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『譲渡損失の特例控除が使えない』海外口座の税金 その3

投稿日:2018/3/28 更新日:

前々回、米国での上場株であっても海外口座で購入した場合は、非上場株(未公開株)として扱われることを説明しました。

前回は、非上場株(未公開株)として扱われることで、配当課税について分離課税を選択できず、累進課税となる総合課税のみとなることを説明しました。

今回は、海外口座を使った場合の譲渡課税(キャピタルゲイン税)について、どのような不利益があるかを説明していきます。今回も根拠となる法律は『租税特別措置法』です。

目次

キャピタルゲイン税(譲渡所得の課税)

まず、非上場株(未公開株)の譲渡課税を見てましょう。

非上場株のキャピタルゲイン税(譲渡課税)

まず、非上場株(未公開株)である一般株式の譲渡課税に関する条文を引用します。

租税特別措置法

(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
第37条の10 居住者が、一般株式等(株式等のうち上場株式等以外のものをいう)の譲渡をした場合には、譲渡所得については、他の所得と区分し、一般株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。

上記のとおり、非上場株(未公開株)である一般株式の譲渡所得に対する課税は15%と定められています。ただし、平成25年から平成49年までは、東日本大震災の復興のために復興特別所得税として2.1%上乗せされ、15.315%になっています。さらに、5%の住民税が加算されます。結局、20.315%の課税となります。

非上場株(未公開株)であっても、譲渡所得の場合は租税特別措置法の適応となり、分離課税が可能なのです。

上場株のキャピタルゲイン税(譲渡課税)

次に上場株式の譲渡課税はどうでしょうか。

租税特別措置法

(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
第37条の11 居住者が、上場株式等の譲渡をした場合には、譲渡所得については、他の所得と区分し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。

上記のとおり、上場株式等の譲渡をした場合も15%の分離課税となります。さらに、平成25年から平成49年までは、東日本大震災の復興のために復興特別所得税として2.1%上乗せされ15.315%になるとともに、5%の住民税も加算されます。結局、20.315%の課税となります。

上場株の譲渡所得も租税特別措置法の適応となり、分離課税が可能となります。

結局、上場株も非上場株(未公開株)も譲渡所得の課税は同じく分離課税となるのです。ここまでに関しては、海外口座での不利益はなさそうです。

上場株の譲渡損失控除の特例

しかし、上場株には控除について特例があります。その条文を引用します。

租税特別措置法

(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)
第37条の12の2
1項 確定申告書を提出する居住者の上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合には、上場株式等に係る配当所得等の金額を限度として、控除する

5項 確定申告書を提出する居住者又が、その年の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額を有する場合には、当該年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額を限度として、控除する。

上場株の場合は、1項により、譲渡損失があった場合に配当課税の控除が認めらています。

さらに、5項ではそれでも足りない場合には、3年以内での繰り越しも認められているのです。

その控除は、上場株式のみに認められいる特例であり、非上場株(未公開株)には適応されません。

したがって、国内証券を介して米国上場株を購入した場合は、その控除の特例の恩恵に預かることができます。しかし、海外口座で取引をした場合は、たとえ上場株であっても、非上場株(未公開株)としての扱いになります。そのために、上場株式の特例である配当課税の控除や、3年の繰越控除の恩恵にあずかることはできないのです。

国内と海外の譲渡損益の合算

では、海外口座と国内口座での譲渡損益の合算による控除はできるでしょうか。結論から言うと、通算による控除はできません。まず、国税庁のホームページからの引用とリンク先を記載します。

上場株式等に係る譲渡所得等と一般株式等に係る譲渡所得等との通算不可

①上場株式等に係る譲渡所得等の赤字の金額を一般株式等に係る譲渡所得等の黒字の金額から控除すること及び
②一般株式等に係る譲渡所得等の赤字の金額を上場株式等に係る譲渡所得等の黒字の金額から控除することはできません。

参考 国税庁『No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取り扱い』

リンクされている国税庁のホームページには、該当する租税特別措置法の条文番号が記載されています。しかし、その該当する条文をいくら読んでも、上場株と非上場株の通算不可の記載を見つけることはできません。通算による控除ができないことは、条文には書かれていないのです。どうして書かれてもいないことを主張できるのでしょうか。それは、条文を解釈することで導き出されるからです。これからその条文の解釈について説明します。ただし、結論がわかっているので、そんなものかと読み流しても大丈夫でしょう。読み流してもわかるように説明していきます。

まず、解釈のもととなる条文を提示します。

租税特別措置法

(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
第37条の10 居住者が、一般株式等(株式等のうち上場株式等以外のものをいう)の譲渡をした場合には、譲渡所得については、他の所得と区分し、一般株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。

(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
第37条の11 居住者が、上場株式等の譲渡をした場合には、譲渡所得については、他の所得と区分し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。

先ほどの譲渡課税(キャピタルゲイン税)の条文です。この条文からどうして、非上場株(未公開株)と上場株の通算不可につながるのか疑問に思われるかもしれません。

まず、わざわざ条文を2つにわけていることについて疑問を感じないでしょうか。同じ内容ならまとめて1つの条文にしてもいいはずです。

そこが解釈の鍵となるのです。

非上場株(未公開株)の譲渡課税の条文である『租税特別措置 第37条の10』に『他の所得と区分し』記載されているのはおわかりでしょうか。わかりやすいように太字にしました。その他の所得とは何でしょうか。他の所得には給与所得、雑所得、不動産譲渡所得等があります。それ以外に上場株の譲渡所得も他の所得にはいるのです。つまり、非上場株(未公開株)は上場株の譲渡所得とは区分して課税され、通算ができないということを意味しているのです。

逆も同様です。上場株の譲渡課税の条文である『租税特別措置 第37条の11』にも、『他の所得と区分し』記載されています。給与所得や雑所得だけではなく、非上場株(未公開株)の所得も他の所得になります。その結果、上場株の所得は、非上場株(未公開株)の所得と区分して課税され、通算ができないということになるのです。

条文を1つにまとめてしまうと、非上場株(未公開株)と上場株が区分されないことになり、通算が可能になってしまいます。それぞれ通算ができないことを解釈できるように条文を2つに分けているのです。

上場株であっても海外口座で取引した場合は、非上場株(未公開株)としての扱いです。そのために、海外口座と国内口座での譲渡課税(キャピタルゲイン税)の通算はできないことになるのです。

海外口座を使うと税金を払うのに、国内口座のみなら還付金が返る場合

1つ具体例をあげてみましょう。国内口座で50万円の利益を確定したとしましょう。海外口座で60万円の損失を確定したとします。その利益と損失を掛け合わすことはできません国外口座での損失を翌年に持ち越すこともできません。結局、国内口座で利益の出た50万円の20%である10万円のキャピタルゲイン税を納めることになります。

どちらも国内口座ならどうでしょうか。国内口座50万円の利益、別の国内口座60万円の損失とします。通算して10万円の損失となります。その通算10万円の損失を、上場株の特例である配当課税と控除し、確定申告を行うとができます。その場合には、源泉徴収されていた配当から2万円ほど還付金として税金が返ってくることになります。

まとめ

前回と今回説明した国内証券と海外証券の課税について、表にまとめてみました。国内証券が有利な箇所を黄色にしています。

国内口座(上場株と扱う) 海外口座(非上場株と扱う)
配当課税 申告分離課税か総合課税の選択 総合課税のみ
譲渡課税 申告分離課税のみ 申告分離課税のみ
譲渡損失の特例(配当との控除) あり なし
譲渡損失の特例(3年繰越) あり なし

また、参考に国税庁のリンク先も表にしてみました。

国税庁のホームページでの該当箇所
 配当課税(国内口座) 上場株式等の配当所得等に係る申告分離制度
 配当課税(海外口座)  総合課税制度 所得税の税率
 譲渡課税 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
譲渡損失の特例(国内口座) 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

米国での上場株であっても、海外口座を仲介とする売買は、日本の法律では適正な手続きの取引とは認められていません。国内の証券口座を介しての売買のみが適正な手続きによる取引と認められているのです。そのために、国内証券で取引を行わない限り、上場株に認められた税制の恩恵にあずかることはできないのです。

海外口座には、税制上大きな不利益があります。そのことを理解の上で使うべきでしょう。手数料の安さだけで判断すべきではありません。

適切な手続きを最重視するアメリカ法

今まで述べてきたように、金融政策では適正な手続きが非常に重要となります。それは、金融の中心がアメリカである以上、アメリカ法の発想を強く受けるからです。

日本の場合は、何が正しいか最初から議論して決めていきます。逆に、アメリカでは最初から何が正しいかは深く考えません。まず、適正な手続きを決めていきます。その手続きの課程で明らかになったことこそが正しい結論という発想です。このようにアメリカ法には、法の適正な手続きこそが適正な結果を導くという思想背景があり、それは歴史的経緯に由来するのです。さらに、アメリカのそのような法制度が、90年代のアメリカでIT産業の急激な発展を後押しすることにもなったのです。次回は、そのことについて記事にしていきたいと思います。

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