今回、ヘルスケア企業であるメドトロニック(MDT)を紹介していきましょう。
MDTは現在、世界最大の医療機器メーカーです。
確かに、ヘルスケア産業では、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)が最大級の企業であることは言うまでもありません。しかし、JNJは、医薬品、医療機器、コンシューマーヘルスケア製品とポートフォリオは多岐にわたっています。医療機器分野に絞るなら、今やMDTが最大規模の企業となっているのです。
MDTは、株主還元にも極めて積極的な企業として知られています。増配記録は41年にも達し、長期投資にふさわしいのすべての要素を兼ね備えた企業と言うほかありません。
目次
メドトロニック(MDT)の概要
沿革
MDTは、1949年ミネソタ州で、Earl Bakkenと彼の義理の兄弟Palmer Hermundslieによって医療機器の修理店として設立されました。
1960年代後半に、世界初の植込型心臓ペースメーカーを開発しました。その後も、さまざまな心臓血管器機へと製品を広げ、心臓血管領域では世界最王手にまで成長を遂げていきます。
2014年には、アイルランドに拠点を置く大手医療機器メーカーのコヴィディエン(Covidien)を買収しました。その買収により、世界最大の医療器機企業へと躍進するとともに、本社もアイルランドと移転しました。
規模
今日、メドトロニックは世界最大のヘルスケア企業の1つであり、従業員は90,000人を超え、世界160か国で事業を展開しています。
年間売上高は約300億ドルにも及び、時価総額は1470億ドルにも達しています。
MDTの事業ポートフォリオ
4つのセグメント
現在、MDTのポートフォリオは、4つのセグメントに分けることができます。
心臓・血管治療 売上高の37%
低侵襲治療 売上高の28%
修復治療 売上高の27%
糖尿病治療 売上高の8%
4つの事業セグメントについて、1つずつ説明していきましょう。
心臓・血管治療セグメント
まず、心臓・血管治療のセグメントです。MDTにとって最大規模のセグメントであり、年間売上の約35%を占めています。
その心臓・血管治療の中で、もっとも治療件数が多い疾患は狭心症・心筋梗塞です。心臓は常に大量の血液を全身に拍出しています。そのためには大量の栄養と酸素が必要です。当然。その心臓も血液が必要です。狭心症は心筋梗塞は、その血管が細くなったり、詰まってしまうことで発症します。
日本人の3大死因は、がん、心筋梗塞、脳卒中です。3大疾患に入るほど頻度の高い病気なのです。その狭心症や心筋梗塞の治療器機について、MDTは高いシェアを誇っています。
以前の記事を添付してみましょう。
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【敗北したジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)】心臓血管ステントをめぐる興亡 その1
シーゲル博士によるバリュー投資研究である『株式投資の未来』。そこで永続性の高いS&P500生き残り銘柄が高いリターンを出していることが明らかになりました。その生き残り企業の中でも、アボットラボラトリー ...
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【王者アボット(ABT)の躍進と誤算】心臓血管ステントをめぐる興亡 その2
高齢化と、新興国での中産階級の勃興から、成人病である狭心症や心筋梗塞が爆発的に増加することは疑いありません。狭心症や心筋梗塞は、心臓の血管である冠動脈の血流が阻害さえることによって発症する疾患です。そ ...
その他、不整脈やその他の動脈ステントのように、幅広い心臓・血管治療の医療機器を扱っています。
今回、その不整脈治療であるアブレーションについて紹介していきましょう。
もともと、心臓は電気信号が規則正しく伝わることで正常に拍動をして、全身に血液を送ります。不整脈が出現すると、その電気信号がランダムに発生し、拍動が障害されます。その異常な電気信号を焼き切る治療がアブレーションです。
心房細動という不整脈に対するアブレーション治療について国立循環器病センターによるYouTube動画を添付しています。まさに、百聞は一見にしかずです。
低侵襲治療セグメント
2番目が低侵襲治療で、売上高の28%です。
少しでも手術の負担を減らすために、手術の傷を小さくする医療器機が開発されてきました。腹腔鏡や、自動吻合器、手術でのモニタリング器機がそれに当たります。2014年に買収したCovidienの主力商品です。
修復治療セグメント
修復治療が3番目で、売上高の27%です。
修復治療という正式な医学用語があるわけではありません。それは、MDTの中が便宜的に分類しているに過ぎません。脳血管治療のカテーテルや、人工関節等が相当します。どういう意図から分類されているのでしょうか。
脳の血管が詰まり脳梗塞に陥ったり、くも膜下出血が出現すると麻痺になることがあります。また、リウマチで関節が障害を受けると日常生活の動きが制限されることもあります。そのように麻痺や関節疾患によって、制限された日常生活を『修復』させる器機という意図があります。
糖尿病治療セグメント
4番目が糖尿病治療の医療機器です。売上高の8%に相当します。
その医療機器とはインスリンポンプです。
現在、糖尿病は増加の一途をたどっています。病態によっては、持続的なインスリン投与が必要となります。
今までは、多くて1日4回、自分自身でペン型のインスリン注射器を使い、腹部の皮下に注入する必要がありました。しかし、インスリンポンプにより、自動的に体内の糖を計測しながら、持続的にインスリンを注入していくことができるようになったのです。
YouTube動画を添付してみましょう。
MDT成長の戦略と背景
4つの成長要因
今後も、メドトロニックには高い成長が予想されています。その成長要因は4点あります。
高齢化
まず、第1は高齢化です。
MDTの売上げのうち52%が米国です。その米国には、7500万人のベビーブーマー世代がいます。その世代の多くが高齢化を迎えています。医療器機について、今後爆発的な需要の増加が見込まれています。
さらに、MDTの売上高のうち32%は米国以外の先進国です。そこでも、米国以上の著しい高齢化が進行していることから、急激な需要拡大が予想されています。
新興市場
第2の鍵は、新興市場です。
MDTは、中国、インド、東南アジアなどの新興市場でも、強い存在感を示しています。現在、新興市場での売上げは16%に過ぎません。しかし、それらの国々は、今後、経済成長により著しく存在を高めていくことが予想されます。さらに、膨大な中産階級が形成されていくことから、生活習慣病の莫大な増加も予想されます。
新興市場での収益は、過去7年間で一貫して2桁の成長を続けています。2018年でも12%もの成長を遂げました。
買収戦略
第3の成長の鍵は、買収戦略です。買収によって、製品ポートフォリオを広げ、さらにコストダウンを図っているのです。
メドトロニックの最大の単独買収は、2015年のCovidienの500億ドルの買収です。
Covidienは低侵襲手術に重点を置いていた医療器機メーカーでした。心臓・血管の医療器機が中心のMDTは、この買収により、低侵襲手術の医療器機へと製品ポートフォリオを拡充することに成功しました。
2019年には、脊椎インプラント企業であるTitan Spineを買収し、人工関節分野でも存在感を増やしています。
研究開発
もちろん、買収の際には、プレミアをつけた金額を支払わなくてはいけません。当然、買収のみで成長することはできません。シナジー効果を生み出すことが重要なのです。そのためには、買収先の資源を生かした研究開発が不可欠です。
その研究開発こそが4番目の成長要因であり、MDTの競争優位性を確保し、成長を加速させているのです。実際に過去4年間の研究開発投資額をみてみましょう。
2015年度の研究開発費は16億ドル
2016年度の研究開発費は22億ドル
2017年度の研究開発費は22億ドル
2018年度の研究開発費は25億ドル
投資の結果、4600以上の特許を取得した膨大な知的財産ポートフォリオが形成され、強力な製品パイプラインが構築されてきました。それが、MDTの強さの源泉となり、競争優位性を形成しているのです。
ファイナンス
売上高・キャッシュフロー・利益
まずは、売上高、キャッシュフロー、純利益のグラフを見てみましょう。
2018年度の決算も好調で、売上高については通期で5.5%のオーガニック成長に達しました。調整後の1株当たり利益は10%増加して5.22ドルになりました。しかも、4つのセグメントすべてにおいて成長を果たしていました。特に、修復器機が6.5%、糖尿病器機が13.4%上昇と成長を牽引しています。
また、キャッシュフローも良好であり、堅調なフリーキャッシュフローが維持されています。
しかも、営業キャッシュフローと売上高の比率は22%と、高い価格決定力を保持していることが推測できます。
配当
過去41年間で年間平均18%の配当を増やしています。その点から考慮しても、長期投資にふさわしい企業であることは疑いありません。
もちろん、今までの増配が未来を約束するものではありません。今後も増配が続くかどうかの検討が必要です。
多くの買収によりMDTの債務が増大しています。しかし、MDTには、185億ドルに相当する流動資金がストックされています。さらに、債務も営業キャッシュフローによって十分にカバーされています。
しかも、MDTには極めて高い不況耐性があります。2007年から2009年のリーマンショック時での1株当たり利益を確認してみましょう。
2007調整後1株当たり利益:2.61ドル
2008調整後1株当たり利益:2.92ドル
2009調整後1株当たり利益:3.22ドル
2010調整後1株当たり利益:3.37ドル
2011調整後1株当たり利益:3.46ドル
リーマンショックが存在しなかったかのように、毎年1株当たり利益を増やしています。
現在のキャッシュフローと、製品の不況耐性から考えて、MDTの増配記録は今後も更新されることが容易に推測できます。
結論
現在、MDTの株価は高騰しているためにPERは33にまで上昇しています。また、配当利回りは1.98%と2%すら切っています。高品質のプレミア企業であっても現在の株価ではエントリーすべてきではありません。
今後、アメリカは大統領選挙に突入します。選挙時には、医療費の問題がクローズアップされることが明らかです。最近では、ETFへの投資が主流となっています。そのため、ヘルスケアETFが売却や空売り対象となり、セクターごと一斉に株価を下げることが予想されます。当然、MDTであっても下落を余儀なくされることでしょう。
その際に速やかにエントリーできるためにも、MDTを投資候補としてリストに挙げておくことは、今後の資産形成に有用であることは疑いありません。
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