いままで『ハイテク株式市場の死角』の連載で今後の株式市場のリスクを検討するために1929年の大暴落を振り返っていました。
その連載で前回の『ハイテク株式市場の死角 その3』では、1929年の大暴落後のアメリカ社会の変化を記載しました。しかし、その影響はアメリカ国内に留まりませんでした。影響は世界中に及ぶこととなったのです。
今回は、アメリカ国外への影響について目を向けてみましょう。
目次
アメリカの経済政策
アメリカの投資資金の引き上げ
当時の大恐慌による世界経済への影響は過去の話ではありません。現在にこそ、当時とおなじようなリスクが潜んでいるのです。1929年を知ることは未来を知ることと言っても言い過ぎではないのです。
1929年の大暴落後の大恐慌により、アメリカはそれまでの莫大な海外への投資資金を引き揚げました。アメリカによる投資の引き上げにより、世界各国は急速にに資金不足に陥っていきます。
アメリカによる保護主義
それだけではなく、アメリカのフーバー大統領は1930年6月に関税を40%に引き上げたのでした。それは、国内産業を保護して恐慌の克服をめざすことを目的とした政策でした。
関税の引き上げは恐慌対策としては逆効果であると多くの経済学者が大統領に警告しました。しかし、その警告をフーバー大統領は無視したのでした。
アメリカの関税引き上げにより、オランダ、ベルギー、フランスおよびイギリスは直ちに報復的関税措置を発表しました。
イギリスの金本位制離脱
さらにイギリスが自国の産業の競争力を確保するために、金本位制から離脱することになったのです。
それまでは、イギリスは自国の通貨であるボンドの価値を保つために、ポンドと金との交換を認めていました。しかし、金本位制から離脱し自国の通貨を切り下げることにより、輸出を増やすこととしたのです。
イギリスの金本位制離脱により、各国は通貨安定のための金を確保する必要にせまられました。その結果、各国は米ドルを大量に売却し金を確保することとなったのです。
為替市場の崩壊
各国がいっせいにドルを売却し金を確保したことから、アメリカ中の銀行で金不足に陥ります。金不足は、通貨量の不足を引き起こし、銀行の財務状況の急速な悪化を引き起こしました。その結果、銀行の倒産が加速され、1933年までに6000行を超える銀行が倒産したのでした。
アメリカ政府は、ドル売りを防ぐために公定歩合を引き上げます。しかし、不況での金利引き上げは、さらなる景気の悪化を引き起こすことは明らかでした。その結果、ドル売りがさらに加速されることになったのでした。
アメリカ政府は、金とドルとの交換を停止します。それは、実質的には金本位制からの離脱にかわりありません。
ここに金の価値を仲介としていた為替取引は潰滅的な打撃を受けることになったのです。
ブロック経済による世界経済の縮小
イギリス、フランス、アメリカのブロック経済
為替取引の壊滅から、異なる通貨でのグローバル取引は70%減少し、経済取引は同じ通貨間のみで行われることになります。それをブロック経済と言われています。
ブロック経済により世界経済は停滞し、縮小に向かいます。
まず、イギリスは本国と世界中に保有する植民地の間で、ボンド・ブロックを形成します。
フランス・ベルギー・スイス・オランダは金本位制を堅持しました。それらのヨーロッパ大陸諸国は、本国とその植民地間での金フランブロックが形成します。
アメリカは、南北アメリカ大陸にまたがるドルブロックが形成します。
円ブロック
そして、日本も円ブロックを形成します。
ブロック経済が形成される前には、日本は支配している満州については、満州鉄道の権益を保有するだけでした。満州は形式的には中華民国の領土でした。
ただし、満州鉄道は単なる鉄道会社ではなく、地域の徴税権や行政権のような統治機構をも保有していました。さらに満州鉄道の警備のために、関東軍も設立されていました。
当初、関東軍は、満州鉄道の警備を目的とした軍隊に過ぎませんでした。しかし、関東軍は、次第の強い権力を保有するようになっていくのです。そして、いつしか満州を支配する権限を保有するまでに至ったのでした。
自由貿易では、内政の統治機能があれば事足りました。しかし、ブロック経済では、関税等の整備のために、対外的な機構が必要となります。そのために、関東軍は、満州を中国政府から分離させ、満州国を設立させました。日本政府は、ブロック経済での独立国の必要性から、関東軍の暴走を追認するほか無かったのでした。
しかし、満州国設立は、中国市場を狙うアメリカを刺激し、日本とアメリカの対立がさらに激化していくことになるのです。
債務超過の植民地経営
イギリスやフランス、そして日本はブロック経済を維持するために植民地の支配をより強化していきます。しかし、そもそも植民地経営は19世紀後半から大幅な赤字経営となっていたのです。ブロック経済という保護貿易により世界経済が縮小していく中で、植民地支配の強化は、さらなる国家財政の悪化を引き起こしていくのでした。
ブロック経済では、仮に世界大戦が起こらずとも、破綻は確実でした。破綻を防ぐ方法はイギリス、フランス、日本が保有している植民地を解放し、独立させ、各国が協調して、自由貿易を推進するしかありませんでした。
しかし、それが実現するのは第二次大戦後となります。当時は、国の威信にかけて植民地の独立を認めることはできなかったのです。
日本も、その植民地経営の赤字を埋め合わせるために、さらに市場として中国本土を求め日中戦争に発展します。それは最終的には、アメリカとの戦争に突き進むこととなり、破滅へと向かっていくのです。
第二次大戦後、経済ブロックによる対立が悲惨な戦乱をもたらしたことを反省し、各国は、協調して、為替政策や、自由貿易を推進するようになったのです。それは、戦後の長期にわたる安定と経済発展を世界にもたらしました。
トランプ大統領のアメリカファーストという保護主義
しかし、現在、トランプ大統領は、アメリカファーストをとなえ、保護貿易の色彩を強めています。
かつて、大恐慌を克服するための保護貿易が、世界経済を悪化させ、悲惨な戦乱を引き起こすこととなりました。そのために、トランプ大統領のアメリカファーストが世界経済に大きな悪影響を及ぼすことが懸念されています。
前回と今回で、大恐慌によって起こったアメリカ国内の変化と、世界での状況を説明しました。
当時は、第二次産業革命の課程で出現した空前の不況でした。たしかに、現在、経済管理は当時よりもはるかに洗練されています。しかし、第四次産業革命であるハイテク企業の興隆には、1929年からの大恐慌よりも深刻な不況を引き起こすリスクが潜んでいるのです。
別の機会にそのことを検討したいと思います。
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