ナイキ(NKE)は世界最大のスポーツ用品企業であり、そのブランド力をは極めて強力です。その強いブランド力による高い収益力により、ダウ平均の30社の1つを担うまでに存在感を高めているのです。
さらに、ナイキは、ダウ平均30社で最も強い配当成長株の1つであり、自社株買にも積極的です。
このようなナイキのブランド力と積極的な株主還元から、長期投資にふさわしい企業とも考えられます。
しかし、ナイキはアパレルというセクターに分類されています。そもそも、アパレルは栄枯盛衰が激しいセクターであり、バイアアンドホールドの長期投資には適さない業界ともいわれています。
今回の記事では、そのようなナイキについて、果たして長期投資にふさわし企業かどうかについて検討していきます。
目次
ナイキ(NKE)の沿革
後発企業であるナイキ(NKE)
ナイキは世界最大のスポーツ用品メーカーであり、その市場支配力か古くからの老舗企業であると思われるかもしれません。
しかし、創業は1964年です。アディダスやプーマの創業が1920年のドイツであることを考えるとスポーツ用品メーカーでも新しい企業なのです。
そのためにナイキは挑戦者としてスタートしています。その挑戦者としてのスピリッツがそのブランドの価値を高め、アディダスをも抜き去り世界最大スポーツブランドを生み出したのです。
創業と発展
ナイキは1964年にオレゴン大学で陸上選手だったフィル・ナイトにより創業から始まります。
創業当初の企業名はブルーリボン社と名付けられていました。しかも、日本のアシックス(当時の社名はオニヅカタイガー)のアメリカ代理店に過ぎなかったのです。
日本に目をつけたのは当時シューズの市場を支配していたアディダスやプーマへの挑戦に他なりません。圧倒的な知名度を誇るドイツのシューズに対抗するために、同等の品質のシューズを製造できる技術のある日本のアシックスに着目したのです。そこから、当時アメリカでは無名であったアシックスのシューズを販売する代理店として創業することになったのです。
アシックスの高品質のシューズは北米でも人気を博してきます。しかし、アシックスの売上が拡大するに従い、フィルナイトとアシックスとの溝が深まることになります。もっと経営の安定している代理店に依頼したいアシックスと、こだわりからシューズを自社製造もしたいフィルナイトとの間でもはや提携を続けることが困難になったのです。ついに1971年提携が解消されました。
解消後、ナイキに社名を変更し、自社ブランドのシューズ製造を開始します。しかし、当時のナイキに、アシックスに匹敵する品質のシューズを大量生産する技術も経営基盤もありませんでした。さらに、参入障壁の高いシューズ製造業界で、当時のナイキのような弱小企業に出資する投資家はウォール街に現れることもなかったのです。その時に出資した企業は、日本の日商岩井だったのです。
その日商岩井の出資を足がかりに、著名なスポーツ選手を広告塔とする戦略で規模を拡大します。テニスのマッケンローや、マイケル・ジョーダン、タイガー・ウッズをはじめ多くの選手と契約を行い、伝説的な急成長を遂げていくのです。
その後、ナイキはアディダスを抜き去り世界最大のスポーツ用品企業として市場に君臨することになります。
2016年、ナイキを大企業へと導いた創業者のフィル・ナイトが引退しました。
ナイキの事業
事業のポートフォリオ
ナイキは、現在、世界最大のスポーツ用品企業であり、その年間売上高は約360億ドルです。2位のアディダス200億ドル、3位のアンダーアーマー(UA)60億ドルを大きく引き離しているのです。
そのような巨額の売上がどのような事業から来ているかをみてみましょう。
ナイキブランドのフットウェア 61%
ナイキブランドのアパレル 30%
ナイキブランドの用具 4%
コンバースブランド 5%
ナイキブランドのフットウェアとは、シューズに他なりません。シューズが売上げの60%と圧倒的な割合をしめています。
アパレルはウェアやソックス等です。
用具は、スポーツバックや、ボール等です。
以上はすべてナイキブランドです。その他にコンバースも保有しています。かつては、コンバースは、アメリカ国内ではバスケットシューズで圧倒的なブランドを誇っていました。しかし、競争力低下により2001年に倒産することになります。ナイキは2003年に再建後のコンバースをナイキが買収しました。しかし、その割合は5%に過ぎません。
グローバル展開
次にグローバル市場での展開をみてみましょう。その市場は世界中に及びます。
北米 44%
欧州、中東、アフリカ 28%
中国 14%
アジア太平洋・南米 13%
北米が4割を超えているものの、欧州や中国でも高い売上げを誇っています。
アメリカの三大人気スポーツは、アメリカンフットボール、バスケットボール、ベースボールです。しかし、バスケットボール以外はアメリカを中心に限られた国でしか人気がありません。
やはり世界中で人気のあるスポーツは、サッカーをおいてほかにありません。
欧州や南米でも売上が高いことは、サッカーにもナイキブランドが浸透していることを意味しています。
2017年の停滞と、2018年の躍進
2017年の株価下落
ナイキの株価は2016年、2017年と停滞することになります。2015年12月には最高値68ドルに到達するも、2016年と2017年は一転し、50ドルを切ることすら出現するのです。
北米での販売減少
それは、北米での販売が減少したことが原因でした。
まず、北米での不振の原因の一つは、店舗型モールでの販売が減少したことによります。北米で小売が店舗からネット販売に移行することで、ナイキは従来の販売チャンネルを失っていくことになったのです。
さらに、競争激化も停滞に拍車をかけることになります。
2016年までは、北米内でスポーツ用品の新興企業アンダーアーマー(UAA)が急激に売上げを拡大し、ナイキの足もとを脅かしていました。
2017年になると、アンダーアーマー(UAA)の勢いにかげりが見えたものの、
かつての王者アディダスが北米での売上げを急激に回復し、ナイキを追撃しました。
その上、アンダーアーマー(UAA)や、アディダスだけでなく、アシックスやプーマのような手強い競争相手が市場をうかがっています。
そのような競争激化により王者ナイキも停滞を余儀なくされたのです。
ファイナンス
それでは、ナイキの売上、キャッシュフロー、利益を確認することで、2016年と2017年にわたり、どのように停滞したたかを確認してみましょう。
2016年、2017年と売上そのものは、停滞するどころか急激な成長がもたらされているのです。
それは、ナイキが国際市場、とくに新興国で急激に成長したことによります。その成長が、北米での売上の減少を相殺することになったのです。
具体的にみれば、2017年にナイキの北米での売上高は5%も減少しています。
しかし、中国では13%も成長したのです。また、アジア太平洋/ラテンアメリカでも7%、欧州、中東、アフリカでも9%の成長がもたらされました。国際市場での力強い成長は、北米での減少を相殺することになったのです。
粗利益率の低下
しかし、ナイキは売上が急激に増加しているにもかかわらず、利益そのものは、そこまで急激には成長していないのです。
その原因は、経費が増加に他なりません。経費の増大は売上と営業キャッシュフローを14%にも悪化させてます。
経費は、為替相場の悪化と原材料費の増加、研究開発費があげられます。しかし、最大のコストは、広告宣伝費の爆発的な増加に他なりません。
現在、スポーツビジネスでの広告は、著名なアスリートと契約し、その選手を広告塔とすることがもっとも効果的な手法と言われています。その契約金は年々高騰しています。
1994年にナイキはタイガー・ウッズと5年で40億円の契約をしました。当時、あまりの高額契約に世間は唖然としました。しかし、現在はその額では有名なアスリートと契約することは不可能です。最近では、有名なアメリカのバスケットボール(NBA)のレブロン選手とナイキが生涯契約をしています。その額は10億ドル(1100億円)を超えると言われているのです。大手スポーツ企業での契約獲得競争によりここまでの高騰を引き起こしたのです。
2018年の最近の決算
2018年に入るとナイキの株価は回復しました。では、その回復の基礎となる財務状態を確認するために、直近の2018年第3四半期の決算をみてみましょう。
停滞していた北米の売上が昨年の同時期にくらべ6%も上昇しています。さらに中国では、24%も上昇しているのです。
欧州・中東・アフリカでも11%、アジア太平洋・南米でも7%も成長します。
中国や南米のような新興市場を中心とした成長エンジンは依然として好調であり、さらに本国の北米でも回復の兆しが現れてきたのです。
北米での回復は、宣伝広告戦略が功を奏したとともに、新たな販売チャネルが軌道に乗ったことによります。
ナイキは、将来の成長エンジンを構築するために、急激に拡大する電子商取引による新しい販売チャネル網に投資をすすめていました。
それは、ナイキ独自のオンライン販売網であるNIKE Directのみならず、インターネット小売大手Amazonとも提携することに踏み切ります。その提携により、ナイキはAmazon限定のシューズや、アパレル、アクセサリーの販売を開始したのです。
そのような電子商取引の投資が効を奏し、NIKE Directの売上は11%増加し、オンライン販売全体では19%もの成長がもたらされたのです。
株主還元
優れた配当実績
ナイキの継続的な成長により、配当の増加が可能とあり、16年間連続の増配をもたらされることになります。しかも、ぞの増配率は、最近5年間で年率15%にもおよび、過去10年間で配当額は249%も上昇したのです。
現在、株価が高騰しているために配当利回りは、1.0%に過ぎません。しかし、配当性向は30%に過ぎないために、増配余地は高いと判断できます。高収益成長と低い配当性向の組み合わせは、今後も10%以上の増配が可能と思われます。
積極的な自社株買い
ナイキは過去10年間で株式を積極的に自社株買いを行ってきました。2015年後半には、4年間で120億ドルの自社株買戻し計画を発表しました。さらに、経営陣はガイダンスで自社の株式買戻し計画が当初予定していたよりも1年早く完了することを説明しました。今後も、ナイキは株式の買い戻しを追求すると思われます。そのことにより1株あたりの利益は加速され力強い増配をもたらすと考えられます。
ブランドの永続性
高いブランド価値
現在、フォーブスによると、ナイキは世界で16番目に価値の高いブランドであり、その価値は300億ドルと算出されているのです。そのような強いブランドは、ナイキの消費者に対する価格設定力をもたらします。
その強力なブランド力を背景に、ナイキの年間売上高は約360億ドルにも達するのです。それは、2位のアディダスは200億ドル、3位のアンダーアーマー(UA)は60億ドルを大きく引き離していることからその巨大さが理解できるでしょう。そのような巨大な規模は、ナイキが小売業者やサプライヤーとのより良い取引条件を交渉することや、研究開発への巨額の投資が可能となるのです。
栄枯盛衰のリスク
大切なのは、そのブランド力の永続性です。
一般にアパレル業界は栄枯盛衰が激しく、業界トップの企業が時代とともに入れ替わることが通常です。
しかし、シューズ市場はそのアパレルでも栄枯盛衰が少ない業界と判断することができます。
それは、日常生活を観察すれば理解できます。
シューズを購入するときに、店でためしに履きをするかもしれません。しかし、購入して実際に履くとためし履き時の感覚と大きく異なります。そのために、消費者は今まではき慣れたメーカーのシューズを購入する傾向が強くなるのです。
さらに、シューズの場合に、多数のシューズを購入し毎日違うシューズを気分で履くことありません。毎日、同じシューズを履くことが通常です。そのために、シューズの購入に失敗した場合にはあわないシューズをしばらくはき続けざるえないことになります。
そのことから、シューズにつては消費者は保守的にならざるえません。そのような傾向からシューズ業界は、アパレルの中でも例外的に栄枯盛衰はおこりにくいのです。
結論
現在、高騰している段階であえてナイキに投資することは推奨できません。しかし、リーマンショックから10年経過し景気後退の足音が聞こえつつあります。景気後退によりナイキ株が大きく下落するなら、そのときは長期投資の対象として検討すべき企業であることは疑いありません。
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