P&G(PG)はアメリカの歴史上最も伝統のある巨大企業の1つです。しかも、株主還元に積極的で、配当を63年連続で引き上げているのです。
最近の数年間、PGはしばらく株価低迷の時期が続いていました。しかし現在、低迷期を脱し急激に株価は上昇しています。
今回、PGの企業内容とともに、その投資戦略について検討してみることにしましょう。
目次
プロクター・アンド・ギャンブル(PG)の概要
沿革
PGは1837年に、二人の移民によって設立されました。
一人は、イギリスからの移民であるウィリアム・プロクターです。アメリカに移住後、ロウソク造りの店を始めました。
もう一人は、アイルランドからの移民であるジェームズ・ギャンブルです。アメリカ移住してからは、石鹸の製造業を営むことになります。
意外なことに、二人はPGを設立するまで、お互いに会ったこともなかったのです。
彼らはそれぞれオリビアとエリザベスというノリス家の姉妹と結婚しました。
姉妹の父親は、娘婿のプロクターとギャンブルが原料をめぐって互いに競い合っていることに気付きます。争うよりも、一緒にビジネスを始めることの方が有利と考え、共同経営を斡旋しました。そうして、その後に世界最大の企業の一つとなるプロクター&ギャンブル、すなわちP&G(PG)が誕生しました。
規模
現在、PGは世界最大の生活必需品メーカーであり、従業員数は92000人、販売網は世界180か国以上にもおよんでいます。
さらに、時価総額は実に3000億ドルにも達し、年間売上高は700億ドルを超えているのです。
世界的なグローバル展開
売上高の約55%は北米以外から生み出されています。地理的分布を確認してみましょう。
北米 売上げの45%
ヨーロッパ 売上げの23%
アジア太平洋 売上げの10%
中国 売上げの9%
インド中東アフリカ 売上げの7%
中南米 売上げの6%
世界中でバランス良く販売網が展開されていることが理解できます。
事業ポートフォリオ
PGは洗濯洗剤から消臭剤、紙おむつ、そして医薬品まで、幅広い家庭用品を販売しています。 しかも、保有する21ものブランドが、年間売上10億ドルを超えているのです。
そのような強力な製品群は、5つのセグメントに分類されています。2019年の売上比率を確認してみましょう。
ファブリック&ホームケア 売上の33%
ベビー&女性&ファミリーケア 売上の28%
美容. 売上の19%
ヘルスケア 売上の12%
髭剃り 売上の9%
それぞれのセグメントを見ていきましょう。
ファブリック&ホームケア
ファブリックは衣料洗剤です。アメリカで売上げトップの洗濯洗剤Tideや、乳軟剤Downgが主力商品です。
ホームケアには、食器洗剤や消臭剤がメインです。日本でも消臭剤のファブリーズが知られています。
ベビー&女性&ファミリーケア
ベビーケアの主力商品は、紙おむつです。P&Gの最強ブランドの一つパンパースは日本でも知られています。中国でもパンパースは30%近いトップシェアを誇っています。
女性ケアは生理用品、ファミリーケアはトイレットペーパーの紙製品が主力となっています。
美容
美容では、ケアケアーとスキンケア製品を扱っています。ヘアケアーではPANTENE、スキンケアのSKⅡが主なブランドです。
ヘルスケア
ヘルスケアでは、パーソナルケアとオーラルケアに分かれます。
パーソナルケアとして、胃腸薬や睡眠剤のような消費者向けの医薬品が扱われています。
一方、オーラルケアは、歯ブラシ、歯磨き粉、マウスウォッシュが商品となります。日本でも歯磨き粉ブランドのCrestをよく目にします。
髭剃り
髭剃り製品では、ジレットが伝統的なブランドとして知られています。かつてバフェットの主力銘柄であったジレットは、その後にP&Gに買収されました。
プロクター・アンド・ギャンブル(PG)復活
ポートフォリオ再編
PGは、2013年から競争力の劣化が目立ち、利益率も低下の一途をたどっていました。そのため、数年にわたり利益率の悪いブランドの売却を進めてきました。
2014年に電池のバッテリーブランドDuracellを47億ドルでバークシャーハサウェイ(BRK-A)へ売却しています。
2016年には、43の化粧品ブランドを125億ドルでコティ(COTY)に売却しました。そのブランドには、マックスファクターのように、日本でも馴染みなるブランドも含まれています。
最終的に、P&Gは数年間で100ものブランドを売却し、170を超えていたブランドを65にまで減らしました。
ポートフォリオの再編により、2014年からは売上は停滞し、株価も大幅に下落してきました。2014年に90ドルを超えた株価は、2015年には70ドルを切るまでに落ち込んだのです。
しかし、ファブリーズ、ジレット、SKーⅡなどの強力ブランドへの『選択と集中』を進めた結果、2018年に売上高の下落は底打ちし、株価は徐々に回復していきました。
そうして、2019年には、売上高は年間7%にものぼる著名な拡大がもたらされたのです。
また、ポートフォリオ再編でブランドを売却した資金により、自社株買いも進められました。その結果、一株当たりの利益も大幅に改善します。2019年第四半期決算では、一株当たりの利益は、前年同期と比べ22%も上昇したのです。
衰退したクラフトハインツ(KHC)
一方、PGと同様に、ポートフォリオの再編を行いながらも回復することなく暴落に至った生活必需品メーカーもあります。バフェット銘柄のクラフトハインツ(KHC)です。
なぜPGは業績を回復し、KHCは回復に失敗したのでしょうか。明暗を分けることになった背景を探っていくことにしましょう。
プライベートブランドの興隆
2013年ごろより、PGとKHCが停滞に陥った理由は二つあります。
一つは、プライベートブランドの興隆です。プライベートブランドとは、小売企業が、製造を委託した上で、小売のブランドで販売する形態で、日本でのはイオンのトップバリューや、イトーヨーカドーのセブンプレミアムが知られています。
製造メーカーにとっては、宣伝費のコストがかからず、確実に小売に販売できるメリットがあります。
一方、小売りにとっても、宣伝費の上乗せがないことから低価格を武器に、売り出すことができるのです
オンライン販売の拡大
二つ目はアマゾンのようなオンライン販売です。
かつて、PGやKHCの大手企業は、小売棚を独占し、そのブランド力から消費者に対して強い訴求力を保持してきました。しかしオンライン販売では、すべての商品を画面上で検索することができます。消費者は、その画面上にあるすべての商品の口コミを確認して商品を選別することができるようになったのです。その結果、かつてのような巨大企業のブランド力が機能しなくなってきました。
このようにプライベートブランドとオンライン販売の普及は、PGやKHCにとって大きな脅威となり、業績の停滞に至りました。
プライベートブランドの弱点
しかし、PGは数年にわたり製品ポートフォリオの『選択と集中』を進め復活を遂げました。
もともと、プライベートブランドの競争力は、低価格にあります。しかし、製品の個性が少なくなり、低い利益率から魅力的な商品の開発費を捻出することもできません。
その結果、最近ではプライベートブランドにも陰りが見られ、大企業のブランド製品が魅力を回復してきました。
オンライン販売の信頼低下
さらに、Amazonのようなオンライン販売も曲がり角にさしかかっています。それは、オンライン販売でのコメントの信頼が無くなってきているからです。オンライン販売でも、大企業のブランド製品が選ばれるようになってきたのです。
Amazonの実例を挙げてみましょう。
Amazonの委託販売では、中国業者が架空取引を行い優良コメントのねつ造をしている場合も少なくありません。高評価を揃えた後に、日本に低品質商品を大量の売り裁いるのです。
しかも、同業には大量発注後キャンセルを繰り返し、資金面で窮地に追い込んでいました。
そうして、Amazonの委託業者では、良貨が悪貨に駆逐される現象が起きることになったのです。
その結果、オンライン販売でのコメントの信頼は失墜し、逆にP&Gや花王のブランド製品への信用が復活してきたのです。
クラフトハインツ(KHC)は衰退の背景
そのような背景があるにもかかわらず、なぜクラフトハインツ(KHC)は衰退に至ったのでしょうか。
そもそもKHCの主力製品であるチーズやナッツは、農耕牧畜のはじまりを起源とします。まさに文明とともに始まったのであり、そこでは大規模な近代工場も、科学技術も必要ありません。
さらに、チーズやナッツ製品では、他商品との差別化も困難です。それがブランド力の高いコカコーラの清涼飲料水やモンデリーズのお菓子製品との違いです。
その結果、大規模小売はメーカーよりも強い立場となっていきます。事実、明治グループのような優良企業ですらチーズのプライベートブランドに名を連ねることを余儀なくされているのです。
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一方、P&Gにある消臭剤やシャンプーは産業革命以降の近代化に伴ってより発達してきました。製造には大規模な化学工場が必要であり、商品開発にも高度な科学技術なしには不可能です。
事実イトーヨーカドーのプライベートブランドで消臭剤やシャンプーを目にすることは殆どありません。それは、PGのような製造メーカーに強い発言権があることを意味しています。
このように、同じ生活必需品であったも、その製品群の違いからPGとKHCは大きく明暗を分けることになったのです。
ファイナンス
売上高、キャッシュフロー、純利益
まず、最近10年間の売上高、キャッシュフロー、純利益をみてみましょう。
2014年から売上高が著名に低下していることがわかります。それは、ポートフォリオ再編によるものです。
しかし、逆に営業キャッシュフローは増加していることから、多くの商品が不採算であったことがうかがえます。停滞期には、売上高・営業キャッシュフロー比率は15%にまで落ち込んでいました。
現在、『選択と集中』が功を奏し、売上高・営業キャッシュフロー比率は22%と、価格決定力が著名に回復しました。
配当
PGはは1890年以来、129年連続で配当を支払っています。しかも、その連続増配記録は、63年にも及びます。
そもそも、PGの製品である洗剤、消臭剤、シャンプーが新たな技術の台頭により陳腐化することはまずありません。しかも、その製品は世界中の家庭で毎日使用されているのです。これが、62年にもわたり配当を増加させることのできた理由であり、これからも配当は維持されるでしょう。
結論
PGは、極めて永続性が高く、長期投資に極めて相応しい企業であることは言うまでもありません。
しかし、現在のPERは75にも達しています。もちろん、その高PERは会計処理によるものであり、通常のフリーキャッシュフローから換算すれば、PER25前後と考えることができます。
それでも、PER25としてその評価は適切でしょうか。
現在、成長が回復しているとは言え、今後の成長率は3-5%と予想されます。25のPERは割高であり、過大評価と言っても過言ではありません。
そもそも、株価低迷期のPERは16程度だったのです。
現在、成長率が高くないにもかかわらず割高であるP&Gに投資することは、およそ賢明とは言えません。むしろ、今後PERが20を切るぐらいの時期が来れば、投資を考慮することが適切ではないかと考えます。
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