世界の穀物取引において極めて大きな影響力を持つ『穀物メジャー』。世界人口の増加により世食糧需要がさらに拡大することは明らかです。その需要の拡大にともない『穀物メジャー』は、穀物供給網をさらに広げ、その影響力はますます強くなることは疑いありません。
今回、アメリカ穀物メジャー大手アーチャー・ダニエル・ミッドランド(ADM)への投資について検討してみましょう。
目次
穀物メジャー
まず、『穀物メジャー』そのものについての説明から始めましょう。
今回、『穀物メジャー』という言葉を初めて聞いた方もおられるかもしれません。『穀物メジャー』とは、小麦、大豆、トウモロコシのような主要穀物を農家から買い付け、集荷、保管、輸送の流通を支配する商社のことを言います。
メジャーと聞くと、オイルメジャーという言葉を聞いたことがあるかと思われます。エクソンモービルやロイヤルダッチシェルのようにオイルメジャーは、川上で油田開発や採掘、中間での流通、そして、ガソリンスタンド等での川下での販売と、石油に関するすべての流れを支配しています。
『穀物メジャー』は、中間での流通に特化しています。
具体的には、農家から穀物を買い入れ、その穀物を貯蔵・運搬し、小売り大手や食品メーカーに販売します。ただし、販売先は大量を買い取ることのできる巨大企業に限られます。日本では、穀物メジャーの顧客は三井物産や三菱商事のような巨大商社に限られています。そのために、日本の小売りや食品メーカーは、三井物産や三菱商事のような商社を介して、穀物を購入しています。
『穀物メジャー』は、貯蔵のために『エレベーター』や『サイロ』という巨大貯蔵施設を保有し、貨物列車や大型貨物船のような運搬手段も保有しています。そのようにして、流通経路を網目のように張り巡らしているのです。
『穀物メジャー』は、合併や買収を繰り返しながら寡占市場を形成し、現在では5社がそのシェア8割を支配するに至っています。
穀物メジャーの2強
寡占市場の穀物メジャーの中でも、アメリカのカーギル社と、アーチャー・ダニエル・ミッドランド社(ADM)の2強体制が固まってきました。
カーギル社
カーギル社は穀物メジャーとしては業界最大の組織です。しかし、ガーギル社は株式を公開していません。カーギル家とマクミラン家による同族経営の非公開会社なのです。
カーギル社は南北戦争が終結した1865年に、アメリカの小麦をヨーロッパへ輸出する事業のために設立されました。現在、カーギル社はアメリカの穀物取引の3割を超えるシェアを占める世界最大の穀物取引企業となっています。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)
そのカーギル社を急速に追い上げている穀物メジャー2番手が、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)なのです。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)の元となるアーチャー・ダニエルズ社は、1902年にジョージ・アーチャーとジョン・ダニエルズが亜麻仁の粉砕事業を開始したときに設立されました。
その後、アーチャー・ダニエルズ社は1923年にミッドランド社を買収し、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)となります。
ADMの躍進は、1970年代に元カーギル社副社長であったドゥエイン・アンドレアスがCEOの就任することから始まります。
1970年代にはバイオエタノール分野を開拓し、1973年の中東戦争による石油ショック時に大きくその業績を伸ばします。
1980年代になると、経営不振となった農業組合系の穀物集荷施設を次々と買収し、規模を拡大していきました。
1990年代では、シンガポールやブラジルに進出し、海外市場を開拓する足がかりを固めていきます。
現在、ADMは160カ国で事業を展開し、年間売上高は630億ドルを超え、その穀物取引量はガーギル社についで世界2位の規模を誇っています。
ADMの発展の要因は株式公開企業であることから、資金調達や他社との業務提携が柔軟にできることがあげられます。
さらに、株式を公開していることから、私たち個人投資家の投資対象ともなるのです。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)への投資
寡占市場の連続増配企業
1902年設立のADMは、穀物メジャーの中でももっとも新しい企業です。そのことからも、この業界がいかに参入障壁が高く、栄枯盛衰の少ない寡占市場であるか理解できると思われます。
そのような永続性のある寡占市場であることは、43年連続増配記録にも表れています。
ADMは世界最大の農業ビジネスの巨人であり、農家と食品会社の「仲介者」としての業務を行っています。具体的には、商品(主に油糧種子やトウモロコシ)を農家から調達し、輸送、保管、加工を行い、大口の業者へ販売していきます。
事業セグメント
その事業内容は4つのセグメントに分かれています。
① 農業サービス(営業利益の16%)
② トウモロコシ加工(営業利益の47%)
③ 油糧種子加工(営業利益の22%)
④ ワイルドフレーバーおよび特殊成分(営業利益の11%)
⑤ その他(営業利益の残りの4%)
薄利多売と価格変動のリスク
ADMのような穀物メジャーは、流通マージンによる『薄利多売』の収益に依存しています。しかも、その利益も穀物の価格によって変動します。
たしかに、穀物メジャーは、高い参入障壁と永続性を兼ね備えた企業であることは疑いありません。しかし、その商品である油糧種子やトウモロコシの価格決定力は無いのです。その価格は市場による変動に翻弄されるのです。
したがって、ADMは価格変動による財務基盤への影響を最小限に留めなくてはいけません。
リスクへの対策
そのような薄利多売と価格変動のリスクを軽減するため、食品セクターの多角化が図られています。
これまでに、ココアとチョコレート事業、乳酸・酸事業、南米の肥料事業やサトウキビエタノール事業が加えられました。
さらに、2017年にワイルドフレーバー(Wild Flavor)を30億ドルで買収しました。
これらの買収により、ADMは穀物商品の価格変動に対する耐性を獲得するだけでなく、大きな成長機会を持つこととなりました。
そのような買収戦略による成長とともに、人口増加率の高い新興市場をも獲得しつつあります。
新興市場での中産階級の誕生により、肉製品の消費量が急速に増加しています。そのために、家畜の飼料となる大豆やトウモロコシは、ますますその重要性を増しています。
大規模化による寡占
薄利多売のマージンと、天候等による予想を越える穀物の価格変動。そのようなリスクを緩和するためには、規模の優位性が重要となっています。その規模の重要性から、合併や買収がくり返され、穀物メジャーは寡占市場を形成しました。その結果、高い参入障壁が形成されたのです。
ADMは、世界で最も大きなトウモロコシの流通量を誇っています。これは、規模の経済性と生産と流通の効率化につながってきます。
そのADMの規模は、500の貯蔵施設、250の精製施設、および38の開発センターを有し、比類のない世界的な輸送ネットワークを構築しているのです。その流通ネットワークは世界的な穀物メジャーとして高い競争力を保持しています。
これにより、ADMは、業界の低迷時でさえ高い収益性を維持できるのです。
2018年第一四半期の決算
2012年から2017年にかけて、穀物価格の下落が引き起こされました。
2012年の干ばつ以来、天候予想の精度向上と、農業技術の進歩に伴い穀物やその他の農産物の生産が急増したことによります。大豆や、トウモロコシ価格は、2013年に急落し、小麦価格は2012年から2017年にかけて、じりじりと値を下げました。
しかし、その価格も2017年に底を打ったようです。
さらに、米国農務省の月例世界農業需給見通しによれば、世界的には、すべての農産物の需要が着実に増加しているのです。人口は1四半期に約2,000万人増加しています。さらに、中国やインドの経済発展は、生活水準の高まりをもたらし、穀物価格は反転を始めたのです。その上、食糧は不可欠であるにもかかわらず、世界中で作物を栽培するのに適した耕地は極めて限られているのです。
その反転が、2018年第1四半期の決算でも明らかになりました。じりじりと下がっていた売上は反転を開始したのです。
1Q2017 | 1Q2018 | |
売上高(100万ドル) | 14998 | 15526 |
純利益(100万ドル) | 339 | 393 |
配当
2月には、配当額を43年連続して引き上げると発表されました。そのような安定した配当増進に加えて、現在約3%の利回りを達成しています。しかも、その配当性向は50%程度なのです。
売上とキャッシュフロー、純利益のグラフを見てみましょう。
薄利多売のために、キャッシュフローと純利益のみのグラフもあげてみます。
薄利多売で、価格変動が強い市場のために、キャッシュフローは安定していません。しかし、そのようなキャッシュフローで43年にもわたる増配実績は、ADMの経営陣がいかに優れているかを現していると考えられます。
結論
ADMは世界中の人々や家畜に食料を供給している企業です。マージンの低さと価格変動のリスクを勘案しても、需要は日々増え続けていくことは明らかです。
ADMが今日市場で最も魅力的な投資案件の1つと考えて差し支えないでしょう。急落時は、永久保有目的の企業として、購入する価値のある企業であることは疑いありません。
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