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美容医学を先導するアラガン(AGN)【買収するアッヴィ(ABBV)の展望】

投稿日:2019/7/6 更新日:

今年2019年6月25日にアッヴィ(ABBV)によるアラガン(AGN)買収が発表されました。

これを機会にAGNについて理解を深めていきましょう。ABBVへの投資で、買収先であるAGNへの理解を避けることはできません。

目次

M&Aの巧者アラガン(AGN)

沿革

アラガン(AGN)は、まさにM&Aにより拡大を遂げた製薬会社に他なりません。。

前身となるワトソン製薬は1985年に創業され、ジェネリック医薬品を中心に業績を伸ばしていきました。参入障壁が極めて高い製薬業界にあって、比較的参入の容易なジェネリック医薬品は賢明な選択と言っていいでしょう。しかも、先進国で医療費抑制という追い風もありました。

2012年には、スイスに本拠を置くジェネリック医薬品大手のアクタビスを買収し、買収された側のアクタビスに社名を変更します。

2015年2月に、そのアクラビスが、アイルランドのアラガンを買収し、会社名もアラガンとするのです。

もともと、旧アラガンは1950年に創業され美容医療で実績を築いていました。その旧アラガン買収後、ジェネリック部門をテバ(TEVA)に売却します。

本業であるジェネリック部門を売却し、買収先の旧アラガンの事業のみ残すというM&Aは、まさにダイナミックというしかありません。

グローバル展開

現在、AGNは、年間の売上げは150億ドルを超え、従業員数も17800人を超えるまでに至っています。

市場も、世界中の100カ国以上にまたがり、まさにグローバル企業です。確かに、売上高の割合を見るなら、その78%が米国に集中しています。しかし、美容医学の市場は、経済発展が著しい新興国でも大きく成長することが予想されています。

製品ポートフォリオ

ABBVとオーバーラップしないポートフォリオ

では、AGNの事業ポートフォリオについてみてみましょう。

まず、大切なことはABBVの主力商品と競合が無いかどうかです。ABBVの主力製品ヒュミラは、免役疾患に対するバイオ製剤です。その他、抗がん剤や、C型肝炎治療薬が主要なポートフォリオです。

その上で、AGNのポートフォリオを概観してみましょう。

美容医学 27%
神経医学 20%
女性医学 6%
眼科 23%
消化器 12%
その他 12%

どうでしょうか。ABBVの主要製品とのオーバラップほとんど無いことが確認できたのではないでしょうか。

ABBVは今回の買収により、美容医学、神経医学、女性医学などの高成長市場への布石を打つことができました。さらに、従来のABBVの製品とのシナジー効果をも期待できるのです。

美容医学

AGNは多くのメガファーマーと異なり、後発企業です。だからこそ、競争による消耗を避け、巧みに競争優位性を確保しています。その一つが美容医学への『選択と集中』に他なりません。他のメガファーマーが参入しない分野で競争優位性を確立するというAGNらしい戦略です。

美容医学での、最も重要な医薬品は、ボトックスです。年間売上高は20億ドル以上に達し、売上高の13%にも及びます。さらに、美容医学のみならず神経医学でも重要な位置を占めているのです。

しかも、ボトックスについては、他の医薬品と大きく異なる競争優位性があるのです。

まず、ボトックスは特許保護を受けていないのです。法的な独占権はなく、商標というブランドのみです。飲料のコカ・コーラや、コーヒーのネスカフェのようなブランドによる競争優位性と同じ構造なのです。

しかし、ブランド力による優位性から、特許に守られなくとも高い利益率も可能となっています。その結果、特許切れリスクを回避することができるのです。

ブランド力による価格決定力が可能な理由は、美容医療という特殊性にあります。化粧品ブランドや、シャネルのようなラグジュアリーブランドのようにブランドに付加価値を強く求める顧客を抱える市場だからなのです。

さらに、ボトックスそのものについて詳しく見てみましょう。ボトックスは、ボツリヌス菌が出す毒素を抽出することで製造されます。その毒素により筋肉の緊張を弱めることで、皺を取り除くのです。

筋肉の緊張を弱めることで、眼瞼の痙攣を弱めたりすることにも使用されます。そのようにして神経医学でも使用されているのです。

もちろん、特許保護がないことから、新規参入の驚異にさらされることは言うまでもありません。しかし、シャネルやエルメスと同様に、後発が確立したブランドを凌駕することはほぼ不可能です。たとえ、ある程度の市場シェアを失う可能性があったとしても、市場の拡大から、安定した成長が可能となっているのです。

美容医学市場は今後8年間で260億ドルに成長すると予測されています。市場成長率は年間10.6%にも達しています。製薬業界全体と比較しても極めて高い成長率であり、非常に魅力的な市場です。

痩身医療機器であるCoolSculptingも注目されています。

脂肪組織を冷却した場合に、水よりも脂肪成分の方が早く結晶化します。その際に脂肪細胞が崩壊し、脂肪組織を減らすことができるのです。CoolSculptingは、死亡事故の多い死亡吸引手術にかわり、高い顧客満足度を誇っています。安全性からも、今後の成長が期待されています。

ヒアルロン酸注入による皺取りに使用されるジュビダームも高い成長率を誇っています。

神経科学

神経医学でも主力商品は、先ほどのボトックスです。

その他にも、統合失調症治療薬であるVraylarや、うつ病治療薬ビブリドと主要な医薬品があります。

女性医学

女性医学の市場には、美容医学ほど高い成長率はありません。しかし、それでも年間成長率6%と極めて魅力的です。さらに、市場規模が大きいために、わずかなシェアの増加でも、莫大な売上の増加となるのです。

主な製品は、更年期障害のための女性ホルモン製剤や、避妊薬です。

眼科

眼科でも多様な薬剤があります。

緑内障やドライアイの点眼薬とはじめ、黄斑疾患治療薬であるオザーデックスもあります。黄斑疾患による失明は、スマホやタブレットによるブルーライトにより激増することが予想されています。

消化器疾患

消化器でも、便秘薬のリンデスや、潰瘍性大腸炎のアサコールをはじめ、多様な薬剤があります。

アサコールは、通常の分子医薬品にもかかわらず、強いジェネリック耐性のある内服薬です。ここにも、競争優位性を確立するAGNらしい工夫がなされています。

そもそも潰瘍性大腸炎は、その名の通り大腸の疾患です。AGNのアサコールは、特許では明らかでない成分により小腸で吸収されないで、病変のある大腸に到達するようになっています。逆に、アサコールのジェネリック薬の多くは小腸で吸収されてしまいます。小腸での吸収を遅らせる物質は、薬剤そのものではなく、薬剤を固定して錠剤成分のために、特許で公開する必要がないのです。

そのような理由から、アサコールに関して、ジェネリック薬変更不可の処方箋を発行する医師が少なくありません。

また、アサコールの効果が不十分の場合には、ABBVのヒュミラの適応が考慮されます。つまり、ABBVの製品とのシナジー効果も期待できるのです。

ファイナンス

売上高

売上高、キャッシュフロー、純利益のグラフを見てみましょう。

売上高は、2013年のアクラビス買収にて大きく伸びています。

しかし、2015年のアラガン買収後は成長が停滞しています。それは、特許切れによる影響が大きく関与しています。しかし、ボトックスによる成長から、売上の低下は免れています。

キャッシュフロー

キャッシュフローはどうでしょうか。

2016年に大きく低下しています。これは旧アラガン買収の費用によるものです。しかし、2017年には急激に回復していることから収益力は健在であることが確認できます。

しかも、2017年と2018年での売上高営業キャッシュフロー比率は35%以上です。それは高い競争優位性から価格決定力が保持されていることを意味しています。

現在、ジェネリック専業の製薬会社は、利益率が急激に悪化し、経営不振に陥っています。

ジェネリック薬部門をテバ(TEVA)に売却し、美容医療を中核とした付加価値の高いセクターにシフトしたことは、極めて優れた判断というほかありません。

純利益

利益を見てみましょう。

2016年にジェネリック部門をテバに売却したことから、大きな利益が出ています。

しかし、その後には大幅な赤字となっています。それは、減価償却によるもので経営上の問題ではありません。事実、キャッシュフローは極めて良好です。

株主還元

2017年からは配当が開始されています。

また、自社株買いについても、2016年は150億ドル、昨年2018年には28億ドルが投じられています。

もちろん、今回のAGNは買収される側であり、今後の株主還元はABBV側に委ねられます。しかし、ABBVは極めて株主還元に積極的ということが知られています。AGN以上の株主還元が期待できると考えていいでしょう。

買収額の妥当性

最後に、ABBVの買収額が高すぎることはないかについて検討してみましょう。

6月25日にABBVがAGNに提示した買収額は、約630億ドルにものぼります。1株当たり188.24ドルに相当し、6月24日の終値に45%のプレミアムが付いた価格に相当します。

しかし、額は数年前にファイザー(PFE)が提示した半分にすぎません。それは、AGNの株価が2015年のピーク時から60%以上も減少したことによります。

しかし、株価下落は、成長鈍化によるものであり、売上高が低下しているわけでもなく、収益性も極めて良好です。

そのために、株価は、買収前にはキャッシュフローの7倍程度の割安になっていました。ABBVによる買収発表後ですら10倍程度です。

ABBVにとっては、むしろお買い得と言ってもいいかもしれません。もしも、下落の際には、ABBVへの投資を検討しても差し支えありません。もちろん、個別株固有のリスクを勘案し、少額ずつの分割買いを推奨します。

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