投資実務 投資理論・哲学

米国株投資では為替を無視してもいい理由【金本位制崩壊からみる通貨の脆弱性】

投稿日:2018/12/15 更新日:

米国株に投資を行う場合には、為替という厄介な問題があります。

私たち米国株投資家は、為替にどのように対応していけばいいのでしょうか。今回は長期投資家の為替への対応方法について記載していきます。

目次

為替

為替に手を焼く投資家

私たちが日常使っている通貨は円です。

しかし、米国株投資の場合には通貨は米ドルとなります。円からドルにかえるときにいやおうなく為替の影響を受けることになります。それが日本株投資との大きな違いです。

しかし、為替を予想することは極めて困難なのです。

為替に手を焼いているのは、私たち個人投資家だけではありません。プロである機関投資家も同様です。

直近でもアメリカ大統領選挙でトランプ氏が当選したときに多くのヘッジファンドは円高を予想し、ドル売りをしかけました。しかし、その後のトランプラリーで急速な円安とすすみ、手痛い損失を被ったのです。

長期投資家の為替に対する姿勢

では、私たちのような長期投資家は、為替にどのように対処していけばいいのでしょうか。

結論から言えば、為替については全く気にする必要はありません。完全に無視すべきです。

円高になりそうだから、ドルから円に戻してみようという誘惑に駆られるかもしれません。しかし、円に戻さないでドルのまま保有すべきなのです。

為替に対する有効な2つの手法

バリュー投資で実績のあるブランデス研究所による1年間の追跡調査では、為替に対しては2つの手法の成績が良好でした。

その2つとは、
①為替のヘッジをを行わない。
②すべての取引に対して為替のヘッジを行う。
の2つです。

逆に、為替を予想して、ヘッジをかけたり、かけなかったりする場合のリターンが最も悪かったのです。

為替にヘッジをすべきか、すべきでないか

では、為替ヘッジをかけるべきか、全くヘッジをかけないかどちらにすべきでしょうか。

短期投資家なら、価格変動の要素を少しでも少なくするためにヘッジをかてもいいかもしれません。

しかし、長期投資家なら為替ヘッジをかけるべきではありません。

まず、ヘッジをかける場合のドル売りにも経費がかかります。たしかに、ヘッジの経費はほんの少額かもしれません。しかし、長期では少しの経費が積み重なり複利によって大きな違いを生み出していくのです。

しかも、ヘッジをかける手間もかかります。長期投資家はできる限り無意味なことをすべきではありません。

長期投資家にとっては、為替ヘッジをしないでことに利があることは明らかです。

為替の影響がなくなる長期投資

先ほどのブランデス研究所の調査でも、通貨変動の影響は年月の経過とともに消滅するとの結果が出ているのです。

通貨変動の影響が年月とともに相殺されることは、株式と通貨の長期リターンからも明らかです。シーゲル博士の『株式投資』によるグラフから、金融資産の長期リターンを見てみましょう。

株式が非常に高いリターンをあげています。他方、通貨の価値は長期的には毀損されています。通貨がいかに時間に対して脆弱であることが理解できると思います。

金本位制の発展と崩壊

通貨とは

では、通貨はどうして長期にはここまで脆弱なのでしょうか。

まず貨幣の性質について考えてみましょう。

そもそも、紙幣は単なる紙切れにすぎません。その紙切れが交換価値のある媒体として政府が認めていることから価値が生まれます。その価値を信用といいます。政府の信用により紙幣の価値が成り立っているのです。

しかし、信用に依存して、紙幣を過剰に発行すれば、高いインフレを引き起こし、通貨の信用が無くなってしまいます。その結果、経済市場は壊滅的な打撃をうけるのです。

かつては、通貨の価値を安定させるために紙幣と貴金属との兌換を保障する政策が行われていました。

なかでも19世紀の金本位制がよく知られています。

金本位制

19世紀には、七つの海を支配する大英帝国が世界の覇権を握っていました。大英帝国の通貨であるポンドは、この圧倒的な経済力から基軸通貨となるとともに、金(ゴールド)との兌換が保障されることから、極めて安定していました。

その金本位制こそが、大英帝国の支配する世界経済を安定させるとともに、20世紀初頭の壊滅的な世界経済の崩壊を引き起こすことになったのです。

大英帝国の金本位制導入

金本位制の沿革を概観することで通貨について考えてみましょう。

19世紀はじめ、イギリスではナポレオン戦争での戦費からインフレへが進みました。インフレにより生じた経済危機を克服するために通貨の安定が必要となりました。そうして、紙幣と金との交換を認める金本位制が採用されたのです。

金本位制の発展

イギリスでは産業革命により急激に資本主義が発展することになります。経済の拡大にともない通貨の流通量も増やしていかなくてはいけません。

幸運なことに、19世紀にはゴールドラッシュの発端となるカリフォルニアや、オーストラリアで次々と金山が発見され、膨大な金(ゴールド)が市場に流れ込みます。

金が市場に流入することで金塊の準備高も増加し、大英帝国のポンド紙幣も大量発行されていきます。大英帝国に従い、先進各国も次々と金本位制を採用していきます。

金本位制の欠陥

しかし、金本位制には致命的な欠陥があったのです。

金本位制のもとでは、通貨の発行量は金塊の保有量に制限されてしまうのです。新たな金(ゴールド)が市場に流通しない限り、経済が拡大しても通貨の流通量を増やすことはできないのです。そのために、経済成長は、デフレ経済を引き起こし、不況に陥る原因となってしまうのです。

1870年代から、先進国では第二次産業革命が起こりました。動力は蒸気機関から電力へ、燃料は石炭から石油へと移っていきます。主力産業も従来の繊維業から、重化学工業へと変わっていきます。

しかし、金山の発掘が停滞し、通貨の流通量が経済発展に追いつかなくなります。その結果、デフレとなり消費が停滞しまういます。そうして、19世紀後半には慢性的な不況に陥ることになるのです。

束の間の好景気

しかし、1890年後半になり不況から脱することになります。それは、南アフリカで巨大な金山が発見され、世界の流通する金(ゴールド)が突如として増加したからです。

金流通の増加により大量の通貨が発行され、消費が喚起されます。そうして、世界はつかの間の好景気にわきます。

1900年にパリ万博が開催され、エッフェル塔のエレベーターが披露され、100メートルの観覧車も建設されます。

また、ゴッホやセザンヌといった後期印象派の絵画が人気を博し高騰していき、アール・ヌーボーという新しい美術様式が生み出されていきます。

ココ・シャネルのデザインしたモダンな帽子やスーツが脚光を浴び、ティファニーの装飾品が人気を呼んでいきます。

しかし、その好景気も束の間に過ぎませんでした。金山の開発が停滞し通貨量が不足し、世界は再び不況に陥っていくのです。その不況は、第一次大戦の遠因にもなっていくのです。

金本位制により長引くアメリカの大恐慌

第一次大戦後に世界経済の中心は、ロンドンからニューヨークに移っていきます。

1920年代に新興国アメリカは未曾有の繁栄を迎えます。しかし、その繁栄は1929年の株価大暴落で突然終焉します。

そのような不況では、金融緩和により通貨の流通量を増やし、消費を喚起することが必要です。

しかし、金本位制では、通貨発行は金の準備高に制限されます。さらに、金の国外流出を止めるために、金利を高くすることが必要となります。その結果、不況はさらに悪化していくことになるのです。

1933年に大統領が共和党のフーバーから民主党のルーズベルトとなります。ルーズベルト大統領は、金本位制から離脱し、通貨切り下げを行います。しかし、本格的な景気回復は、第二次世界大戦の勃発を待つことになります。

現在の通貨政策

経済成長にしたがって通貨供給量を増やすことが必要です。そのためには緩やかな金融緩和つまりリフレ政策が不可欠なのです。

さらに不況の際には、景気を回復させるために、通貨発行量を増やし消費を喚起させることが必要です。リーマンショックから世界経済が速やかに回復したのは、大規模な金融緩和を導入したからに他なりません。

現在の経済政策では、緩やかなインフレ政策を行うことが原則です。通貨の発行を増やすことで消費を喚起させ景気を持続されるのです。その結果、通貨の価値は長期的には低下していくのです。

結論

急激な円高になった場合には、ドルを円に戻す誘惑に駆られるかもしれません。しかし、長期投資家は一切為替については何もしないことが大切です。

長期的には、ドルも円も下落していきます。結局、株価は企業の収益力に収斂するのです。そうして、通貨変動の影響は限りなくゼロとなっていくのです。

応援クリックして頂けると励みになります

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

-投資実務, 投資理論・哲学

Copyright© ゆるふわ投資家『鎌倉見物』の米国株投資 , 2023 All Rights Reserved.