。
長期にわたり低迷していたウォリアーズの強化のために、レイコブは自分の会社にバスケットボール専門委員会を設置します。そして、チームのエグゼクティブと常にコミュニケーションを取り、すべての決定において徹底的な議論を行ったのでした。
スリーポイントへの着目
レイコブは、まだ市場にしられていないスタートアップ企業を、見過ごされてる数字を探すことで見つけ出します。その手法をバスケットボールにも適応したのです。
バスケットボールに詳しくないが故に、「いままでの常識にとらわれないで、もしこれまでのやり方を無視してバスケットボールチームを築くならば、何が起こるのか」を数字で評価しなおしたのです。
その結果、着目されたのはスリーポイントシュートでした。
もともと、スリーポイントシュートは非効率であり、ゴール前でのシュートを稼ぐことが常識とされていました。
19世紀末にバスケットボールを発明されて以降、ゴール付近がもっとも重要なエリアです。そのために、華麗なダンクシューとを披露するジョーダンをはじめ、NBAはゴール付近を支配する選手が主導権を握っていたのです。
1979年にNBAでルール変更があり、スリーポイントのラインが設けられました。スリーポイントラインは、ゴールから24フィート(7m31cm)のところに設定され、そのラインで得点が2点と3点に分けられることになったのです。
しかし、それでも得点のメインはゴール付近であり、効率の悪いスリーポイントシュートは、脇役でしかないことが常識でした。
ベンチャーキャピタリストは、その常識に疑問を抱きました。
そして、スリーポイント中心のチームでの勝率をシュミレーションしました。すると、他のチームと圧勝する結果となったのです。レイコブは、スリーポイントを中心としたチーム構築を実行します。
ステファン・カリー選手
そのために、ステファン・カリー選手が注目されました。
もともと、カリーは、目立つ選手ではありません。高校を卒業時にリクルートも受けず、大学卒でもドラフト7位でのNBA入りだったのです。ダンクシュートも不十分で、スピードも速くない身体能力では当然でした。
しかし、平均的なNBA選手が2メートルから打つよりシュートよりも、カリーが10メートルよりも離れたところから打つシュートの方が確率が高かったのです。
スリーポイント主体のチーム編成のために、そのステファン・カリーを戦略の中心に据えることを決定したのでした。
弱小チームから、強豪チームへ
しかし、カリーを中心としたチームは、翌年の2012年チームはNBA最悪の記録の一つで終え(23勝43敗)ました。
それでも、レイコブは方針を変えませんでした。ベンチャーキャピタリストの経験から、新たな戦略を成功に導くためには、短期間ではできないことを熟知していたからです。
翌年の2013年には、カリーのスリーポイントを中心としたチームが本領を徐々に発揮しはじめ、プレーオフに出場します。
そして、2014年ファイナル優勝と破竹の勢いで強豪チームとなっていくのです。
カリーにパスを回し、カリーは精密機械のようにスリーポイントを決めていきます。
スリーポイントラインでのディフェンスを強化すればディフェンスラインが広がりすぎ、ドリブルでカットインされて人数は5対4となります。そうすれば、フリーの選手ができるために確実に得点を奪われます。
しかし、カリーをスリーポイントラインでフリーにすれば確実にスリーポイントが決められます。
マイケル・ジョーダンを擁したシカゴブルズを超える史上最強チームの誕生
2015年には、カリーを中心に戦略をたてたウォリアーズは、73勝目9敗(勝率89.0%)と歴代最高勝率でシーズンを終えたのでした。
それは、1995年にマイケル・ジョーダンを擁するシカゴ・ブルズの歴代最高勝率(72勝10敗/勝率87.8%)を上回る新記録だったのです。
2015年の最高勝率チームを率いたスティーブ・カー監督は、奇しくも、1995年シカゴブルズの選手として記録達成の瞬間を経験したマイケル・ジョーダンの同僚でもあったのです。
そのカー監督は言いました。
「選手たちには、『ブルズの記録が更新されるなんて絶対にあり得ないと考えていた』と伝えた。私が間違っていたようだ。20年前と同じことを言うが、この記録は破られることはない。年間74勝8敗を達成できるチームなんていない。我々のファンにも、来季の記録更新達成を期待しないでもらいたいね。」
結局、2015年のファイナルは準優勝と惜しくも優勝には及びませんでした。
しかし、翌年2016年にはファイナル優勝し、雪辱を果たします。
もちろん、主力選手はステファン・カリーでした。
カリーは、2015年、2016年とMVPとなり、2016年は得点王にもなるのです。
バスケットボールの戦略革命
従来のNBAでスーパースターと言えば、マイケル・ジョーダンのような身体能力の怪物のような選手でした。
身体能力にアドバンテージの無いカリーにとって、卓越したハンドリングとシュート力は自分の生きる道でした。それは努力の賜物に他ならないのです。
さらに、バスケットボールの支配権がゴール付近の選手ではなく、スリーポイントを決める選手に移っていったのです。
マイケル・ジョーダンを超えるゲーム支配力
そのようなカリーが、いまや歴代最高の選手はカリーかジョーダンかの議論の対象となっているのです。
マイケル・ジョーダンと同僚であったカー監督は、カリーとジョーダンとの比較についてこう言います。
「カリーは、相手チームのディフェンスに対して、NBA史上最も大きな影響を与える選手だ。カリーのプレースタイルは、対戦相手のディフェンスにとてつもないほどの恐怖を与える。」
「カリーはこの競技を変えたんだ。チームはカリーを中心に回っている。彼は間違いなく歴代最高の選手の一人だ。インパクトという意味では、彼が史上最高だ。」
結論
卓越したベンチャーキャピタリストの手腕
スリーポイントを中心とした最強チームの誕生は、データを重視するバスケットボールの現場の経験に乏しいリシコンバレのベンチャーキャピタリストの勝利でもあったのです。
バスケットポールの現場をしらないベンチャーキャピタリストが、いままでの常識を覆す戦略を立案しただけでなく、マイケル・ジョーダンの同僚として最強チームの一員であったカー監督に、その戦略を説き伏せたのです。
その結果、弱小チームを史上最強チームに変貌させただけではなく、バスケットボールという競技そのものに革命を起こしたのです。
いかにリシコンバレーのベンチャーキャピタリストの能力が卓越しているかみなさんも理解できたのではないかと思われます。
これからのベンチャーキャピタリストの活躍
現在、IT市場はプラットフォームを支配する企業が市場を支配尾しています。そのプラットフォームについて、経営学の解説書が出版されつつあります。しかし、そのような評論が出たときに、その優位性はピークを迎えることが少なくありません。
リシコンバレのキャピタリストは、現在のプラットフォーム優位を打ち崩すMOATを発見し、現在IT業界を支配している企業を凌ぐ新興企業を育てるに違いありません。
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