前々回、ライブドア社の発展についてを記事にしました。
前回は、2006年1月16日には東京地検特捜部がライブドアの強制捜査を開始したことを記事にしました。捜査により、東京市場は大パニックとなり、ジャスダックやマザーズの新興市場には壊滅的な売り注文が殺到します。
目次
ライブドア社内からみた堀江貴文CEO
拝金主義とは対極にあるライブドア内での堀江氏
メディアは、堀江氏の『人の心はお金で買える』『金で買えないものはない』という発言を繰り返し報道し、マネーゲームでみせかけの成長を演出した拝金主義者の印象を植え付けていくことになりました。
しかし、社内での堀江氏は報道とはまさに正反対だったのです。
元ライブドア社員が出版した書籍を引用してみましょう。
マスメディアはこぞって「金で買えないものはない」と常に豪語したいたかのように報じたが、社内でその類いのことを言っていたのに遭遇したことはない。
仕事ばかりしているイメージだった。
小林佳徳 著『社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず意思は継続するという話』
1月23日東京地検特捜部は地裁に堀江貴文氏の逮捕状を請求しました。
逮捕前日の夜遅く、堀江さんに「あとをよろしく頼む」と伝えられ、泣いていた社員は一人や二人ではない。社内に堀江さんと敵対する人がいなかったといえば嘘になるかもしれなが、多くの人が心のどこかで「そんなことをする人じゃない」と思う気持ちがあった。その涙は社員全員の思いを代弁していた。
小林佳徳 著『社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず意思は継続するという話』
多くの拝金主義の経営者は、過酷なリストラで利益を上げ、自分の株式市場での評価を上げていきます。元日産ゴーン会長はその典型といっていいでしょう。
しかし、堀江氏はそのようなリストラとは対極に位置する経営者だったのです。
2003年のある日、めでたく懐妊した女性社員がいた。モバイル事業部の営業だった。古賀美奈子さんで、現在はLINEで営業マネージャーの職に就かれている方である。
古賀さんは堀江さんにこう言った。
古賀さん「社長!思い切り働きたいので、育児手当制度を作ってください!」
堀江さん「まあ、やればいいんじゃない?」即断の結果、育児手当がすぐに導入された。
導入された会社の育児手当は、0~1歳児がいる社員には月5万円を支給、1~3歳児には月4万円……と段階に減っていき、最後の7歳児だと月1万円が支給される。
小林佳徳 著『社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず意思は継続するという話』
月5万円の育児手当がいかに手厚いかは、社会人なら容易に理解できるのではないでしょうか。
現在、復職するつもりもないのに育児手当をもらい、復職直前に退職する女性社員が問題となっています。女性社員にそこまでの手厚い手当を与えても、結局は裏切られることが少なくありません。
堀江氏は、「裏切られるリスク」についてどのように考えていたのでしょうか。
僕は人を信じやすいタイプだ。いや、信じたいと願うタイプだ。
「他者を信じること」とは、「裏切られるリスク」を引き受けることでもある。それを裏切られたからといって不平不満を述べるのは筋が違うと、僕は思っている。
そう、人の気持ちなんで、究極的にはわからないものなのだ。
そして、わからないからこそ、僕は信じる。
仲間を信じるからこそ、僕は全力で働くことができる。
人の心がわからないからと周囲を疑って生きるのは、あまりにも寂しい人生だ。
『ゼロ』堀江貴文 著
逮捕された堀江氏に対するライブドア社員の対応
逮捕された堀江氏は、拘置所の独房室に収容されることになります。
そこでは、弁護士以外の外部との接触を禁止され、新聞や雑誌の購読も許されません。窓も小さくスリガラスで外の風景を見ることはできないのです。
そのような環境では精神的に追い込まれていくものです。堀江氏も例外ではありません。
ある日、面会に訪れた弁護士さんたちが2枚の色紙を持ってきてくれた。
黙って差し出された色紙に目をやると、そこにはライブドア社員からの応援メッセージがびっしりと書き込まれていた。
個性豊かな一人ひとりの筆跡。
気がつくと僕は、声を上げて号泣していた。
すべてを失ったつもりでいたけど、なにも失っていない。
僕にこんなに熱くて、こんなに最高な仲間がいるじゃないか!
涙が止まらない。彼らだって、ライブドア社員というだけで、あのホリエモンの部下だというだけで、世間から白い目で見られているだろう。僕のことを疑いたくなったこともあっただろう。
それでもみんな僕を信じて、こんなに熱いメッセージを送ってきてくれたんだ……。
……ありがたい。ただただ、ありがたかった。
大声で号泣する僕を見て、弁護士さんも泣いていた。もしもいま、あの色紙にメッセージを書いてくれた元ライブドア社員に会えるとしたら、一人ひとりの目をみてお礼を言いたい。
みんな、ほんとうにありがとう。みんなと一緒に走り抜けた日々は、僕の宝だ。みんなを仲間にできたことを、心から誇りに思う。
『ゼロ』堀江貴文 著
拘置所のゴーン元会長に、日産の社員が手書きの色紙を届けることを想像することができるでしょうか。
そこからも、堀江氏がライブドア社員にとってどのような経営者であったかが想像できます。
ライブドア上場廃止を決めた、元東芝会長
ライブドア上場廃止
2006年3月13日ライブドアの上場廃止が決定されます。
東証の西室社長は
「金額において重大であり、投資者の投資判断にとって重要な情報を故意に偽った点で悪質であり、組織的に行った点で上場会社としての適格性を強く疑わざるを得ない」
と断じました。
東芝を崩壊させるウェスチングハウス(WH)買収を推進した西室氏
西室社長は東芝の元会長であり、会長退任後も特別相談役として絶大な影響力を保持し続けました。
その西室氏こそ、東芝崩壊の原因となる米原発子会社ウェスチングハウス(WH)買収を強力に推進した人物に他ならないのです。WH買収による損失隠蔽のための東芝の粉飾決算は、7年間で2306億円にも達しました。
ライブドアの52億円は、実際にキャッシュフローが存在します。一方、東芝の場合は、キャッシュフローの実態のない粉飾決算であり、その額は、2306億円にも上ったのです。
西室氏は、ライブドアの上場廃止を決定する一方、2306億円もの粉飾決算を行った東芝については上場廃止を回避するため奔走していくことになるのです。
堀江氏の経営者としての限界
堀江氏の経営者としての限界『あきっぽさ』
強制捜査のときでもライブドアのポータルサイトは落ちることはなくニュース記事を流し続けました。逆に、東証はサーバーの負荷に耐えられず一時的に全株取引停止に追い込ました。
しかし、ライブドアの高い技術にもかかわらず、コアとなる事業が育つことはなかったのです。その原因は、堀江氏の『あきっぽさ』が原因であることは明らかです。
堀江氏は、天性の閃きから、スマホや検索エンジンの到来も予想していました。しかし、事業化するには集中的に人材を投入し、長期間かけて育てることが必要です。しかし、多くの事業が、堀江氏の『あきっぽさ』から、成熟するまでに頓挫したり、売却してしまうことになったのです。
そのような『あきっぽさ』が、堀江氏の経営者としての限界の一つと言っていいでしょう。
成功の鍵は、的を見失わないことだ。自分が最も力を発揮できる範囲を見極め、そこに時間とエネルギーを集中することである。
ビル・ゲイツ
もしも、堀江氏にビル・ゲイツのように忍耐強く事業を育てる資質があったなら、いま世界を席巻しる携帯電話は、iPhoneではなく、ライブドアPhoneだったかもしれません。
『堀江氏は無罪』との意見書を提出する京大高山教授
堀江氏は、東京地裁で実刑判決となり、東京高裁でも実刑判決の判決を受けることになります。弁護団は最高裁に上告するにあたり、刑法学者の意見書を提出することを検討します。
そして、日本でもっとも大きな権威を誇る東大の刑法学派に依頼することになります。その学派は、刑法の運用を客観化することで、冤罪を防ぐことを主要な研究テーマとしています。そこから平野龍一東大総長や、山口厚最高裁判事をはじめ多くの人材が輩出されてきました。学派でも著明な高山佳奈子教授に意見書を依頼することになったのです。
高山教授は、丹念に裁判記録を検証し、検察の提出した証拠では堀江氏の関与を完全に立証することは困難であることに気づきます。さらに、山一証券や長銀の粉飾決算と比べて少額にもかかわらず実刑となることは不当と考えます。そして、『堀江氏は無罪であるか、そうでないにしても実刑判決は不当である』との意見書を提出することになるのです。
堀江氏の経営者としての限界『誠実さを欠いた発言』
後に、堀江氏はTwitterで高山教授に『何言ってだこいつ。バカか。』『こんな奴に税金使われていると思ったら腹立つね』炎上発言をすることになります。より詳しく記載した記事を添付してみます。
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【相対性理論がなければiPhoneでGoogle Mapを使えない】京大教授をバカとけなすホリエモンの限界
京都大学の高山佳奈子教授を『バカ』と一蹴したホリエモンこと堀江貴文氏の発言が一時期話題になりました。堀江氏によれば高山教授の仕事は給与に見合っておらす、そもそも世の中の役にはたっていないということのよ ...
少し調べるなら、高山教授の『どうすれば冤罪を防ぐことができるか』という研究テーマの重要性が理解できるはずです。
知性、エネルギー、誠実さ。最後がかけると、前の二つは意味のないものになる。
ウォーレン・バフェット
このような堀江氏の挑発的な発言には、『誠実さ』の欠如を疑われてもしかたありません。その結果、多くの敵を作り、東京地検特捜部の捜査を招くことになったといっていいでしょう。
炎上を引き起こすような『誠実さ』を欠いた態度も、堀江氏の経営者としての限界の一つであったと思われます。
LINEを生み出すライブドアの技術
堀江氏というリーダーを失ったライブドアは自力運営が困難となり、2010年4月韓国最大のインターネット企業であるネイバーに、たった69億円で買収されました。
ライブドアを取り込んだネイバーは画期的なモバイルプラットフォーム開発します。LINEです。しかし、LINEこそネイバーに買収されたライブドアの社員が作り出したものなのです。堀江氏がライブドア時代に採用し育成した日本人技術者の手によるものなのです。
再起を果たす堀江氏
諸行無常
ライブドアの技術がLINEを生み出したことを知る人は多くありません。もはや、一時代を駆け抜けたライブドアの記憶は、忘却の彼方へと消え去ったのです。
ライブドアという会社を失って、未練はないか。
そう聞かれたら僕は「ない」と即答できる。たしかに命がけで育てていった会社だ。誰よりも深い愛着はある。しかし、未練はない。僕はすでに前を向いているからだ。
ときおり、「堀江さんの座右の銘はなんですか?」と聞かれることがある。
もともと、座右の銘など持っていないのだが、あまりに多く聞かれる質問なので、いつのころからか「諸行無常ですよ」と答えることにしている。これは座右の銘でも仏教的な心構えでもなく、世の中の真理だ。
諸行無常の原則は、組織やビジネス、さらには人間関係にも当てはまる。
組織は動き、ビジネスは変化する。大小さまざまな出会いと別れが、人間関係を更新していく。現状維持などありえない。僕はかわり、変わらざるえない。僕を取り囲む環状もまた、変わっていく。
なにを得ようと、失おうと、未練など生まれるはずがないのだ。
『ゼロ』堀江貴文 著
堀江氏によれば、「諸行無常」とは、仏教的な心構えはなく、世の中の真理ということです。
それでは、仏教的な「諸行無常」とはどういう意味なのでしょうか。
お釈迦様が入滅される3ヶ月前の言葉を引用してみましょう。
さあ、修行者たちよ。わたしはいまお前たちに告げよう、もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠けることなく修行を完成しなさい。
『ブッダ最後の旅ー大パリニッパーナ経』中村元 著(岩波文庫)
『もろもとの事象が過ぎ去るものである』ことこそ、諸行無常に他なりません。諸行無常については、お釈迦様も堀江氏も意味するところには変わらないのです。
努力
また、お釈迦様は、『怠けることなく』と述べておられます。それは『努力』しつづけることを意味します。
堀江氏には、『努力』という言葉とほど遠い印象があります。『努力』をしなくても要領よくゴールに到達するようなイメージがつきまとっているのです。
努力という言葉には、どうしても古くさくて説教じみた匂いがつきまとう。できれば僕だって使いたくない。でも、挑戦と成功の間をつなぐ架け橋は、努力しかない。その作業に没頭し、ハマッていくしかないのである。
努力の重要性を説くなんて、ホリエモンらしくないだろう。
地道な足し算の積み重ねなんて、ホリエモンには似合わないだろう。
けれど、これが真っさらな「堀江貴文」の姿なのだ。これまでの僕は、周囲が期待する「ホリエモン像」を演じすぎたところがあったし、世間の誤解を面白がってもいた。そしてゼロ地点に戻ったいま、堀江貴文という人間を、できるだけストレートに伝えたいと思っている。もう一度言おう。
成功したければ挑戦すること。
挑戦して、全力で走りぬけること。
その全力疾走のことを、人は努力と呼ぶ。僕は、堀江貴文は、どうやら滑稽なくらいに不器用な努力の人らしいのだ。『ゼロ』堀江貴文 著
『未来を恐れず、過去に執着せず、今を生きよ』
堀江氏は収監時から、メールマガジンをはじめとして、精力的に社会的活動を開始します。現在、そのメールマガジンは有料にもかかわらず、爆発的な人気を呼び、2万人に達しようとしています。
もしも、元日産ゴーン会長がメルマガを発行したとして、いったい誰が読むでしょうか。堀江氏のメールマガジンは、読者を引きつける何かがあるのでしょう。
平成26年に、近畿大学は堀江氏に卒業式のスピーチを依頼しました。そのスピーチは大反響を呼びます。近畿大学がアップしたYouTubeを引用してみましょう。
スピーチの中でもっとも重要なことは最後の『未来を恐れず、過去に執着せず、今を生きよ』です。言い換えると『今に全力をつくす』ことです。
僕らの人生には「いま」しか存在しない。
過去を振り返っても事態は変わらず、未来に怯えていても先へは進めない。
かけがえのない「いま」に全力をつくすこと。脇目も振らず集中すること。将来の自分とは、その積み重ねによって形成されていく。『ゼロ』堀江貴文 著
『今に全力をつくす』ことの重要性は、堀江氏の専売特許ではありません。ジョブズのスピーチでも強調されていました。そして、仏教徒であるジョブズのスピーチの原点は、お釈迦様にあるのです。よし詳しく記載した記事を添付してみます。
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堀江氏というだけで、拒否反応を起こす方もおられるかもしれません。しかし、逆に、私たちと同様に多くの欠点を抱えている堀江氏だからこそ、そして、どん底から再起した堀江氏の発言だからこそ、『今に全力をつくす』ことの重要性が説得力を持つように思われます。
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