前回の記事で、麻薬の代表であるアヘン・モルヒネ、ヘロインについて説明しました。
今回は、大麻とマリファナについて説明していきます。
そもそも、大麻と麻薬とは全く異なります。
麻薬の代表であるアヘンやモルヒネは、ケシの実からつくられます。一方、マリファナは、大麻草の葉からつくらるのです。このように原材料からして全く異なるのです。
目次
マリファナ
コーヒーより安全なマリファナ
現在の日本では、大麻はその陶酔作用が危険視され、大麻防止法により厳しく取り締まられています。
しかし、マリファナや大麻という言葉からくる危険な印象と異なり、その依存性はその酒やタバコよりも少ないのです。
まずは、WHOによる麻薬、嗜好品、大麻の依存性に関する比較表(1963年)をみてみましょう。
薬物の種類 | 精神的依存性 | 身体的依存性 | 耐性の獲得 |
ヘロイン | 強 | 強 | 強 |
アルコール | 強 | 中 | 中 |
タバコ | 強 | なし | 強 |
マリファナ | 中 | なし | 弱 |
その後カフェインも調査対象となり、マリファナはそのカフェインよりも依存性や耐性が少ないことが明らかになりました。つまり、マリファナは、カフェイン飲料であるコーヒーや紅茶よりも依存性が少ないのです。
WHOの驚くべき報告書
WHOは、1970年にさらに詳細なマリファナの報告書をまとめます。その結果は『通常の摂取量においてマリファナの使用による弊害を認めることはできない』と驚くべきものだったのです。詳細を列挙してみましょう。
① マリファナにより身体的および精神的な機能の低下する証拠は認められない。
② マリファナが中毒症状や耐性を起こす証拠はみとめられあい。
③ マリファナが遺伝的欠陥を引き起こす証拠は認められない。
④ マリファナが暴力的および攻撃的行為の原因となる証拠は認められない。
⑤ マリファナが犯罪の誘因となる証拠は認められない。
マリファナの薬理効果
では、マリファナには、どのような薬理効果があるのでしょうか。
まず、マリファナはダウナー系の抑制薬剤です。私たちは日々の仕事や生活で様々なことを考え、そして悩んでいます。その機能を大脳皮質がつかさどっているのです。
マリファナは、その大脳皮質を抑制することで、複雑な知的作業を抑制していきます。しかし、逆に抑制がかかることで、悩むことも抑制され、不都合なことを気にしなくなるのです。それにより喜びや安らぎの感覚をもたらされます。
さらに、思考が抑制されることで直感が鋭くなってきます。人によっては、景色の色調が鮮やかに見えるようになり、流れ得る音楽もより魅力的な音色に聞こえてくるのです。
そのようなマリファナの効果から、19世紀のパリでは芸術家の中で大麻が大流行しました。『マリファナ愛好クラブ』も誕生し、レ・ミゼラブルの作者であるヴィクトリル・ユゴーや、詩人ボードレールもその会員に名を連ねることになったのです。
マリファナパーティでの現象
マリファナにより、一人で使用した場合には、知的作業が抑制されることで、リラックスし眠気が出現します。
一方、マリファナパーティにより集団で服用した場合には、抑制により日々の緊張がやわらぎ、喜びや安心感の出現します。さらに、急に笑いがとまらなくなったり、昔のことを思い出し涙があふれ出たりするのです。そのようにして、うち解けやすくなり、さらに、一体感や昂揚感が出現していきます。
一人と集団で作用が異なることは、アルコールと似ていると言っていいでしょう。しかし、アルコールよりも身体的依存性はなく、中毒になることはないのです。また、耐性もなく、投与量が増えていくこともないのです。
大麻草
大麻=麻=アサ
では、その大麻とは一体どのような植物なのでしょうか。
現在、大麻草は乱用薬物の原料として厳しい規制のもとにあります。しかし、その大麻草は、衣類の材料である麻と同じ植物なのです。学術名はアサといいます。大麻、麻、アサは植物学的にはまったく同じものを指しているのです。
大麻の歴史
そもそも大麻は人類にとってもっとも古い栽培植物の一つです。その栽培は1万年前以上にまでさかのぼることができるのです。
日本人も大麻との関わりは古く、縄文時代初期にもその痕跡認めることができます。少なくとも日本人は1万年前から大麻草とともに暮らしてきたのです。
日本が稲がもたらされた時期は3000年前の縄文時代後期です。稲作は、弥生時代の幕をあけ日本という国の形成をもたらします。
日本人にとって欠かすことのできない植物である稲。しかし、大麻の伝統は稲よりも古く、日本の国としての原型ができる前から人々の生活に欠くことの出来ない植物だったのです。
衣類と住居に欠かせない大麻
元々、日本人の衣服のほとんどは麻の繊維によるものでした。木綿の衣服が普及するのは戦国時代以降です。
現在でも、湿度の多い日本の夏には、麻の繊維でできた衣類が好まれています。それは、強度が強いのみならず、吸湿性や放湿性がすぐれ、涼感が良好なことが日本の夏に適しているのです。
そのような強い麻の繊維は、衣類だけでなく、屋根の茅葺きの材料や、畳糸にも使用されてます。さらには、麻は凧揚げの糸、和楽器の弦、横綱のしめ縄にも使用されているのです。
また、古代や中世の暗闇の夜に明かりをともすために、蝋燭の芯や松明の幹として大麻茎が使われてきました。
食品としての大麻
大麻は、衣類や住居に資するだけでなく、食用にも使われてきました。
調味料の七味唐辛子。その七味の一つは大麻の種にほかなりません。さらに大麻の種からは良質な油が抽出されます。
医薬品として大麻
さらに、葉には陶酔作用があり、その作用は病気の治療にも使われてきたのです。戦前には、漢方薬として喘息やアレルギーの治療に使われていました。
土壌を豊かにする大麻
麻は一年草であり、その生長は極めて速く1日に10cmに及ぶこともあります。そのため、二毛作に最適な栽培植物なのです。その上、大麻草の葉は土壌を豊かにする性質もあり、大麻栽培はその他の栽培植物の成長を促進することにもつながるのです。
このように衣食住のすべてに資する優れた大麻の特質から、日本の文化や伝統にも深く関与することになります。
伊勢神宮の主祭神である天照大神の象徴『大麻』
日本人の精神的な中核を担ってきた神社。
そのなかで最高峰の社格こそ伊勢神宮に他なりません。主祭神は、神道の最高神である天照大神です。天照大神は生命の源である太陽をつかさどり、大自然を照らし出す神聖な存在です。
その天照大神の象徴こそ『大麻』に他ならないのです。古来より伊勢神宮のしめ縄は大麻草でつくられてきました。さらに、伊勢神宮でもっとも厳重な祈祷で授けられる札は『神宮大麻』と称されています。かつて『神宮大麻』の札は大麻草からつくられていたのです。
日本の神話『古事記』で活躍する大麻
大麻は日本の神話である『古事記』でも重要な役割を演じます。『天岩戸の伝説』です。天照大神が洞窟に隠れ世界が闇に覆われたときのお話です。
古事記において、最高神は太陽の女神アマテラス、すなわち、伊勢神宮の主祭神『天照大神』に他なりません。
民族にはそれぞれ固有の神話があります。しかし、女性が最高神となっている神話は日本以外にはありません。古代日本では女性の地位が極めて高かったことが忍ばれます。
最高神アマテラス女神には、嵐の神である弟のスサノオがいました。しかし、スサノオは、田を壊したり、織物小屋を潰したりと、他の神々を困らせてばかりで、いつもアマテラスに苦情が届きます。その都度、アマテラスは対応に追われることになります。
ついにアマテラス女神も疲れきって、『もう最高神なんてやってられないわ!』といって、天岩戸と呼ばれる洞窟に引きこもって、岩の扉をしめてしまいます。太陽の女神が引きこもったために、世の中は、真っ暗になり、食べ物も育たなくなったり、病気も蔓延しました。
困りきった神々は天安河原に集まり対策を検討します。そこで、知恵の神が一計を案じ、祭りが開かれることになったのです。
祭りの準備では、大麻でつくったしめ縄に玉飾りをつけ、大麻布が垂らされます。さらに、大麻草からつくった松明に火がともされるのです。そうして、祭りが開かれ、神々はどんちゃん騒ぎを始めました。
祭りを盛り上げるために、若く美しい女神であるアメノウズも舞を披露します。アメノウズの舞はエスカレートし、少しずつ衣を脱いで上半身は裸になり、下半身も衣一枚の淫らな姿になっていきます。
さらにアメノウズは舞を続け、下半身の衣がずれて陰部もチラリと見えるようになりました。神々は大喜びとなり、祭りはさらにヒートアップしていきます。
天岩戸で引きこもっていたアマテラスは『みんな楽しそうに騒いでいるのは、一体何があったのかしら?』と不思議に思い天岩戸の扉を少し開けてみました。
知恵の神はその瞬間を待っていました。アマテラスが開けた隙間に鏡を当てると、アマテラスの光が鏡に反射し、洞窟内に差し込みます。『外は暗闇のはずなのにどうしてこんな光が外からくるの?』と驚いたアマテラスに、知恵の神は『アマテラス様より美しく光り輝く女神がおいでになり、みんなが喜んでいるのでございます』と答えます。
アマテラス女神はプリプリして『私よりも光り輝く女神なんて何処にいるのよ!』と、思わず洞窟の扉を開け、身を乗り出しました。その瞬間、すかさず知恵の神がアマテラスの腕を引き、洞窟の外に連れ出したのです。
さらに、怪力の神様が岩の扉を放り投げ、洞窟の入口に大麻のしめ縄をかけて、アマテラス女神が再び洞窟に入ることができないようにしました。
そうして、天の世界は再び太陽を取り戻すことができたのです。
アマテラスのモデル卑弥呼
もちろん、『古事記』は神話であり史実ではありません。しかし、ほとんど神話は実際の史実をもとにつくられているものなのです。
古事記の天照大神のモデルは、卑弥呼ではないかという歴史学者もいます。
卑弥呼とは、西暦2世紀に日本にあった邪馬台国を統治した女王です。豪族が群雄割拠していた地域を卑弥呼が女王として争いをしずめ統治したといわれています。
卑弥呼は巫女として神聖政治を行い、夫はおらず、大勢の従者を従えて宮殿の奥深くに住んでいました。
卑弥呼が亡くなり、男性が王位についたことで世の中が争乱となり、日食も頻繁に出現します。不吉な予感を感じた人々は、卑弥呼の親族の女性を女王として擁立します。そうして、再び邪馬台国は安定を取り戻します。
その史実が、古事記の『天岩戸の伝説』のルーツではないかとも言われているのです。
天皇即位の儀に不可欠である大麻
その後の邪馬台国は、謎につつまれてます。
現在の天皇陛下のルーツである大和王権に繋がるのか、あるいは邪馬台国が滅亡し新たに大和政権が勃興したのか文献が全くないのです。
しかし、その間も日本文化にかけがえのない大麻の伝統は連綿と受け継がれていったのです。
来年2019年4月30日に現在の天皇陛下が退位されます。そうして、現在の皇太子が新天皇として即位され、大嘗祭が開催されます。大嘗祭では大麻草による衣装により執り行うことが古来からのしきたりとなっています。
日本と大麻との伝統をたどるドキュメンタリー映画『麻てらす』の予告編がYouTubeで流されています。添付してみます。
大麻産業の衰退
そのように日本人の衣食住を支え、文化の中核を担ってきた大麻は衰退の一途をたどっています。
日本での大麻生産は、最盛期の1953年には耕地面は4900ヘクタールにものぼり、3万7313人の人々が従事していました。しかし、1994年には、耕地面積20ヘクタールで栽培者数は157人にまで減少しています。最盛期の0.5%となっているのです。
伊勢神宮ですら使用する大麻草のほとんどを中国からの輸入品に頼っています。伊勢神宮関係者が日本製の大麻で神事を行うために、三重県の大麻栽培の許可を申請したものの許可は降りませんでした。
危険性が少なく日本人の伝統に欠かせない大麻。しかし、その大麻がどうしてここまで衰退したのでしょうか。今後、あらためてその原因探る記事をつくっていく予定です。
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