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【逆張りグロース投資家・アルワリード王子】1997年瀕死のAppleを支援した投資家 その2

投稿日:2019/7/20 更新日:

 

1997年、Appleは倒産寸前に瀕していました。

前回、そのAppleに100億円を超える額を投資した人物としてサウジアラビアのアルワリード王子を紹介しました。

今回は、そのアルワリード王子がITへの投資を開始するところから始めましょう。

目次

逆張りのハイテク投資

IT企業の興隆

1997年に、アルワリード王子は不動産の視察のため渡米します。しかし、そこで見たものはIT産業のすさまじい発展でした。

Windowsパソコンが爆発的に普及し、Yahoo!のポータルサイトに人々は熱狂していました。

底値買い

アルワリード王子はインターネットが世の中を変えることを確信します。

そうして、1997年3月にIT企業への投資を開始するのです。

王子の投資スタイルは、『ボトム・フィッシング(底引き網法)』、つまり『底値買い』です。バフェットと同様に、ブランド企業が底値になったと見込むと、集中豪雨的に資金を投入するのです。

ネットバブル

時代は、空前のネットバブルです。

Microsoft、Yahoo!は連日にわたり最高値を更新し、Microsoftによる一極支配は100年以上続くとみられていました。

破綻寸前企業への投資

しかし、アルワリード王子はそのような銘柄には目もくれません。ネットバブルからも取り残され、倒産寸前となったIT企業への巨額投資を開始するのです。

従業員の給与2ヶ月分の資金しかなく、主力商品を売れば売るほど赤字で倒産寸前の企業。

Appleです。

当時のAppleには、iPhoneはもとよりiPodすらありません。主力商品のMacintoshもバグらだけで、消費者から見放されていました。

1997年にスティーブ・ジョブズの暫定CEOとして復帰が決まっていました。しかし、ジョブズですら再建を半ば諦めSONYに身売りを打診していたのです。

身売りを断られたジョブズは倒産を覚悟し、復帰の際に譲渡されたApple株を1株残してすべて売り払います。

ジョブズですら再建を諦めていた1997年3月、アルワリード王子はAppleへの投資を開始します。当時の株価は現在の1株に換算するなら、0.65ドル。1ドルを切っているのは、その後株式分割を繰り返したためです。分割前の当時の株価は18ドル台です。

王子が集中豪雨的にAppleに投じた資金は1億1500ドル(120億円)もの巨額に達しました。

『正気の沙汰』ではない

今までアルワリード王子が投資した企業は、経営不振を脱し復興を遂げています。そのため、投資家から『結局、王子の言うとおりになってしまうんだ』と神話が形成されつつありました。

しかし、多くは銀行や不動産です。

逆に、IT業界は、勝者総取りの市場です。勝者がすべてを支配し、敗者は消えるほかないのです。

Microsoftに敗れ残骸物に過ぎないAppleへの巨額投資に、『正気の沙汰』ではないと関係者は唖然とします。誰もがアルワリード王子の神話が崩壊することを確信したのです。

しかし、Appleは、スケルトンブルーのiMacがヒットし辛うじて倒産を回避します。YouTubeの『History of the iMac』から、初代iMacの斬新なデザインを見てみましょう。

その後のAppleについて、もはや述べる必要はないでしょう。2018年10月の株価は233ドル、買値から350倍以上になっています。

ニューエコノミー旗手Netscape

インターネットの開拓者

Appleのようなめざましい成功ばかりではありません。それは、1997年11月のNetscapeへの投資です。

現在、Netscapeと聞いてもピンとこないかもしれません。しかし、Netscapeこそインターネットの時代を切り開いた企業に他ならないのです。

ニューエコノミーの先導者

1995年、アメリカでIT革命によるニューエコノミーの時代が幕を開けていました。

震源地は2つです。

1つは言うまでもなくMicrosoftです。1995年8月にアメリカでWindows95発売され、パソコン時代が到来していました。

しかし、最大の震源地はNetscapeに他なりません。

現在の私たちが知っているインターネットの基礎のほとんどはNetscapeによってつくられたのです。当時、Netscapeはインターネットのすべてを支配する企業とみなされていました。

1996年の米ビジネス誌を引用してみましょう。

1つのソフトウェア会社が市場と独占している状況は、恐ろしいことではないだろうか。それに次ぐ企業はあまりに出遅れていて、哀れとしか言いようがない。『業界標準』を作るという名目をふりかざして、自社が独占するテクノロジーをもとに、次々と新製品を出している先頭走者に、いったい他の会社が追いつくチャンスなどあるのだろうか。

USニューズ&ワールド・リポート

これはMicrosoftのことではありません。Netscapeのことなのです。

ブラウザ開発

1994年4月に設立したNetscapeは、革命的なインターネットのシステムを次々と開発し、IT革命の先導者となっていました。

そうして同年1994年末には、Netscape Navigatorを開発しました。現在のInternet Explorerや、Safariのブラウザの原形です。

それまで、インターネットのアクセスには、極めて複雑なプログラミング能力が必要とされていました。しかし、Netscape Navigatorにより、電子情報が画像や文字として瞬時に認識できることが可能となります。さらに、クリック一つでネットサーフィンもできるようになったのです。

Netscape Navigatorは瞬く間に普及し、90%を超えることになります。

そうして、設立後1年余りの1995年8月に上場するのです。

株式公開は白熱し、28ドルの初値は、初日で54ドルの終値に達します。その後も順調に上がり続け、一時は170ドルを越えます。

Microsoftの参戦

当時のMicrosoftはWindows95を世に出すことに追われ、インターネットを過小評価していました。WEBやブラウザという言葉すら知らないMicrosoft社員も珍しくなかったのです。

しかし、インターネットの重要性に気がついたMicrosoftは巻き返しを図ります。

Netscape社はSpyglassにライセンス供与をしていました。MicrosoftはそのSpyglassからライセンス供与を受けることに成功します。そうして、Internet Explorerを開発し、Windows 95に無料でバンドルするのです。

無料配布の目的はNetscapeをつぶすことです。

しかし、それだけではありません。Spyglassへのライセンス料の支払いを回避することも意図したのです。

MicrosoftとSpyglassの契約は、Internet Explorerの販売額に応じてライセンス料を支払う内容でした。Microsoftは、Internet Explorerを無料にすることで販売額をゼロとし、無償でNetscapeのライセンスを使用することを狙うのです。

Netscapeへの投資

Microsoftの攻勢によりNetscapeのシェアの低下し、1997年11月には70%を切ります。

株価は最高値の4分の1まで下落しました。

そのときに、アルワリード王子がNetscapeへの投資を開始します。株価は36.5ドル、総額は1億4600万ドルにもおよび、Netscape株の5%にも相当します。

しかし、その後も株価は下落し続け、20ドル前半となっていきます。

1年後の1998年、AOLのNetscape社買収が発表されます。株価は40ドルに持ち直し、アルワリード王子は、辛うじて利益は確保することに成功しました。

すぐれた投資判断の背景

アルワリード王子の優れた投資判断はどこから来ているのでしょうか。その鍵は執務室にあります。

当時、アルワリード王子の愛用している黒塗りのデスクには、Apple製のコンピュータ置かれていました。さらに、そこにはNetscape Navigatorがインストールされているのです。

昼食時には、ペプシのダイエットコーラの缶が置かれ、移動には黒塗りのベンツが使われています。

すべてアルワリード王子の投資先です。顧客として商品を理解している投資先に厳選しているのです。

豪華ヨット

海の好きな王子は、愛用の豪華ヨットで執務をとることも珍しくありません。

そのヨットも、アルワリード王子らしく底値で購入しています。当時苦境に陥っていたアメリカの不動産王から安値で譲りうけたのです。その不動産王こそ、現在の第54代アメリカ大統領ドナルド・トランプです。

ITバブル崩壊

軽微の損失で乗り切ったバブル崩壊

2001年、ITバブルが崩壊します。IT企業から資金が引き揚げられ、市場にはバブルの残骸が取り残されました。宴に酔いしれたグロース投資家の大半が資産を無くし、市場から撤退を余儀なくされました。

しかし、アルワリード王子は、損失を軽微で留めました。高値を追わない投資スタイルが功を奏したのです。Microsoftですら最高値から70%以上株価が下落するなかで、『正気の沙汰』ではないと言われたAppleへの投資は、買値の3倍以上にも膨れ上がっていたのです。

市場から見放された企業への投資

さらに、アルワリード王子は、バブル崩壊による廃墟のなかで新たな投資先を物色します。

新たに投資先となったのは、失敗のビジネスモデルの烙印を押され、株価も10分の1となり、市場から見放されたIT企業です。

在庫を抱えないeコマースの利点を生かすことなくコストの高い倉庫を建設し、送料無料の経費から売上高が増えるほど赤字が増え、資金がショート寸前となり破綻も時間の問題と考えられていた企業。

Amazonです。

上場前の企業への投資

リーマンショック以降、アルワリード王子は、上場前のIT企業への投資へとシフトしていきます。

2011年に上場前のTwitterに3億ドルを投資します。

2015年には上場前の配車サービス業リフト(Lyft)へ2億5000万ドルの投資をします。

同年2015年に資産額は、320億ドル(約4兆円)に達していました。

慈善活動

敬虔なイスラム教徒であるアルワリード王子は、慈善活動にも極めて積極的に取り組みます。

イスラム教の開祖ムハンマドは、孤児として苦難の幼少期をすごしました。そのため、貧困層への支援を極めて重視し、『喜捨』をイスラムの義務と定めたのです。それは、富める者が貧しい者に富を分け与えることを意味します。

アルワリード王子も、イスラムの喜捨の精神を忠実に実行します。

住む場所のない貧困層のために住宅を1万戸建設しました。
貧民街に自ら赴き、直接支援をしていくこともあります。
洪水により交通が麻痺した地域には、物流の改善のため車1000台の自動車を寄付しました。

2015年には、全資産を慈善事業に投じることを表明します。

成功した事業家、思いやりのある慈善家、そして人権の協力な擁護者たるアルワリード王子。貧困層の救済をはじめ、女性の権利や教育、医療の向上に大いに尽力している。また、アメリカとアラブ世界、イスラム世界との関係強化を目指すカーターセンターの力にもなってくれている。平和で健全で希望のもてる世界を築くというわれわれの活動に協力してくださり、妻のロザリンとともに大変感謝している。

ジミー・カーター米元大統領

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