アメリカでは、活況を極めたショッピングモールが次々と廃墟となっています。その原因は、Amazonをはじめとするオンラインショッピングであることは疑いありません。
しかし、ショッピングモールの凋落はAmazonだけが原因ではないのです。
私事ですが、10年あまり住んだ郊外から、駅近に引越しました。それをきっかけに、改めて郊外型ショッピングモール衰退の背景を理解することができました。今回、そのことを記事にしたいと思います。
目次
郊外
10年前に賑わいのあった郊外型ショッピングセンター
引越前のマンションは東京通勤圏の駅からバスで15分ほどのところです。そこでは、郊外型ショッピングモールをはじめ、戸建住宅が立ち並んでいました。
10年ほど前に住み始めた頃は、ショッピングセンターは大変な賑わいを見せ、周辺の公園には子供が溢れていました。
10年前の小売り絶対王者イオン
当時、イオンは全国に郊外型ショッピングセンターを展開し、ライバルのイトーヨーカドーの大きな差をつけていました。まさに一人勝ちの状態だったのです。
イオン進出を受け、駅前商店街は次々にシャッター街となっていました。
苦境に陥った郊外型ショッピングセンター
10年あまり経過しイオンモールは苦境に陥り赤字が膨らんでいます。
私の住んでいたマンション近くの商業施設にもテナントの撤退が目立ってきました。空いたテナントを埋めることも困難で、埋まったとしても、集客力の乏しいテナントばかりです。
本屋が撤退し、鉄道模型店となりました。
子供服店が撤退し、仏壇屋となりました。
マンションや公園で聞こえた子供の声も全く聞かなくなりました。
アメリカでのショッピングモールの不調
郊外型の巨大ショッピングモールの不調は日本だでけはありません。
アメリカでも、かつて繁栄を極めたショッピングモールが次々と廃墟となっています。ネットで『廃墟 モール』と検索すると、アメリカ中の廃墟となったショッピングモールの光景が出てきます。
理由の一つがAmazonをはじめとするオンライン販売の興隆であることは言うまでもありません。
グローバル経済によるライフスタイルの変化
東京通勤圏駅の活況
しかし、郊外型ショッピングモールの衰退はAmazonのよるものだけではないのです。そこには、経済のグローバル化によるライフスタイルの変化も大きく関わっているのです。
引越先の賃貸マンションは、東京通勤圏の駅から徒歩5分以内です。大手ディベロッパーがファミリー向けに賃貸している物件で、敷地内には公園や大型商業施設、スポーツジムもあります。ショッピングセンターの中には人が溢れ、隣の公園には多くの子供が遊んでいる光景が目に入ってきます。
その光景は、都市部は多くの人口が流入する一方、郊外や地方が衰退を意味しているのです。
世界中の現象である地方と郊外の衰退
アメリカでも、廃墟となった商業モールの多くは、中西部の郊外に位置しています。
都市への人口流入と、地方や郊外の衰退は、日本だけではなく、アメリカを始めとする先進国に共通する現象なのです。しかも、その現象はこの10年で急速に加速度を強めています。
郊外に住む団塊の世代
ライフスタイルの変化について、詳しく説明してみましょう。
10年前、消費の主役は団塊の世代でした。
団塊の世代は、妻が専業主婦である家庭が一般的です。
専業主婦世帯では、自然にも恵まれた静かな環境で子供をのびのびと育て、休日には近くの商業施設に車で出かけるライフスタイルだったのでした。
そのために郊外の駅バス物件が飛ぶように売れました。
一時的な専業主婦という現象
しかし、日本の国力が衰退することで、専業主婦の世帯を維持することが困難になってきたのです。
そもそも、専業主婦が成立するのは、終戦からバブル経済崩壊までの特殊な時期に過ぎません。
戦前は専業主婦は一般的ではなく、農村中心の社会でした。農村では家族で農業営み、夫のみが働いてるなわけではありません。家族総出で家業を行っていました。
戦後に、高度成長期が始まることで資本主義が発展し、サラリーマン家庭が増えてきたのです。当時の日本は、驚異的なスピードで高度成長を遂げました。そうして、戦後の廃墟から世界最大の債権国へと急激に変貌しました。そのような急成長であったからこそ、男性一人の稼ぎで家庭を維持することができたのです。専業主婦とは、そのような高度成長期でしか成立しない一時的な現象に過ぎなかったのです。
グローバル経済による先進国での所得減少
1989年のバブルを頂点とし、日本の経済力は衰退の一途をたどっています。
90年代からはじまったグローバル経済は、国境の壁を取り払い、先進国も新興国も同じ土壌で戦うことを余儀なくしました。先進国であろうとも、新興国であろうとも、同じ能力なら報酬は変わりなくなってきたのです。それにより先進国の所得が減る一方、中国をはじめとする新興国の所得が著しい向上がもたらされたのです。
経済のグローバル化により終身雇用も崩壊し、日本人の年収は低下の一途をたどっています。もはや、男性一人で家庭を支えることは不可能となったのです。
主流となる共働きのライフスタイル
そうして、現在は共働きのライフスタイルが主流となったのです。一人の年収が少なくとも、共働きにより収入のポートフォリオは2つとなり、世帯収入は増加することになります。
しかし、共働き世代には経済的な余裕があっても、常に時間に追われています。特に子育ての時期になると、まさに時間との戦いです。朝は保育園に子どもを預けてから会社へ向かい、帰りも保育園に子どもを迎えに行かなくてはいけません。その上、食事の準備、洗濯や掃除などの家事にも追われます。
そのために、共働き世帯にとっては、職場と自宅、そして保育園の距離を少しでも短くすることが不可欠です。駅近で住むことが絶対に必要なのです。
専業主婦世代のように、緑がたくさんあって子育ての環境がいいからという理由で、最寄りの駅からさらにバスで数十分もかかるような駅バス物件に住むなどあり得ない話です。
共働き世代の都市流入
幸いに、多くの製造業が、工場を、国内から生産コストの安いアジアなど海外に移転しました。その広大な工場跡地に都心部のマンションが大量供給されました。
もちろん、マンションも安くはありません。しかし、共働き世代は、経済的には余裕があります。そうして、共働き世代は都心部に流入していきました。購買力の高い共働き世代の流入により通勤駅周辺での経済は活況となっていきます。雇用も増えていきます。
逆に、地方や郊外は衰退の一途をたどっていきます。地元にUターンしても職のありつけない状態となったのです。
現在、10年前に一人勝ちであったイオンは凋落し、共働き世代の需要とマッチしたセブンイレブンを擁するイトーヨーカドーの興隆がもたらされています。
最後に
ライフスタイルの変化による郊外ショッピングセンターの衰退
郊外型ショッピングセンターの衰退は、Amazon効果だけでなく、グローバル経済により、ライフスタイルが共働きに変化してきたことも大きな原因なのです。
Amazon効果に影響されにくい都市型の小売り
逆に言うなら、都市型の小売りは、Amazon効果を受けにくいと考えていいでしょう。
Amazon効果により大きく下落した小売株を狙う投資家は、郊外型か都市型かの視点も大切と思われます。
郊外の不動産は『不動産』
また、ライフスタイルの変化は、不動産を購入する際の材料となるでしょう。
車の場合には、廃車することで所有から逃れることができます。しかし、マンションのような不動産を廃車することはできません。所有から逃れたいなら、売却するしかありません。収益を上げるにも借り手がいなければいけません。
しかし、郊外型の戸建やマンションに借り手が出るはずもありません。購買力のある共働き世代からは見向きもされないのです。もちろん、売却したくても買い手も見つかりません。結局、維持費と固定資産税が毎年かかる『負動産』と化していくのです。
不動産を購入する場合に、『負動産』とならないために、借り手や買い手が見つかる駅近物件にすることが不可欠です。
10万円でも買い手が見つからないリゾートマンション
典型的な『負動産』は、バブル時代に建設された湯沢スキー場のリゾートマンソンでしょう。当時2000万円もしたにもかかわらず、現在10万円でも買い手が見つからないのです。
ビル・ゲイツの前に世界一の大富豪であった堤義明氏
バブル期は映画『私をスキーに連れてって』が大ヒットし、スキーは絶大な人気を誇っていました。ブームに乗り、西武グループ総裁の堤義明氏は、日本全国にスキーリゾートを開発しました。当時、堤義明氏は世界一の大富豪であり、1994年までその地位を保っていました。しかし、1995年にwindows95に成功したビル・ゲイツにその座を明け渡すことになります。今から24年前です。
あたらめて時代の流れを感じないわけにはいきません。『歴史は繰り返さないが韻を踏む』と言います。今から10年、20年後にも大きく変化していることは疑いありません。
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