4月2日、ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス(WBA)の決算発表から暴落に至りました。
決算の悪化には多くの要因があります。今回、その背景の一つを探ることで社会の変化について考えていきましょう。
今回のテーマは、人工知能台頭の時代に生き残る職業です。
目次
WBA暴落
2018年にWBAがダウ平均銘柄に採用されたことから、銘柄分析の記事を作成しました。
その際の記述を引用してみます。
ドラックストアでの競争は書籍や家電の販売とは全く異なります。この勝敗を決する主導権は、AmazonにもCVSにもWBAにもないのです。では誰が主導権を握っているのでしょうか。それはいずれ別の記事で述べていきたいと思います。
当時は詳細な言及を避けることにしました。記事が長くなりすぎるからです。
ドラックストアの収入源
調剤市場の主導権
今回、WBAの暴落から、関心が高まったために、緊急で記事を作成し、結論を明らかにすることとしました。
主導権を握っているのは薬剤師です。
いかにスキルの高い薬剤師を採用できるかが、ドラックストアの競争力の鍵となっていくのです。
他の小売との違い
まず、ドラックストアが、他の小売業と大きく異なる点について説明していきましょう。
日本でもマツモトキヨシやサンドラックのようなドラックストアが好調です。
そこでは、市販薬をはじめ、化粧品や洗剤が販売されています。しかし、その販売からはほとんど利益がないのです。
どこから利益が出ているのでしょうか。
それは調剤です。
調剤部門
調剤とは医師の処方箋に沿って薬剤師が薬剤を調合する業務です。
マツモトキヨシのようなドラックストアに入ると、市販薬や化粧品等の華やかな商品棚が目を引きます。そこから奥まったところに、オマケのように調剤部門があります。その調剤部門が、WBAに25%という高い祖利益率をもたらしています。他の小売業ではありえない高い祖利益率です。
日本の調剤業務
日本で調剤に行くと、薬剤師が処方箋に従って薬を詰めているだけのように思われます。
しかし、実際は、処方箋が出されたときに、詳細な問診を行っています。医師の前では、伝えていないことを薬剤師の前で初めて伝える受診者も少なくありません。医師の前では隠していた持病を打ち明けたり、アレルギー体質について伝えることも多いのです。
そのようなことから、日本で調剤費という薬剤師の技術料は1回で5000円ほどの保険点数になっています。本人負担は3割で1500円となります。後の7割は、社会保険支払基金かか国民健康連合会から支払われているのです。
アメリカの薬剤師
アメリカでもっとも信頼のある職種
しかし、アメリカの薬剤師は、日本以上に広範囲の裁量が認められています。
そのために、日本の薬剤師に比べて高収入となっています。アメリカの薬剤師の平均収入は日本円にして1000万円を超えているのです。
しかも、アメリカで、もっとも信頼される職業のトップは常に薬剤師です。医師が薬剤師を上回ることはほぼないのです。
そのように高収入で、信頼の厚い職種であることから、アメリカではもっとも人気のある職業の一つが薬剤師となっています。当然、求人は売り手市場であり、求人倍率は5倍を超えています。
もしも、薬剤師が、退職しても再就職は容易です。求人に応募すれば、まず面接となり即採用です。逆に、企業側にとって、後任者を見つけることは極めて困難です。最悪の場合には店舗の運営すらできなくなります。
採用で企業側には選択権はありません。企業は選ばれる側なのです。
処方権のある薬剤師
それでは、アメリカでの薬剤師には、どのような裁量が認められているのでしょうか。具体的に述べていきましょう。
まず、薬剤師に処方権が認められています。日本では、医師にしか処方箋の発行は認められていません。
もちろん、薬剤師の処方権は、医師のような包括的な権限ありません。医師からの委任された範囲に限定されています。病状が安定した患者に対して医師が期限を決めて処方箋を書きます。その期限内であれば薬剤師の裁量により、繰り返し調剤を行うことができるのです。
さらに、一定の範囲で、薬剤を変更したり、投与量の決定したりすることもできます。病態が悪化していると判断する場合には、医師への再受診を指示することも必要です。
開業医の仕事を担う薬剤師
次に、アメリカでは、薬剤師が初期治療の窓口になっています。
医師にかかる前に最寄りの薬剤師に相談する医療文化が育っているのです。さらに、薬剤師には予防接種を行う権限も認められています。
その背景には、アメリカの医療費が高額であることがあげられます。少しでも薬剤師に権限を委任することで、医療費の高騰を抑えるようにしているのです。
アメリカの薬剤師は、日本の開業医の役割を担っているのです。
そのために、薬剤師は、専門性だけでなく、コミュニケーション力も必要とされます。もちろん、責任も増しています。
ネット調剤の盲点
昨年、Amazonがネット調剤薬局のピルパックを買収しました。ピルバックとはネット専属の調剤薬局です。ネット専属というところに大きな落とし穴があるのです。
そもそも、診察とはドアを入るところから始まります。そこから歩き方や顔色をはじめとする診察が始まります。何か異常があれば、持病が悪化している可能性を考えます。
薬剤師の場合も同様です。受診者が、調剤に訪れた段階から観察は始まっているのです。
しかし、対面では判断できることが、ネット調剤では判断できないことも少なくありません。
もしも、ネット処方した受診者が急変した場合、薬剤師の過失を陪審員が認定すれば、巨額の損害賠償を負う責任が生じます。
さらに、処方箋を発行した医師に責任が及ぶこともあります。ネット調剤を禁止にしなかったことが過失として捉えられることも起こりえます。
当然、医師としては対面での薬剤師調剤に限定することもありえます。また、ネット処方は2回に1回というように医師が制限をつけることもありえます。
ITリテラシーの低い高齢者が顧客
そもそも、薬剤師が処方する場合は、高血圧や糖尿病のような慢性疾患がほとんどです。多くの場合は、ITリレラシーの低い高齢者です。高齢者は、ネット調剤ではなく対面の薬局を好みます。
そのために、調剤部門では、店舗とオンラインの融合が不可欠なのです。現在、多くの店舗を保有しているWBAやCVSが有利です
薬剤師の給与高騰
現在、格差が進行し、専門性の高い職種の給与が高騰しています。薬剤師も例外ではありません。その採用コストがWBAの収益を圧迫に繋がりました。
人工知能(AI)時代の薬剤師
オックスフォード大学の研究「雇用の未来」
では、薬剤師の業務が人工知能にとってかわることはないのでしょうか。
おそらくは、ないでしょう。
その研究では、イギリスのオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「雇用の未来」が知られています。人工知能の発達により薬剤師が駆逐される可能性は、1.2%と試算されているのです。
人工知能でもっとも消えにくい職業の一つが薬剤師といっていいのです。
薬剤師に必要なスキル
もちろん、調剤には、人工知能で代用できる部門が多くあります。薬を棚から取り出して袋に入れるようなルーチンワークが少なくありません。
しかし、それ以上に人工知能では対処できない業務があるのです。その多くが受診者とのコミュニケーションです。そこで病態の問題点が抽出されていくのです。
調剤の受付に入るときに、『歩き方に違和感がないか』、『顔色が悪くないか』と病態の観察が進んでるのです。そして、問診に入ります。そこにスキルの差が出ています。
人材コスト
現在、医療の内容が爆発的に増加しています。薬剤師の求人も増加の一途をたどっています。当然、採用コストも増加の一方となっています。
コストが収益悪化に繋がっていることは言うもまでもありません。しかし、スキルの高い薬剤師をいかに確保するかが競争力を分けるのです。人材コストを減らすことは競争力の低下に直結します。
人工知能の時代でも消えない職種
人工知能の苦手分野
では、どのような職種が、人工知能で駆逐されないのか改めて考えてみましょう。
それは、人工知能が苦手とする業務に他なりません。その一つにホスピタリティ系の職種があります。
看護師や、保母などが相当します。球場でビールを売る、カリスマ売り子もホスピタリティ系に含まれるかもしれません。
ピンクカラー
工場や建築などの肉体労働を『ブルーカラー』と呼び、頭脳労働者を『ホワイトカラー』と呼んでいます。
さらに、女性の多い看護や介護の仕事を『ピンクカラー』と呼ばれるようになってきています。
今後人工知能の台頭で、もっとも急速に衰退する職種が『ホワイトカラー』業務です。それは、ソフトウェアの進歩で足りるからです。
もちろん、『ブルーカラー』の業務もロボットに置き換えられていくでしょう。もちろん、機械の発達は物理的な制約があり、『ホワイトカラー』の業務ほど急激な衰退はありません。それでも、いずれ大半は人工知能のロボットにかわっていくことが予想されます。
しかし、『ピンクカラー』の職種が、人工知能やロボットにとってかわることは困難です。それは、看護師や保母ような『ピンクカラー』は、人工知能がもっとも苦手とするうホスピタリティ系の職種に他ならないからです。
人工知能が幼児をあやすことは不可能です。病人の看護のような仕事をすることも不可能です。
アメリカでは、薬剤師もホスピタリティ系の職種に相当します。日本の開業医の役割を担っているからです。
Amazon参入の見通し
参入での障害
最後にAmazon参入の見通しについて言及してみましょう。
恐らく、Amazonの調剤参入には、多くの障害が予想されます。調剤では、いままでのAmazonが築いてきた企業文化とは異なる戦略が必要だからです。
eコマースでは、バックオフィスであるIT業務がもっとも重要です。当然、IT技術者に最も高い給与が支払われています。
逆に最前線での従業員には安い給与しか支払われてはいません。
かつてAmazonの労働者の過酷な仕事がメディアで報道されていました。最近は、給与面では改善されました。それは、Amazonの倉庫がロボット化したため、従業員の数が減り、余った資金ができたためです。
このように、少なくとも最前線の人件費を安くするか自動化することで、コストを削減してきました。
しかし、医療の場合に最前線の人員のコストが最も高額となります。ドラックストアなら薬剤師で、病院なら看護師や医師です。
とにかく調剤では、スキルの高い薬剤師をいかに確保するかが重要となります。Amazon倉庫のような人材の使い捨てや完全な自動化は不可能です。
薬剤師は、人工知能がもっとも苦手とするホスピタリティ系の職種なのです。
異なった企業文化が必要とされる調剤では、Amazonも苦戦すると思われます。
Amazon参入が成功した場合
しかし、amazonのベゾスCEOに常に困難を克服してきました。いずれ、失敗を克服して、調剤でも一定のシェアを確保するように思われます。
もちろん、150年以上つづいてるWBAが消えてAmazonの1極支配となるとは考えられません。もっとも成功した場合であっても、WBA、CVS、Amazonの3強体制を築く段階と考えていいと考えられます。
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