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バイオ薬が特許切れに強い理由 その2【バイオシミラーを使えない現在の医療】

投稿日:2018/5/12 更新日:

アッヴィ(ABBV)の主力バイオ薬『ヒュミラ』は、2016年に特許が失効したにもかかわらず、2017年、2018年と2桁にもわたる売上の上昇を認めています。

かつてファイザー(PFE)のブロックバスターであった『リピトール』が、特許失効後すぐにジェネリック医薬品に置き換わったことと比較すると大きな違いがあります。

前回、医薬品の側面から、その理由を説明しました。その内容を簡単に振り返ってみましょう。

まず、バイオ医薬品の後発品であるバイオシミラーは、厳密には先発バイオ薬とは異なる医薬品でした。先発品と違う薬剤のために、審査は新薬に準じた課程を要求され、そのためには、莫大な費用と長い期間が必要とされたのでした。

目次

バイオシミラーを導入できない医療機関

データ不足のバイオシミラー

しかし、医薬品の側面のみならず、医療機関側からも、バイオシミラーの導入に踏み切れない理由があるのです。それは、バイオシミラーに関するデータが大きく不足していることです。

あらゆる分野でデータが重視される現在

現在、あらゆる分野でデータを重視する戦略がとられています。

スポーツでもデータから戦略が検討されています。 プロ野球で、名将野村克也監督が、弱小チームであったヤクルト・スワローズをデータを重視することで常勝集団に変貌させたことを記憶されている方も少なくありません。

野村監督がヤクルト・スワローズの指揮を執り始めた1990年と同じ時期に、医学でもデータを重視する新しい潮流が起き始めました。

『根拠に基づいた医療』

その新しい潮流は、1991年にカナダのマックマスター大学のゴードン・ガイヤーにより『根拠に基づいた医療』(Evidence-Based Medicine)が提唱されたことから始まります。

ほんの少し前までは、医療業界は『白い巨塔』の財前教授のような権威者の意見によりすべてか決められていたのです。そこでは、黒いカラスも財前教授が白といえば、白となる世界だったのです。

しかし、『根拠に基づいた医療』により、熟練した医師の経験に依存した判断から、データから治療方法を判断する流れが起き始めたのです。 そのデータとは、論文をデータベース化して、どのような治療を行うことがもっとも有効であるかを、統計的に明らかにすることです。そして、そのデータを根拠に治療方法を決定するのです。

その『根拠に基づいた医療』は次第に普及し、日本の医療界にも1990年代中頃に導入されました。今では、『根拠に基づいた医療』が医療の主流の考え方となり、権威者の意見よりも、客観的データが重視されるようになったのです。

そのようなデータ重視の現在の医療では、データの十分に揃っていないバイオシミラーをすぐに導入することはできないのです。

潰瘍性大腸炎からみたデータ重視の医療

『潰瘍性大腸炎』とは

では、データどのように使っているかを『ヒュミラ』の適応疾患である『潰瘍性大腸炎』で説明してみましょう。

『潰瘍性大腸炎』をあげた理由は、現内閣総理大臣が安倍晋三氏が罹患している疾患であることで理解しやすいと思われるからです。

『潰瘍性大腸炎』は、厚生労働省による難病疾患に指定され、かつては、『潰瘍性大腸炎』に罹患するなら、仕事を大きく制限し社会的に様々な制約を余儀なくされていました。 しかし、現在、『潰瘍性大腸炎』で仕事を制限しているケースはほとんどありません。そのことは、安倍総理大臣が『潰瘍性大腸炎』であるにもかかわらず、あれだけ精力的に活躍されていることからも明らかです。

その理由は、データを重視する現在の医療により治療が洗練されことによります。

『潰瘍性大腸炎』の症状

『潰瘍性大腸炎』は、血便や下痢・腹痛などの症状が出現する病気です。

さらに症状が悪化すると、高熱や大量の出血が出現することもあります。その場合には大腸のすべてを手術で切除することも必要になります。

正確な原因は分かっていないものの、本来は細菌はウイルスを除去する免疫が、自分自身の身体に牙をむくことで発症することまでは分かってきています。

『潰瘍性大腸炎』の治療

以前は、『潰瘍性大腸炎』悪化した場合にステロイド薬による治療が中心でした。しかし、ステロイド薬を長く服用すると様々な副作用が出現します。

そこに、JNJの『レミケード』やABBVの『ヒュミラ』のバイオ薬が出現しました。 そこから、ステロイド薬や『ヒュミラ』や『レミケード』をどのように使い分けるかデータが集積されました。

データの蓄積から、ステロイドを漫然と使用した場合、『ヒュミラ』や『レミケード』の効果が落ちることが分かりました。そのために、病態が悪化しステロイドの効果が不十分なら、できるだけ早く『レミケード』や『ヒュミラ』に移行するというコンセンサスが確立しました。

データの蓄積から先に『レミケード』を投与しても、その後の『ヒュミラ』の効果が落ちることがないことも分かってきました。そのために、躊躇なく『レミケード』の投与できるようになりました。

そのように、『ヒュミラ』や『レミケード』のように過去の蓄積されたデータベースから、適切な治療方法が確立していったのです。

しかし、バイオシミラーは、厳密には違う薬剤のためにその判断ができません。『レミケード』や『ヒュミラ』のような蓄積されたデータが不足しているのです。

潰瘍性大腸炎のような疾患は、増悪時は、まさに山火事のように制御できないように燃えさかろうとしています。後手後手に回らないでその山火事を制御するためには、データの不十分なバイオシミラーを投与するこはできないのです。

バイオ薬やバイオシミラー普及に必要なこと

長期を要した『ヒュミラ』の普及

バイオシミラーに限らずバイオ薬の普及に時間がかかることは、『ヒュミラ』ですらアメリカで発売後、レミケードを超すのに9年を要したことからも明らかです。

では、発売当時は、データが不十分であった『ヒュミラ』がどのようにして医療業界に浸透し、『レミケード』を抜いていったのでしょうか。そのプロセスを理解することで、バイオシミラーが普及するために必要な期間についても自分自身で考えることができるのです。

バイオ薬のデータ蓄積に必要な期間

『ヒュミラ』のようなバイオ薬のテータ蓄積は、研究を目的として大学病院や、大学病院に準じた病院で行われます。

アメリカでは、医療費は日本に比べ多額の医療費がかかります。当然、本来なら、低所得者が適切な医療を受けることは不可能です。そのような低所得者のために、データを蓄積するための薬剤を安価で提供し、そのかわり臨床研究で使用するという承諾書をとるのです。それにより蓄積されたデータがまとめられ、論文となり公表され、治療方法が確立していくのです。 臨床研究として統計処理を行うには、ある程度の人数の母集団が必要となります。さらにある程度の期間の経過観察が必要となります。

そのデータを集めるだけで2年程度の期間を要するのです。その上でそのデータをまとめ論文と仕上げ提出して公表されるには3年が必要です。

さまざまな側面からのデータが出そろうまでには、5年程度は必要です。先発バイオ薬は、バイオシミラーが出現しても5年ほどは優位を保つことができるのです。

結論

バイオシミラーの製造には高度なバイオテクノロジー技術が要求されました。さらに、先発品とは厳密には違う薬剤でした。それゆに、審査は新薬に準じたプロセスを要求されます。そのためには、長い期間と莫大な費用が必要とされるのでした。

しかし、市場に出たとしてもすぐに先発品にとってかわることはできません。現在のデータを重視する医療では、多くの側面からの論文の蓄積が無い限り、積極的にバイオシミラーを使うことはできないのです。

したがって、バイオ医薬品には特許が失効したとしても容易に崩れない高い参入障壁があるのです。そのために、アッヴィ(ABBV)の『ヒュミラ』の優位性は2020年までは、続くとみられているのです。

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