今回は、Cardinal Health(CAH)への投資について検討をしていきます。
まず、CAHは日本人にとってなじみの薄い企業かもしれません。それは、アメリカ国内を中心に、医薬品や医療器具の卸売業を運営する企業だからです。
その他、医療機器部門もあり心臓ステント等の販売を行っています。その製品は日本でも販売されています。
ただし、売上と利益のほとんどはアメリカ国内に依存しています。
目次
アメリカの大手医療卸業者Cardinal Health(CAH)
売り込まれていた株価
現在、CAHの株価は大きく売り込まれています。
それは、ジェネリック医薬品の価格が下落していることにより利益率が低下していることも理由の1つです。
しかし、それ以上にAmazonがヘルスケア領域への参入を表明していることが、投資家に大きな不安を与えていることが大きく関与しているのです。
しかし、Amazonには医薬品の卸売業に参入するにあたり、大きな困難が待ち構えているでしょう。それは、CAHがAmazon参入にあたり、ほぼ完璧な防御態勢をしいていると考えられるからです。
アメリカ3大医療卸企業
CAHは、アメリカの医療卸3社のうちの1つです。
その3社は、CAHとともに、マッケンソン、アメリソースバーゲンの3社です。その3社で、90%を超えるシェアを誇っている寡占市場を形成しています。
それは、日本においても同様です。スズケン、東邦薬品、アルフレッサ、メディセオの4社によって日本の医薬品卸は寡占市場を形成しています。
アメリカの医薬品卸業者3社のうち、投資対象として推奨できる企業は今回紹介するCAHに他なりません。それは、現時点で3%を超える配当とともに、33年わたる連続増配の記録のある株主還元に積極的な企業であるからです。
沿革
CAHは1971年に設立されました。その後発展しアメリカの3大医療卸業者の地位に到達しました。従業員は約5万人にも及び、60カ国で事業を展開しています。その年間売上高はおよそ1290億ドルにまで及ぶのです。
ビジネス内容
アメリカ国内では、CAHは病院のほぼ85%、そして24,000以上の薬局に医薬品や医療器具を供給しています。
さらにCAHが保有するホームヘルスケア事業では200万人の患者にサービスを提供しているのです。
医薬品を流通させる必要性は常に存在するために、Cardinal Healthは、需要の高い安定した事業を展開しています。
同社には2つの事業セグメントがあります。
1.薬品(収入の89%)
2.医療(収益の11%)
の2つです。
医薬品セグメントは、先発医薬品、ジェネリック医薬品とともに、一般消費者への製品の流通配送を行っています。これらの製品を、病院やクリニック、薬局に配送していくのです。
医療部門は、病院、手術センター、臨床検査センター、およびその他のサービスセンターに医療用、実験用の医療器具を配送しています。
それは、JNJの生産する人工関節等の侵襲の高い製品から、ガーゼや手術用手袋のように侵襲性が低くコモディティ化しつつある製品にまで及びます。
CAHの医療製品部門での製造も行っています。その製品は、もともとは利益率の低いガーゼ、手袋、手術用使い捨てシーツ等に制限されていました。
付加価値の高い医療機器部門の買収
しかし、近年は買収により付加価値が高い侵襲の強い製品にもポートフォリオを広げています。
2015年10月に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)から心臓血管治療デバイス部門のコーディスを買収しました。
2017年7月には、メドトロニック(MDT)から下肢静脈瘤治療用カテーテル、気管支チューブ、栄養補助チューブ等のPatient Monitoring & Recover部門を買収しました。
そのように付加価値の高い医療機器部門の買収により多様化が進められています。そのような多様化はCAHに有機的な成長を持たしています。
中国市場への参入
さらなる成長機会は、中国への拡大です。
2010年にYong Yuを買収してからの事業は堅調に推移しています。中国市場ではさらなる成長の可能性を秘めています。
その中国市場で、CAHは、利益率の低い流通部門を売却し、同国の高収益事業に注力しています。 しかも、その流通部門はかつて5億ドル未満で買収し、その売却額は12億ドルにも達しました。
財務状態
売上、キャッシュフロー、純利益
そのような買収による拡張とともに、ヘルスケア市場そのものの拡大により業績は、最近10年で売上は確実に上昇しています。 10年間の売上、キャッシュフロー、純利益の推移を見てみましょう。 ただし、卸業の性質から、利益率は低くなります。そのために、売上に比べ、キャッシュフローや純利益は極めて少なくなります。今回、売上高を除いたグラフを掲載してみましょう。
卸業という性質から、キャッシュフロー利益は売上に比べ安定していません。しかし、売上の伸びは確実に利益のボトムラインを引き上げています。
配当
そのような安定した市場と、確実な売上の上昇は、33年にわたる増配という株主への還元をもたらしました。
特に、過去5年間の平均配当成長率は15%にも及びます。そのような高い増配率にもかかわらず、その配当性向は低下してるのです。それは、利益は不安定であるものの、平均すれば15%以上に上昇していることを意味しています。
さらに、株主還元としては、過去5年間のうち自社株買に多額の資金を投入しています。その自社株買いにより5年間で、発行株式総数は8.4%減少しています。
それは、一株当たりの利益の上昇をもたらし、より高い増配率の源泉ともなっているのです。
2018年 第1四半期決算
しかし、今回の第1四半期は決してよくはありませんでした。
1Q2017 | 1Q2018 | |
売上(100万ドル) | 31821 | 33633 |
営業利益(100万ドル) | 640 | 606 |
純利益(100万ドル) | 381 | 255 |
確かに、売上はは前年同期比で6%増加しました。 しかし、純利益33%減少したのです。
その理由は、ジェネリック医薬品の価格下落による卸手数料の低下によるものです。
そのジェネリック医薬品の低下による下落は、売上のボリュームの増加によりある程度は補われました。さらに、医療部門は引き続き順調に推移しました。医療部門の売上は19%も増加し、営業利益も38%増だったのです。
Amazonの参入余地のない業務体制
株価下落の原因1.医薬品価格の下落
CAHのビジネス環境のリスクは直近の医薬品価格の下落です。
とくにジェネリック医薬品の下落は、利益率への大きなマイナス要因となりました。しかし、医薬品の下落は底を打ちつつあります。
株価下落の原因2.Amazon参入
より大きなリスク要因はAmazonによる医療供給事業への参入表明です。
当初書籍のネット販売のみであったAmazonは、その後家電をはじめあらゆる小売業に参入し、その影響によりアメリカ中で繁栄したショッピングモールが廃墟と化しつつあります。そのために、医療流通業界もAmazonによって破壊されることが懸念されているのです。
しかし、現実的には、Amazonの医療卸業への参入は大きな困難が伴うことが予想されます。すでに、医療卸業ではAmazonに対するほぼ完璧な防御体制が敷かれいるといって過言ではないのです。
Amazonの参入余地のない整備された供給体制
Amazonは、プライム会員に対して、Amazon Dash Buttonを配布しています。そのDash ButtonをWi-Fi経由でネット接続し、ボタンに登録されている日用品を1プッシュで注文できるのです。
それによりキッチンや水回りスペースの壁などに貼り付け、日用品の備蓄が切れそうなときにボタンを押すだけで注文できるようになったのです。
それは、日用品を販売するスーパーにとっては大きな驚異かもしれません。
しかし、医療卸業は、従来より医薬品や医療製品を直接、医療機関や薬局に届けているのです。単に顧客を待つ小売業とは異なるのです。Amazonの宅配そのものに優位性が存在しないのです。
さらに、ネットの普及により、いちはやくIT技術により配送システムを整備してきているのです。その長年の整備によりAmazonが改善する余地はほとんど見当たらないといっていいでしょう。
そもそも、小売りにとって脅威となるAmazon Dash Buttonは1ボタン1製品です。多くなれば多くのボタン端末が必要となります。 医療機関では、多種多様な製品の発注が必要です。1ボタン1製品での対応は不可能です。
現在、医療期間では、医薬品の箱にバーコードリーダーを当てて、医療卸に発注しています。発注数は前回の発注数がスマホやPCに掲示されます。その発注数が前回と異なる場合は、発注確定前に修正もできます。
もちろん、履歴から同一の商品をスマホやタブレット、PCから注文ができることは言うまでもありません。
さらに、その発注システムは、自動在庫管理ソフトとも連動しているのです。保管庫の医薬品を取り出すときにバーコードリーダーをかざし、在庫の数字が自動で調節されます。そして、どの部門で医薬品が消費されているかすべて登録されているのです。
さらに、在庫が少なくなれば、自動的にアラート表示となり、オーダーを促すのです。
恐らくはAmazonが実現を考えていることはすでに実現され運用されているといっていいでしょう。
更に、麻薬や放射線物質のような厳重管理が必要な製品の搬送体制も必要です。
また、行政の認可により変更なときは、その卸の担当者が医療機関を巡回し、行政サイドの変更による製品の変更を説明していきます。
そのような複雑な体制から、Amazonがいかなる破壊的イノベーションを起こし得るのか疑問としかいいようがありません。
結論
CAHのような競争優位性の高い企業は、これまでにも困難な状況に耐えてきました。
そして、現在、力強く早い成長が促されているのです。さらに、配当は3.57%を超えています。しかも、配当性向率は44.8%であり、さらなる増配余地が十分にあります。
そのような競争優位性を保有する企業のPERが9.95と10を切っているのです。 今回のマイナス要因により株価下落は、絶好の買い場と考えていいでしょう。
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