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【アスベスト問題で売却した理由】最強ヘルスケア企業ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)

投稿日:2018/12/22 更新日:

今回、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)について記事にしました。

JNJは、マイクロソフトとともに、S&PからAAA格付けを受けている企業です。その歴史は130年を超え、連続増配記録も55年にも及ぶのです。

本来は、あまりにも優れた企業であるために、分析する必要性もありませんでした。

しかし、先週ロイターによるアスベスト問題の報道から、株価が大きく下落しました。そして、私自身はロイターの報道とCEOの発言から、永久に保有すると考えていたJNJをいったん売却することにしました。

売却が正解かどうかはわかりません。ただし、どうして売却したかについて多くの投資家の方の参考になればと考えました。

目次

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)

沿革

JNJは世界最大のヘルスケア企業です。しかし、その巨大企業も創業はささやかなものでした。

JNJは、1866年ロバート、ジェームス、エドワード・ジョンソンの3人の兄弟によって設立され消毒製品、応急処置キットの販売を始めました。

その後、ベビーパウダー、生理用ナプキン、デンタルフロスなど新製品を着実に発売し、発展を遂げました。

そうして、現在、世界60カ国以上で事業を展開するグローバル企業への成長しました。年間の売上は約710億ドルにもおよび、13万1000人の従業員を抱える世界最大のヘルスケア企業です。

3つの事業ポートフォリオ

現在、JNJポートフォリオの3つの主要セグメントに分かれています。。

医薬品(売上高の49%)
医療機器(売上高の33%)
コンシューマーヘルス製品(売上高の18%)

の3つです。その3つの事業セグメントそれぞれに強力なビジネス基板があります。それぞれについて説明してみましょう。

医薬品

JNJの医薬品部門は、成長の最も強力な領域です。 2017年に売上は11%増加しました。

医薬品部門のなかで、免疫部門が32%、腫瘍部門が24%の売上げと半分以上を占めています。

免役部門は、レミケード等のバイオ製剤です。ABBVのヒュミラに抜かれるまでは、最大の売上げ高を誇っていた医薬品です。

レミケードはリウマチやクローン病のような自己免疫疾患に投与されました。

リウマチは、徐々に関節が蝕まれ人工関節を余儀なくされていきます。

また、胃腸のクローン病は、少しずつ腸が蝕まれ、最終的には腸から栄養をとることができなくなります。その場合は点滴で栄養をとるしかなくなるのです。

従来はリウマチやクローン病の進行を止めることは不可能でした。それがレミケードにより病気の進行が止まるようになったのです。

腫瘍部門も驚異的な売上げの増加がもたらされています。従来のような抗がん剤に加えて、ブリストルマイヤーズのオプジーボのような免疫系に作用するバイオ製剤も開発され売上げを伸ばしています。

新薬のポートフォリオも豊富であり、2021年までに年間10億ドル以上の販売可能性を持つ10の新製品を投入する予定となっています。

医療機器

JNJの医療機器の成長は医薬品部門ほど顕著ではありません。しかし、それでも4%の増収と着実な成長を遂げています。

世界の医療機器市場は、新興国の発展と先進国の高齢化により、引き続き成長することが予想されています。

JNJは、人工関節ではすでに世界シェアトップとなっています。

外科での吸収糸、セルロースでできた吸収される止血ガーゼもあり、強い競争力があります。

さらにコンタクトレンズのシェアも世界トップです。

医療機器は、製薬に比べ特許切れのリスクが低く着実な成長が予想されます。

以前は、心臓血管系のステントを開発し、そのシェアを独占していました。しかし、後発のABTやMDTに破れ以前ほどの強さはありません。その理由は、JNJの奢りとも考えられます。そのことを以前記事にしています。

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コンシューマーヘルス製品

コンシューマーヘルス製品部門にも強力なブランドがあります。中でも付加価値の高い化粧品が30%を締めています。バンドエイドやベピーパウダーもこの部門の製品です。

その強力から、年間4%の売上げ増加がもたらされました。

ファイナンス

グラフでJNJの強力なキャッシュフローが確認してみましょう。

そのキャッシュフローから、多額の研究開発費が投じられ、製品のイノベーションと新薬パイプラインの拡張をもたらしてきました。その研究費用は年間1兆円にも上ります。

さらに強力なキャッシュフローの成長により、55年連続して配当が増加しています。

バランスシート

バランスシートも極めて強力です。優れた債務状態によりスタンダード&プアーズによりAAA信用格付けと評価されているのです。米国企業でAAAの格付けは、マイクロソフト(MSFT)とJNJのみです。

ロイターのアスベスト報道

ロイターの報道

そのJNJが、ロイターの報道をうけ、急撃な株価下落に見舞われました。

ロイター通信によれば、JNJが、70年代からベビーパウダー製品に発がん物質が混入するケースを認識しながら米食品医薬品局の報告を怠ったとのことです。

現在、JNJはベビーパウダーの発がん性を巡り、複数の集団訴訟に直面しています。その資料をロイターが社内記録や法廷文書を調べたところ、ベビーパウダーからアスベストが検出されたにもかかわらず報告を怠ったことを示す記録が見つかったのです。

さらに、JNJはベビーパウダーの研究費用を負担した上で、ゴーストライターを雇ってその研究論文を書き直させ学会誌で発表までしたことが明らかになりました。

ゴースキーCEOの反論

報道を受け、JNJゴースキーCEOは「ロイターの報道はばかげた陰謀論」として反論しました。さらに、最大50億ドル(約5630億円)の自社株買いを実施を発表しました。

しかし、肝心の安全性については、「タイレノールを即座に回収した当社が発がん物質混入の事実を隠して製品を売り続けるはずがない」と争点をはぐらかし、「ベビーパウダーは安全だ」と繰り返すばかりだったのです。

タイレノール事件

ここでタイレノール事件について説明してみましょう。

タイレノール事件とは1982年秋に、JNJの主力商品の解熱鎮痛剤タイレノールに、何者かが毒物を混入し、シカゴ周辺で少女ら7人が死亡した事件です。

当時、タイレノールは鎮痛剤市場の35%を占め、米国では鎮痛剤の代名詞的存在でした。

危機に直面したJNJは、当時のCEOを筆頭に戦略チームを結成し、事件の犯人や原因が分からない状況で、あらゆるメディアを通じ「タイレノールを買わないように」というメッセージを流したのです。さらに莫大な費用を使い、全米に出回った3100万個に上る製品を回収したのでした。

しかし、その徹底した情報開示と安全性追求がブランド価値を高める結果となったのです。事件直後に8%まで低下したタイレノールの市場シェアは1年間で事件以前の35%を回復したのです。そうして、JNJのこの対応は、米企業の危機管理のお手本として経営学の教科書に使われているのです。

ドラッカーが最重視する『真摯さ』

このような利益よりも顧客を重視する姿勢をドラッカーは“真摯さ”と表現しています。

ドラッカーは、企業の目的を『顧客の創造』と考えます。顧客の創造のためには、顧客への真摯さがもっとも重要なのです。

そして、真摯さこそ、ブランド価値を高め、企業の永続性の源泉となっていくのです。その結果、企業への繁栄をもたらし、株主への利益につながるのです。

今回の、CEOの態度は、果たして顧客に対しての真摯さを感じることができるでしょうか。

確かに、自社株買いは投資家には利益になるかもしれません。しかし、株主に報いるのは、自分自身がストックオプションや、株価連動の報酬という自身の報酬体系によるとも考えられます。さらにCEOとしての任期を乗り切ることだけを考え、その後のことは関心がないようにも感じられます。

そもそも、ロイターの報道から即座に絶対安全と主張しているものの、そんな短期間でどのような調査をしたのでしょうか。むしろ、発がん性についての隠蔽を知っていたからこそ、即座に否定していると考えた方が話としては自然です。

タレノール事件では、結論が確定していない段階で、顧客の安全を第一に考え、莫大な宣伝費を投じて、タレノールの使用を控えるように繰り返し伝え、製品を回収しました。

タイレノール事件を持ち出せば持ち出すほど、その態度の差が鮮明となっていきます。

タレノール事件でのJNJの真摯な態度は過去として過ぎ去ったというほかありません。どれだけ、強い企業であったも奢りがあれば衰退の芽が生じるのです。

巨額の懲罰的損害賠償

ベビーパウダー自体はJNJの売上に占める割合は極めて低くわずかしかありません。そのために、ベピーパウダーの売上を失ったとしてもJNJの財務状態に何ら影響を与えるものではありません。

しかし、問題は、知りながら隠蔽した際に、後で発覚の場合の損害賠償です。

ベピーパウダーの発がん性が明らかになった段階ですぐに情報開示した場合については、巨額の懲罰的損害賠償にはなりません。そもそも、懲罰的な判決を行う必要がないからです。

しかし、事実を知りながら隠蔽をした場合には、懲罰的損害賠償の対象となっていくのです。

その場合には、たとえJNJでも存続が厳しくなるほど巨額となることもありえるのです。

90年代のタバコ企業への懲罰的損害賠償

かつて懲罰的損害賠償で大企業が存続の危機となった事件は、タバコ訴訟です。

80年代までアメリカでもタバコ企業が裁判で負けることはほとんどありませんでした。

しかし、タバコ企業が発がん性を認識しているのもかかわらず隠蔽をしたいた文書が社外に流れ、風向きがかわります。州政府が集団で訴訟に踏み切り、当時で25兆円の懲罰的損害賠償により和解となり、さらに今後の免責が成立しました。

結論

私自身は、ロイターの報道に対するCEOの態度から、JNJを売却して距離を置くことにしました。

もしも、ベピーパウダーが本当に安全だったなら杞憂ともなりえます。そもそも、歴史ある永続性のある企業の株を苦境時でもホールドし、配当再投資をし続けることこそ利益の源泉でもあるのです。その意味では、長期投資家として失格かもしれません。

現在の時点では、確定的な真偽はわかりません。大切なことは、自分自身で考えることです。他人の意見を聞くことは大切です。しかし、最終的には自分自身で考えて結論を出すことが重要です。

今回の記事が、JNJのアスベスト問題について、投資家の方々にとって考える材料になればと思います。

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