今回は、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY)を紹介していきましょう。
BMYは、シーゲル博士の研究の『株式投資の未来』で50年間でのリターン3位という高いリターンをあげています。
さらに、今年2018年に京都大学名誉教授の本庶佑氏がノーベル医学生理学賞を受賞の契機となったオプジーボを主力商品として保有する製薬会社でもあるのです。
目次
ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY)
沿革
ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、ニューヨークに本拠を置くグローバル製薬会社です。同社は、1989年にブリストル・マイヤーズ社とスクイプ社が合併することにより設立されました。
ブリストル・マイヤーズ社は、1887年にウィリアム・マクラーレン・ブリストルとジョン・リプリー・マイヤーズがニューヨ ーク州の小さな製薬会社を買収したことから始まります。
1950年代にバファリンを発売し、飛躍していきます。
スクイプ社は、1858年にエドワード・ロビンソン・スクイブ医師が製薬研究所をニューヨークのブルックリンに設立したことが源流です。
1989年に合併しブリストル・マイヤーズ・スクイブ社(BMY)となった現在、B型肝炎、C型肝炎、HIV / AIDS、慢性関節リウマチ、および心臓血管疾患などの疾病に対する多様な医薬品を製造し、世界中に供給するグローバル企業となっています。
主要薬のポートフォリオと売上
BMYは、2017年の売上高が10億ドル以上にもなる5つの多様な製品を保有しています。それぞれの薬剤を見てみましょう。
オプジーボ :49億ドル 免疫系に作用するモノクローナル抗体による癌治療薬
エリキューズ:49億ドル 抗凝固剤
オレンシア :25億ドル 自己免疫疾患治療薬のモノクローナル抗体
スプリセル :20億ドル 慢性骨髄性白血病の抗がん剤
ヤーボイ :12億ドル オプジーボと同様のモノクローナル抗体による癌治療薬
イノベーションの成功
このような豊富なポートフォリオにより特許切れリスクが緩和されています。そうして、安定したキャッシュフローがもたらされているのです。
さらに、同社のイノベーションが成功し成長軌道に入ったこともみてとれます。
もともとBMYは抗癌剤を得意としていました。慢性骨髄性白血病の抗癌剤であるスプリセルは従来のBMYらしい手堅い医薬品です。
しかし、オプジーボ、オレンシア、ヤーボイはバイオ製剤です。BMYはイノベーションが成功し、もはやバイオ企業に変貌したと考えてもいいかもしれません。
オプジーボ
2018年ノーベル医学生理学賞受賞 本庶佑氏
まずは、BMYのブロックバスターであるオプジーボについて説明してみましょう。
オプジーボは、今年2018年のノーベル医学生理学賞の受賞となった本庶佑氏の業績が基礎となっています。その本庶佑氏の研究を初期から支援していたのが日本の小野薬品です。
『小野薬品』女性MRの胸の谷間営業
もともと小野薬品は、医療従事者の中では決して評価の高い製薬会社ではありません。
そもそも、時価総額も高くなく中堅の製薬会社にすぎません。
それ以上に女性MRの営業方法を好ましくないと考える医療従事者も少なくないのです。MRとは、医療機関で医薬品を売り込む営業職です。
小野薬品の女性MRは、胸のサイズで採用しているのではないかと思うほど、胸の大きな女性がほとんどです。さらにカバンから医薬品のパンフレットを取り出すときには、胸の谷間が見えるように前屈み姿勢をとっています。
その営業スタイルは特に女医からの評判がよくありません。大人しい女医は『私にそんな営業しても意味ないのに』と言い、口の悪い女医は『いい年してそんな姿勢をされても目障りよ、藤原紀香ならともかく』と言っていました。
その小野薬品が、今年のノーベル医学生理学賞につながるオプシーボの開発に携わっていたことに驚きを隠せない医療関係者も少なくありません。
やはり小野薬品の経営陣は、女性MRの『胸の谷間』営業だけでは前途がないと危機感を抱いていたのでしょう。
本庶佑氏のPDー1の解明
1992年に、京都大学の本庶佑氏らがPD-1を発見します。当初PDー1は謎の物質でした。
しかし、小野薬品による支援もあり、7年後の1999年に免疫反応を抑制する分子であることが解明されました。そうして、本庶氏はこのPD-1こそが『がん免疫監視説』を成立される物質と考えたのです。
『がん免疫監視説』
『がん免疫監視説』は1950年代に提唱された仮説です。
人間の体内では毎日3000個ものがん細胞が生じています。そのほとんどは生体内で排除されているのです。その排除を免疫系が行うことで発症を防いでいるという説が『がん免疫監視説』です。
しかし、『がん免疫監視説』を証明する物質は50年以上も見つからなかったのです。
メダレックス社と小野薬品によるオプジーボ開発
本庶氏は、PD-1が『がん免疫監視説』を成立される物質であることを証明する論文を発表していきます。
そして、その働きを制御するモノクローナル抗体を作成すれば癌治療薬になると確信を深めていくことになるのです。当初より提携していた小野薬品に開発を持ちかけました。しかし、小野薬品にはモノクローナル抗体の技術が不足していました。結局、その技術のある米国のバイオベンチャー企業メダレックス社と提携することで小野薬品との開発が始まりました。
開発は難航し、その開発に失敗すれば小野薬品の経営危機に陥るほどにもなります。
ブリストル・マイヤーズ・スクイプ(BMY)のメダレックス社買収
しかし、2009年に潮目がかわります。メダレックス社が米製薬業界の巨人ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY)に買収されることになったのです。BMYが参加したことで開発は急激に加速してきます。
そうして2014年に世界に先駆けて日本でオプジーボが悪性黒色腫の治療薬として承認されることになったのです。
免疫療法の位置
癌の治療としては、①手術、②放射線、③抗がん剤、④免疫療法があります。免疫療法はオプジーボの出現によりはじめて癌治療の一つとして医学的に認められることになった治療方法です。
しかし、癌の治療は①の手術がもっとも有効な手段です。
手術では治療が不十分な場合に、③抗がん剤や、④免疫療法の対象となるのです。当然、④免疫療法であるオプシーボの適応となるのは治癒が難しい癌となります。
最初日本で適応となった悪性黒色腫は、ほくろの癌であり、急激に進行する極めて悪性度の高い癌です。
その他オプジーボの適応となる癌は、頭頸部の転移性扁平上皮癌や転移性直腸癌があります。すでに転移をしているために、治癒はほぼ不可能です。
メルク社(MRK)のキルトーザへの敗北
進行性非小細胞肺癌(NSCLC)も治療が非常に難しい癌の一つです。
非小細胞癌は初期なら手術で治癒することも可能です。しかし、発見されるときはほとんどが進行性であり、その場合にはすでに治療が困難となっています。
オプジーボが適応となるのはそのような癌なのです。
しかし、進行性非小細胞肺癌(NSCLC)については、2016年にメルク社(MRK)のキルトーザがオプジーボよりも成績が良好であることが明らかとなりました。その結果から、BMYの株価は大暴落しました。
治験結果に左右されることの愚
しかし、一つ一つの治験の結果で株価が左右されることは気にする必要はありません。
そもそもオプジーボであってもキイトルーダであったも延命に過ぎなく完治にはほど遠い状態です。
本庶氏は、21世紀中には癌が克服できると講演で話されていました。現在のところゴールはまだまだ先と言わざるえません。ゴールからみれば、目先の治験の結果は、瞬間の出来事に過ぎないのです。
ヤーボイの開発
BMYが買収したメダレックス社はヤーボイの開発も行っていました。
最近では、オプジーボとヤーボイを組み合わせた治療の有効性が確立しつつあります。それにより、BMYの株価は再び持ち直しました。
エリキュース
急激に普及する抗凝固剤エリキュース
次に、BMYの主力医薬品であるエリキュースについて説明していきましょう。
エリキュースは経口抗凝固剤であり、欧米の主要市場でトップシェアに迫っています。
エリキュースの役割
血液には、出血を止めるための凝固因子という分子が含まれています。その凝固因子は12種類あり、血液の流れが止まると、ドミノ式に次々と12の因子が活性化し、血栓という血液の塊をつくっていきます。それにより出血が止まることになるのです。
しかし、心房細動という不整脈では、心房内で血液の動きが悪くなることで血栓が形成されます。その血栓が血流にのって脳の到達すると脳梗塞になるのです。その結果、麻痺等が出現したり、死亡に至ることもあります。血栓が足の方向に流れると、下肢の動脈が詰まり、足の切断につながることもあります。
使いにくさからエリキュースに駆逐されつつあるワーファリン
エリキュースは、その凝固因子の1つである第10因子を抑制することで血栓ができることを防いでいます。
エリキュースが発売される前には、ワーファリンという薬剤が使われていました。ワーファリンは、第2、7、9、10因子と4種類の因子を抑制しています。多数の因子を抑制しているために、さまざまな要因が薬効に影響します。そのために効果が非常に不安定なのです。
効果が不十分なら血栓症で脳梗塞が出現することもあります。逆に効きすぎるなら出血が起きやすくなり、脳出血や胃出血につながることもあります。
そのために、担当医師は、常に凝固機能をその場で測定し、ワーファリンを調節しなくてはいけません。
ワーファリンを超えるエリキュース
逆に、エリキュースは第10因子のみを抑制しているために、効果が非常に安定しています。検査もそこまで頻回に測定する必要はありません。それは、医療従事者の手間が省け医療費の削減にもつながります。
抗凝固剤のなかで、エリキュースのシェアは米国ではすでに30%を超えています。しかも、その売上増加率は40%にもおよんでいるのです。
ワーファリンも依然として40%のシェアを誇っているもののシェアは低下しつつあります。2018年には、エリキュースのシェアがワーファリンを超えることが確実視されているのです。
ファイナンス
売上・キャッシュフロー・純利益
それでは10年間の売上、キャッシュフロー、利益の推移を見てみましょう。
世界経済回復時での停滞
リーマンショック後に世界経済が回復基調となってきた2012年から2014年にかけて、売上が大きく落ち込んでいることがわかります。それは、特許切れによるものです。そこからも、製薬会社は利益が景気に左右されないものの、特許切れの大きく依存することが理解できます。
その間の一株あたりの利益(EPS)を見てましょう。
2011年:2.16ドル
2012年:1.16ドル(46.3%減)
2013年:1.54ドル(32.8%増)
2014年:1.20ドル(22.1%減)
この推移より収益のボラティティが非常に高いことが理解できます。逆に言えば、製薬会社への投資はボラティティが高いことを前提に、配当再投資を忍耐強く続け、大幅に下落した場合には買い増しを行い、投げ売ることは慎むことが必要です。
リーマンショック時の強い不況耐性
次に、リーマンショック時の売上の推移を見てみましょう。
まず、2008年から2011年の不況時であっても売上が落ちていないことが特徴的です。そのために、2008年から2010年の世界的な金融危機の間にも、株価は好調に推移しました。
その期間の1株当たり利益を確認してみましょう。
2007年:1.09ドル
2008年:1.59ドル(45.9%増)
2009年:1.63ドル(2.5%増)
2010年:$ 1.79(9.8%増)
ブリストル・マイヤーズ・スクイブは金融危機の中で1年間のマイナスの利益成長を経験しなかったのです。
いかにヘルスケア企業が景気に左右されないかを再確認することができます。今後、10年にわたる好景気が終焉に向かおうとしています。BMYのような巨大なヘルスケア企業への投資を検討するべき時期に来たと言っていいでしょう。
配当
BMYのような製薬会社は特許切れリスクによるボラティティから配当貴族になることは困難です。しかしそれでもBMYは2009年より毎年にわたり配当を引き上げ、9年連続増配を達成しています。現在のところ配当性向は60%であり余裕があり、2019年には10年の連続増配となります。
しかも、その配当額利回りは3%を超えています。
2018年第3四半期の決算
2018年の第3四半期の決算では、前年同期とくらべ売上高は8%上昇しました。
それぞれの薬剤の前年同期との売上げを比較してみます。
オプジーボ 42%増
エリキュース 28%増
オレンシア 7%増
スプリセル 4%増
ヤーボイ 18%増
すべての主要薬で売上の増加を認めることができます。
停滞期を超え成長期に入るBMY
2012年以降の停滞を脱却し、画期的な新薬の開発が進んでいることから成長基調に入ったと言っていいでしょう。さらにBMYには、その他のパイプラインとして、多発性骨髄腫の治療薬、前立腺癌ワクチン、肝炎治療薬が控えています。これらの薬剤のそれぞれは、将来的な売上の向上をもたらすことが期待されています。
結論
製薬企業であることから高いボラティティがあります。しかし、長期的には平均5%程度の成長に収斂するでしょう。さらに、現在3%を超える配当があり、配当再投資により忍耐強く投資をすれば、ある程度のリターンを得ることができるでしょう。
ただし、高いボラティティでのリスクは、高値での一括の購入です。そのリスクを避けるためには、下落時に少額ずつ分割して購入することが大切です。
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