4月19日 フィリップモリスインターナショナル社(PM)株には、決算の失望から17%近い暴落が起きました。その暴落は、さらに多くの投資家に動揺をもたらしています。やはりもうタバコ株は終わりではないのか。やはり、売却した方がいいのではないか。かつてタバコ株は高いリターンをもたらしたかもしれない。しかし、状況は変わった。今回は違うと。
今回の暴落の原因は、タバコの出荷量の低下と、日本での電子タバコ普及の停滞によるものです。その2点について検討してみましょう。
目次
フィリップモリスインターナショナル社とは
フィリップモリス社は、シーゲル博士によるバリュー投資研究で黄金銘柄筆頭として、米国バリュー投資家でつとに知られている銘柄です。もちろん、シーゲル博士の研究による19.25%のリターンを今後にも期待することではできません。
フィリップモリス社の高いリターンの理由
では、どうして過去にこのような高いリターンがもたらされたのでしょうか。その理由は2つあります。
まず1番目の原因は、1900年時点でロンドンの片隅にある個人商店に過ぎなかったタバコ職人の店が、世界最大のタバコ企業への飛躍の課程で出現したリターンだからです (参考『【フィリップモリスがまだ弱小企業だった時】タバコ王デュークの栄光と挫折 その1』)。すでに成熟企業となったフィリップモリス社が、ふたたびそのようなリターンをもたらすことは無いと言っていいでしょう。
さらに、2番目の原因は、フィリップモリス社はすさまじい逆風により長期にわたり売り込まれ、その間に配当再投資を続けることが、高いリターンの源泉だったことです。その逆風とは、アメリカでの巨額賠償に他なりません。20世紀後半に、アメリカではタバコ企業に何兆円という懲罰的損害賠償が立て続けに課されました。最終的に1997年大手タバコ企業と合衆国政府の間で日本円にして25兆円もの和解金により今後の懲罰的損害賠償免責がなされました。そのような先進国の年間税収にも匹敵する賠償額から、タバコ株は絶滅の淵の至り、徹底的に売り込まれたのでした。
しかし、それでもフィリップモリスは毎年にわたり配当額を増やし続けました。その売り込まれた時に配当再投資を忍耐強く行い続けることにより、いったん上昇に転じたときに、比類の無い高いリターンを投資家にもたらしたのです。
永続性のある企業の特性
さらに、そのような絶滅の淵のような試練に耐え、存続することが永続性のある企業の特性でもあるのです。
今まで、多くの企業が急成長し一世を風靡しました。しかし、そのような企業の多くは消滅していきました。それは、多くの企業が逆風に耐えることができないからなのです。企業はその成長期に、永続性の可否を論ずることはできません。逆風を超えてこそ永続性を判断することができるのです。
フィリップモリスインターナショナル社の分社
なお、そのような絶滅の縁にたった経験から、フィリップモリスは、米国内の部門をアルトリア社として残し、米国外のタバコ部門をフィリップモリスインターナショナルとしてスピンオフしました。
今回のフィリップモリスインターナショナルは、米国外部門のタバコ部門として分社された企業です。
今回の暴落の原因
出荷高の減少
タバコに対しては、先進国は依然として、健康問題が起因する禁煙キャンペーンによる逆風が吹いています。しかし、それはもはやいつもの日常にすぎません。今に始まったことではないのです。
さらに、新興国でも、禁煙のキャンペーンは、タバコの課税強化と公衆衛生の介入が出現しつつあります。
そのような禁煙キャンペーンにより出荷高の低下が見られました。しかし、その低下は2%に過ぎません。
売上高
では、出荷の低下による売上高ははどうだったでしょうか。
2017/1Q | 2018/1Q | |
売上(100万ドル) | 6064 | 6896 |
営業利益(100万ドル) | 2416 | 2426 |
営業キャッシュフロー(100万ドル) | 843 | 1380 |
フリーキャッシュフロー(100万ドル) | 551 | 1015 |
純利益(100万ドル) | 1580 | 1550 |
第1四半期には、前年度比14%増の68億9600万ドルもの売上を計上しています。最近の数年は、売上の増加が停滞していました。しかし、その停滞は克服され、売上高の上昇は力強さを増しつつあるのです。
先進国では、逆風であってもタバコ企業は値上により売上減を乗り切る手段が残されています。逆に、新興国では値上がり余力は先進国ほど強くはありません。しかし、人口増加が禁煙運動のネガティブ効果を打ち消しています。
営業利益
それでは、利益はどうでしょうか。
営業利益については増えているものの、1000万ドル(10億円)程度です。売上の増加に比べ、営業利益の増加はわずかです。その原因は何でしょうか。
それは、売上原価が20%増の26億1500万ドルとなり、前年の21億7700万ドルから増加したことです。さらに、宣伝広告費、研究費が26%増の18億3300万ドルでした。
紙タバコから加熱式タバコへと市場がシフトすることによる販売促進費や、研究費が経費を押し上げているのす。市場のシフトには、先行コストが非常に高く、そのために多額の資金を必要とされたのでした。
純利益とキャッシュフロー
更に、純利益は、どうだったでしょうか。その純利益も減っています。しかし、その減少は3400万ドル(34億円)程度にすぎません。利益は15億ドル(1500億円)を超えているのです。その中での3400万ドル(34億円)は誤差にすぎません。むしろ、営業キャッシュフローは増えているのです。
キャッシュフローの増加は、新製品である加熱式タバコのための設備投資が一段落したことを意味しています。先行投資した設備投資を価償却費として計上することで、会計上の利益は減るもののキャッシュフローが格段に改善しているのです。
加熱式タバコの設備投資は一段落し、今後の拡大を段階になったのです。
すなわち、今後フィリップモリスはこれらの設備投資の費用を回収するために、効果的な販売促進と、費用の抑制する段階に入ったのです。
電子タバコへの移行
実際に、世界全体で見るなら加熱式タバコへの移行はスムーズに行っていると考えていいでしょう。
すでに世界では加熱式たばこへの移行は1年で2.2倍に増えています。増加率は、ヨーロッパ共同体では1年で5倍、東ヨーロッパや中東では10倍以上、南米やカナダでは20倍以上の増加率なのです。
たしかに、たばこ全体の出荷は2%減っています。しかし、加熱式タバコの出現は、紙タバコの出荷の低下による収入の減少を補いつつります。そもそも、加熱式タバコは再利用できることから出荷数そのものは紙タバコより減ることは明らかです。そのため2%の出荷減少で悲観は早計でしょう。それが、売上高の増加を意味しています。
むしろ、日本以外では加熱式タバコへの移行はスムーズに進んでいっているといっていいでしょう。
日本での加熱式タバコ移行の停滞
日本の状況が滞っていることが下落の原因の2つ目となっています。それは、日本が加熱式タバコへの移行の実験場とも判断されていることもあります。日本ではでは、50代以上の喫煙者が今までのように火でタバコをつける習慣から抜け出すことができないのです。
しかし、日本が実験場と言う前提自体が間違っていると考えいいでしょう。現実として世界では1年で2.2倍以上に増えているのです。日本が例外なのです。
フォリップモリスインターナショナル社に関する見解
バフェットの第2の師匠 フィッシャー
もともとグレアム式のバリュー投資家であったバフェットは、経営の質に関係なく売り込まれ安く評価されている企業のみを買っていました。しかし、本当の競争力があり、永続的に利益をもたらす企業が安くなることはほとんどありません。たとえ安くなったとしてもいち早く回復します。
バフェットは、偉大なグロース投資家であるフィシャーからグロース投資を学び、永続的な競争力のある企業に投資するという現在のバフェット型のバリュー投資にたどり着いたのです。
フィシャーの優良株の買い時期の判断
そのフィシャーの著作から引用してみましょう。
優良企業の買い時である踊り場に関する記載です。
新製品の開発は予定どおり進むものではないため、それを頼りに投資の時期を決めるわけにはいかない点がひとつと、もうひとつは、どれほど優れた経営者のいる企業でも失敗を避けることはできないという点です。ある程度のつまずきは事業運営費の一部と考えるべきでしょう。
次の四半期には、新製品の販売強化にかけて経費が収益を圧迫していたことが分かり、株価は初年来の安値まで下落します。そうして、あの企業の経営者はひどり失敗をやらかしたのだという評判が金融界のすみずみにまで広がります。
実はこのときが、その株の最大の買い時かもしれません。
『フィシャーの「超」成長株投資』
フィリップモリスのキャッシュの生み出す能力
フィリップモリス社はフィッシャーの投資するような初期のグロース株ではありません。初期のグロース株ならまだ赤字で、今後も実際に新製品が市場に受け入れられないリスクがります。しかし、フィリップモリス社はすでに凄まじい利益をあげているのです。10年の売上、利益、キャッシュフローを見てみましょう。
凄まじいキャッシュ形成能力です。しかも、売上に対する営業キャッシュフローの比率は30%超えているのです。とてつもない売り上げキャッシュフロー比率というほかありません。さらに1年でフリーキャッシュフローは1兆円近くに上がっています。
さらにこの膨大なキャッシュフローは高い配当利回りとして投資家に還元されます。また、その自社株買いとしても投資家に還元されています。さらに、株式の配当は5%を超えるようになっているのです。さらに、現在の株価は、自社株買いを行うために十分な水準にまで低下しています。
いまは、買い増し時期といっていいでしょう。
フィシャーの買い方指南
その資金投入の仕方について、フィシャーの著作を再度引用しましょう。
しかし、どれだけ優良な企業の株でさえ、さほどひどい不況でなくとも、高値から40%や50%は下落することがあるものです。
一度の資金を全額注ぎ込むのではなく、何年かかけて手持ちの資金を除々に株式に投じていくように計画を立てなくてはなりません。そうすれば、市場が大きく崩れたときに株価の下落を有利に活かせる資金力を残しておけるのです。
『フィシャーの「超」成長株投資』
投資をする場合は、年単位で時間を分割して投資することが望ましいでしょう。
さらに、タバコ株に過剰な集中投資をしないことが大切です。
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