投資雑談

【敗北したジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)】心臓血管ステントをめぐる興亡 その1

投稿日:2018/7/21 更新日:

シーゲル博士によるバリュー投資研究である『株式投資の未来』。そこで永続性の高いS&P500生き残り銘柄が高いリターンを出していることが明らかになりました。その生き残り企業の中でも、アボットラボラトリーズ(ABT)は第2位のハイリターンを出しているのでした。

今回は、そのABTの中でももっとも重要な製品である冠動脈ステントをめぐる興亡について述べてみます。

冠動脈疾患に対する治療の進歩

冠動脈ステントの覇者 アボット(ABT)

前回、ABTについて紹介をしました。ABTは医療機器、検査試薬、栄養剤、ジェネリック医薬品等を製造販売している世界的なグローバルなヘルスケア企業です。その中でも心臓病の医療機器はABTにとってもっとも重要な分野です。

その心臓病でも、狭心症および心筋梗塞はもっとも死亡者数の多い疾患です。その狭心症や心筋梗塞に対する治療機器である冠動脈ステントをめぐる興亡について紹介をしていきます。

狭心症および心筋梗塞

心臓病を治療するための医療機器が重要である理由は、その強い侵襲性にあります。強い侵襲性のある医療機器の製造には、長期にわたる信頼と実績が不可欠です。その信頼と十隻から、高い付加価値が形成され、価格決定力を保持することができるのです。そのために、心疾患の医療機器は、ABTに極めて高い利益率をもたらしています。

心臓病の中でも、心臓の冠動脈がつまる狭心症や心筋梗塞は、先進国で急速に増加しています。しかも、先進国のみならず、今後大量の中産階級を抱えることになる新興国でも急激に増えていくことが確実です。

冠動脈は正常でも3mmほどの直径しかありません。その冠動脈が動脈硬化によりさらに細くなることにより狭心症や心筋梗塞が出現します。場合によっては1mm以下の直径になることもあります。むしろ、そこまで細くならないと狭心症や心筋梗塞にならないといっていいかもしれません。

冠動脈ステント

冠動脈ステントは細くなった冠動脈を広げそれを固定するステントです。極めて細くなった冠動脈を拡張させるためには、微妙な操作が必要であるとともに、その治療も極めて侵襲性の強い手法となります。操作によっては、血管が裂けて死亡に至ることもあるのです。

そのステントをどのように挿入していくのでしょうか。理解しやすいようにYouTubeの動画を引用してみました。説明は英語ですが、英語が理解できなくても大丈夫です。動画を見るだけで理解できます。

冠動脈ステントをめぐる興亡

冠動脈ステントの寡占市場

引用したYouTubeのようにガイドワイヤーを経由して、心臓の血管にステントを挿入していきます。強い侵襲のある治療器具であり、高い安全性と実績が要求されることから、高い参入障壁が形成されています。

そのために現在では冠動脈ステント市場は、アボット(ABT)、メドトロニック(MDT)、ボストンサイエンティフィック(BSX)の3社の寡占状態になっているのです。

冠動脈ステントを開発したヘルスケア企業

しかし、当初のステントの開発企業はその3社ではなかったのです。

開発企業は、世界最強のヘルスケア企業ジョンソンエンドジョンソン(JNJ )だったのです。ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)はS&P社の格付けもAAAと最高評価を得ているアメリカでももっとも信用の高い企業の1つです。アメリカ企業といえども、格付けAAAに到達している企業は、JNJとMicrosoft社の2社しかありません。

そのような最強のヘルスケア企業JNJが開発企業であるにもかかわらず、その後JNJはABTに敗北し冠動脈ステントから撤退を余儀なくされたのです。

今回、ABTが、最強企業のJNJからシェアを奪い、心臓血管ステントの盟主としての地位を獲得した過程を見てみましょう。

冠動脈を風船で拡張する治療の開発

まずは、心臓血管の冠動脈を風船で拡張する治療方法が開発された時代を見てみましょう。

1977年にスイスで、心臓の血管である冠動脈を風船によって拡張する治療が成功しました。それまでは、投薬か人工心肺を回して行う心臓手術しか方法がなかったのです。この画期的な治療法は瞬く間に全世界に広がりました。しかし、その風船による治療は予期せぬ合併症も引き起こすことになったのです。特に、拡張後に急激に細くなって血管が詰まってしまう再狭窄が深刻な合併症として出現したのでした。

ジョンソン・エンド・ジョンソンによるステント開発

その再狭窄を減らす画期的な方法が、1992年にJNJにより開発されました。それは心臓の血管である冠動脈に金属製のステントを挿入して再狭窄を防ぐ方法です。

そのステントはPalmaz-Schatzステントといい、発売後全世界でほぼ100%のシェアをとることになったのでした。

アボット(ABT)による冠動脈ステントの追い上げ

しかし、高価格であるために、病院は治療すればするほど赤字になったのです。JNJのみ利益が出る価格設定に不満を感じたアメリカの循環器専門医は、ABTが冠動脈ステントを開発しているということを知り、こぞってABTの開発に協力しました。その結果、よりスムーズに操作が出来るステントが開発されたのです。そして、アメリカ中の循環器専門医がABTのステントの発売を待ち望んだのです。

 1997年、ついにABTのMulti-Linkステントが販売されました。その日を境に、支配的地位にあったJNJは短期間でその位置から陥落し、そこにABTがつくことになったのです。

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)の巻き返し

しかし、そのステントでも、再狭窄を完全に防ぐことはできませんでした。ABTに支配的地位を奪われたJNJは、再度画期的な製品を発売します。ステントから狭窄を防ぐ薬剤が持続的に流出することで狭窄を防ぐ薬剤溶出ステントを開発したのです。2003年にJNJから発売された薬剤溶出ステントであるCypherは、瞬く間に世界のステント市場の75%を占めることになりました。しかし、またも高値のために医療機関は、治療すればするほど赤字になることになったのです。

アボット(ABT)による覇権形成

2005年、アメリカのガイダント社は次世代薬剤溶出ステントを開発しました。以前の薬剤よりも血栓症や再狭窄の出現を減らすことにできる薬剤が開発されたのです。

2006年アボットが、ガイダント社の心臓血管部門を買収に成功します。そのガイダント社が保有していたライセンスを元に、2008年、ABTから次世代薬剤溶出ステントであるXIENCE (ザイエンス)ステントがアメリカで発売されました。

2009年のステントのシェアを下の図で提示します。ABTが58%のシェアを確保しています。ABTの薬剤溶出ステントがまたもJNJの支配的地位を奪うことに成功したのです。

2010年に日本でもABTの次世代薬剤溶出ステントであるXIENCE (ザイエンス)ステントが発売されました。それにより、JNJが優位であった日本でも、ABTのシェアが拡大しました。

2011年のシェアが下の図です。JNJは日本でのシェアもほぼ失うことになったのです。ついにABT、BSX、MDTの寡占市場が形成されたのでした。

最後に

JNJの医療業界への比類のない貢献

なお、個々でJNJを非難することは適切ではありません。心臓の冠動脈のステントを開発するためには、莫大な開発費がかかることは容易に想像できます。その開発費用を回収するには、当然、高い値段設定が必要であることは言うまでもありません。JNJが世界に計り知れない恩恵をもたらしたことを忘れてはいけません。

むしろ、最強企業JNJに挑戦し、冠動脈ステントの覇権をJNJから奪取することで健全な市場を作り上げることに貢献したABTを評価すべきと思われます。

JNJの敗北と、ABTのその後

その後、ついに最強のヘルスケア企業であるJNJが敗北を認める時が来たのです。そのことについては次回に述べていく予定です。

さらに、冠動脈ステントの覇者となったABTのその後についても、述べていく予定です。

つづく

参考サイト ドクター斉藤のインド訪問記Ⅱ

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