インデックス投資を行う場合にはどのようなファンドを選べばいいでしょうか。最近では、インデックスファンドへの投資はETFが主流です。そのなかで、もっとも推奨できるETFは、バンガード社の『VTI』です。
目次
バンガード社のインデックスETF『VTI』
S&P500を推奨するバフェット氏
インデックスファンドを推奨する投資家は、インデックス派に限りません。バリュー投資で巨万の富を築いたバフェット氏ですら、個人投資家にはインデックスファンドを推奨しているのです。そればかりではなく、家族に対しても遺産をインデックスファンドで運用するように指示しています。(参考 バフェットも推奨する『インデックス投資』)
そのバフェット氏が、推奨しているインデックス運用対象は、S&P500という指数に連動したファンドです。バンガード社のETFなら『VOO』となります。バフェット氏の指示にしたがうなら、『VOO』を推奨することになります。
しかし、私はあえて『VTI』を推奨します。この記事で、その理由を説明していきます。
ETFとは
まず、ETFについて説明していきましょう。ETFとは、上場投資信託を略した言い方です。文字通り、証券取引所に上場されている投資信託なのです。そのために、証券取引所で売買することができます。つまり、株と同じように売ったり買ったりすることができるのです。
証券取引所で売買が行われるので、証券会社に支払う費用は売買手数料のみとなります。
それ以降、証券口座で保有し続けても証券会社への手数料がかかることはありません。
ETFの信託報酬は、ETFを発行している運用会社から信託報酬が引かれます。しかし、極めて少額です。本日紹介する『VTI』は0.04%に過ぎないのです。そのような低額の信託報酬は、バンガード社の創業者であるボーグル氏の功績といっても過言ではありません。バフェット氏も、ボーグル氏こそが、投資家にもっとも恩恵を与えた人物として称賛を惜しみません。
当然そのETFは、上場されている投資信託ということです。では、その投資信託はいかに構成されているのでしょうか。もちろん、アクティブファンドの投資信託で構成されたETFもあります。しかし、多くのETFはインデックスファンドで構成されています。
推奨ETF『VTI』と、S&P500と連動したETF『VOO』、『IVV』
バフェット氏の推奨するS&P500はアメリカ市場平均の指数の1つです。アメリカ市場平均に連動した推奨ETFを3本紹介していきます。
ETFの種類 | 基準となる指数 | 信託報酬 | 運用会社 |
VTI | CRSP USトータル | 0.04% | バンガード社 |
VOO | S&P500 | 0.04% | バンガード社 |
IVV | S&P500 | 0.04% | ブラックロック社 |
バンガード社の『VOO』とブラックロック社の『IVV』は、S&P500と連動するETFです。
ブラックロック社を初めて耳にした方もおられるかもしれません。もちろん、世界最大の運用会社はバンガード社です。しかし、バンガード社は、ETFについては後発になります。現在のところ、ETF運用資産最大の企業はブラックロック社なのです。ただし、ETFにおいても、バンガード社は、急激にブラックロック社を追い上げています。
S&P500での運用は、バフェットが家族に資産運用に指示した手法そのものなのです。
他方『VTI』は、CRSP USトータルマーケット・インデックスという指数に連動しています。
CRSP USトータルマーケット・インデックスは米国企業をもっとも広く網羅する株価指数です。その指数は4000近い銘柄数で構成されいます。そのために、流動性のない銘柄を除いてアメリカのほとんどの銘柄で構成されているのです。そのために、米国で上場されている株式の時価総額の実に99%に相当するのです。まさに、アメリカ市場そのものといってもいい指数なのです。
『VTI』を推奨する理由
私は、バフェットが推奨するS&P500よりも、CRSP USトータルマーケット・インデックスで運用する『VTI』を推奨します。
これからその本題の理由を説明していきます。
理由1 S&P500の頻繁な銘柄入替
まず、S&P500は毎年銘柄入替を行っています。そもそも、頻繁な入替はパフォーマンスを下げる原因となるのです。
銘柄の入れ換えについて、チャールズ・シュワブ社の10万回の取引の調査があります。結果は、売却した銘柄の方が、代わりに新たに買い入れた銘柄より1年後の利回りが3.4%も高かったのです。
それは、バリュー投資家からみても肯定できる点はあります。
S&P500の入替が行われる場合は、S&P500から除外される企業は停滞し株価が下落している企業です。確かにそのような企業は業績が停滞しているかもしれません。しかし、それ以上に投資家から失望され売り込まれているのです。その結果、企業価値よりも株価が低くなっていることが多く、安全域が十分にあるバリュー投資家の対象となる銘柄となっているのです。そもそも、S&P500の対象となる企業です。一時的に業績が悪化しようとも、競争力のある企業であることは間違いありません。そのような企業の多くはいずれ回復していくのです。
更に驚くべき研究結果がシーゲル博士の『株式投資の未来』で明らかになっています。
シーゲル博士は、1957年にS&P500の指数が始まった当時の銘柄を保有し続け、その後に採用された新興企業に入替を行わなかった場合のリターンを調査しました。その50年間でのリターンは、銘柄の入れ替えたS&P500よりも高かったという結果だったのです。
それは、急成長する新興企業を採用し、時代遅れの低成長企業を除外することで、リターンが上がるどころか、リターンを下げたことを意味するのです。
こんにち経済は目まぐるしく変化しています。その変化の中で、新興企業は、新しい市場を開拓し、それにより古い企業は廃れ、時代の変化の中に飲み込まれいっています。その栄枯盛衰のプロセス により、経済成長が促されてきました。
しかし、新興企業は、投資家の利益にはさほど貢献しなかったのです。もちろん、新興の急成長する企業は、古い企業を上回るペースで成長します。しかし、その企業の株価は過剰に高騰し、投資家がその株式 に対価を支払いすぎてしまうのです。その結果、まともなリターンは期待できないことが多いのです。
むしろ、買い叩かれ配当利回りが高くなった株に配当再投資を繰り返すことで、結果的には、大きなリターンがもたらされることの方が多いのです。
その点からも、頻繁に銘柄を入れ替えるS&P500よりも『VTI』が投資対象としては望ましいと考えられるのです。
理由2 大型株のみのS&P500
次に、S&P500が大型株のみを対象としていることです。
もちろん、個別株投資なら大型株のみに投資をして、倒産リスクを避けるべきです。
しかし、ETFでひとまとめにするなら小中型株の倒産リスクはほとんど無くなります。
その上、ひとまとめにするなら大型株よりも中小株のほうがリターンが高くなるという研究成果があるのです。
シーゲル博士の著書である『株式投資』で、1981年にはシカゴ 大学の大学院生ロルフ・バンズが証券価格研究所(CRSP)のデータをもと に株式の利回りを調査したことから、 小型株のリターンが大型株 を上回ることをが明らかにされたことが記載されています。
その結果を記載した表を提示します。
グループ | 企業数 | 全体に占める割合(%) | リターン(%) |
1(最大) | 168 | 61.64 | 9.64 |
2 | 179 | 13.81 | 11.00 |
3 | 198 | 7.24 | 11.35 |
4 | 184 | 4.02 | 11.31 |
5 | 209 | 3.17 | 11.69 |
6 | 291 | 2.15 | 11.79 |
7 | 291 | 2.15 | 11.68 |
8 | 355 | 1.83 | 11.88 |
9 | 660 | 1.92 | 1.34 |
10(最小) | 1744 | 1.47 | 14.30 |
合計 | 4252 | 100.00 | 10.31 |
それは、4252銘 柄を時価総額別に10グ ルー プに分類し、各グループの1926年から2006年のリターンを示したものです。 時価総額の61.64%を 占める上位168銘柄の複利利回りは年率9.64%で 市場平均を下回っていました。一方、 小型株のリターンはほとんどが市場平均を上回っていたのです。『VTI』時価総額の下位にあたる最小の10グループは、時価総額の全体に占めるシェアは1.5%未満です。しかし、そのリターンはは年利14.03%だったのです。
しかも、小型株のリターンが大型株よりも高くなるという現象は、長期にわたり存続しているのです。
小型株には今後ハイテク市場で急成長する未来のGoogleのような企業や、大企業にプレミアをつけて買収される企業も少なくありません。もちろん、どの企業がその対象となるかは偶然の要素も強く、あらかじめ特定することは不可能です。しかし、ETFで網羅的にカバーするならそのリターンの恩恵にあずかることができるのです。
そのために、大型株で運用されるS&P500よりも、VTIの方が小型株効果の面からも優れていると考えられるのです。
理由3 バンガード社による指数の価格決定権
第3番目の理由はバンガード社のETFであるということです。
そもそも、『VTI』はバンガード社が初めて手がけたETFです。バンガード社は、インデックスファンドをはじめて商品化した企業です。その功績から、多くの投資家から信望されています。バンガード社を選択することは、長期投資家のたしなみといっても過言ではありません。
しかし、そのようなバンガード社というブランドは曖昧な信頼のみならず、実利的なメリットも投資家にもたらされるのです。
それは、指数の使用料についての価格決定権がバンガード社に委ねられていることです。
S&P500はバフェットも推奨する指標です。その知名度から、使用料の価格決定権は、S&Pグローバル社に委ねられています。
しかし、インデックス投資のリーダーであるマルキール博士は、『ウォール街のランダムウォーカー』で全市場型のインデックスファンドを推奨しています。S&P500がカバーしているのはアメリカ上場時価総額の75%です。『VTI』の指数であるCRSP USトータルマーケット・インデックスは、アメリカ上場時価総額の99%に及んでいます。その点からも、S&P500よりも優れた指標と考えられます。しかし、知名度がないためにバンガード社以外なら、投資家には見向きもされないかもしれません。バンガード社だからこそ、投資家は安心してその指数のETFに投資するのです。したがって、指数使用料の価格決定権はバンガード社にあるのです。
事実、バンガード社は、2012年にベンチマークをMSCIから、FTSEとCRSP USトータルマーケット・インデックス変更しています。もちろん、それは信託報酬費の削減という投資家の利益を目的とするものです。しかし、バンガード社以外なら、経営不振を疑われる理由にもなりえます。しこのような指数の変更は、バンガード社の判断だからこそ投資家は信頼してついて行くのです。
バフェットが『VTI』に投資しない理由
では、なぜバフェット氏は遺産の運用をS&P500のインデックスに委ね、『VTI』には委ねないのでしょうか。
それは、『VTI』の出来高にあります。『VTI』の1日の出来高は、日本円にして150億円から300億円ほどです。この金額は私たち個人投資家にとって、十分な出来高です。
しかし、バフェットの個人資産は9兆円にも及びます。『VTI』の1年間の出来高をすべて合わせても足りないのです。バフェットの資産が巨額すぎることにより『VTI』への投資が不可能なのです。
結論
もしも、これからアメリカのETFに投資をしたいと思うなら『VTI』を推奨します。
もちろん、すでにS&P500のETFに投資をしているなら、買い直す必要はありません。
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